殺人事件調査力技②
「珊瑚」
「あ、麗」
「考えごと?」
「ちょっと。気になっちゃって」
気づけば大道芸人は、再び手品を披露していた。
「あははは。私も。ホントは前から気になってたし、できれば器も売り飛ばしたい。でもさ、星輝の目が光ってたから」
「それそれ」
父親の反対を押し切って、私を逃す仕事をしてくれてるのに、余計な心配をかけたくなかった。
「正直、アレ、欲しい」
麗様は、私にだけ見えるように、こっそりと親指と人差し指で円を作った。お金。ベッドの下の大金を狙っているっぽい。
「……」
「どこのなんなのか、返さなくていい物だったら、私が貰うの、OK?」
「……え。それは」
「珊瑚だって、あった方がいいと思う。あれ持って、2人で消えてもいいんじゃね?」
「……それは」
「どうして?」
『とうぐう?』と麗様は口パク。
私はすかさず、首を横に振った。
「……じゃなくて」
「じゃ、星輝?」
「……私がいなくなったら困ると思う」
「困らない」
ずきっ
その一言には想像以上のインパクトがあった。分かっていたこと。星輝は自分の担当部分の仕事を成功させた。だからもう、困りはしない。
「麗の意地悪」
きっと、私の気持ちに気づいているくせに。
「悪い。じゃ、この話は後。まず、調べよ。私としてはさ、道徳心なんてないから、このままトんじゃうって手もある。けど、報酬分は働く主義だから」
カフェを出た麗様は、まず、不動産屋へ足を向ける。
「不動産屋?」
「顧客情報をペラペラ喋らないように教育しなきゃ」
「他のお客様がいたら……」
「じゃ、ここで待ってな」
麗様は、不動産屋の入り口前に私を置き去りにした。
日差しが強い。日光を避けて、小道の木陰に移動。待っていると、不動産屋の建物の脇から麗様と男が出てくるのが見えた。
「悪い兄さんだ。妻がいないとこに誘い出すなんて」
言いながら、男は麗様の肩を抱く。げぇぇぇ。
ガツッ
男は麗様の左手で両頬を掴まれて、壁に頭を打ちつけられる。
「ひっ」
「お喋りな男だ。人の住処を喋ってんじゃねーよ。ここに流れてきたんだ。察しろ。舌、切っとく?」
麗様は、震える男を左手で壁に押さえつけたまま、右手で腰の剣を抜いた。
男のズボンが濡れ、色が変わっていく。足元に小さな水溜りが広がる。
「あ。あ。あ。あ。」
麗様が押さえつけていた手を離すと、男はへなへなと地面に溜まった尿に尻を浸した。臭いが私のところまで届く。
麗様は剣を鞘に収めた。
「じゃな。次は、いろんなとこ、切っちゃうかもよ♡」
私、麗様を怒らせるの、絶対にやめとこ。次、麗様がベッドの下の大金を欲しがったら、どーぞどーぞって持ってってもらお。
見つからないように、店の前に戻って立っていると、笑顔の麗様が登場。
「おまたせ、珊瑚。あんなもんでいい?」
「……」
見学してたの、バレてた。
麗様は、総白髪の杖をつく老紳士についても情報を得てきた。ギルドの人たちからボコられた後、青峰さんの器を買ったかもしれないお金持ち。
「この街の人じゃない。メインストリートの高級宿に泊まる客らしい」
「高級宿の名簿でもあれば分かるのに」
「名簿なんてどーせ偽名だろ」
そう言って、麗様はメインストリートの高級旅館へ入っていく。
「ちょ、待って。麗」
「珊瑚は待ってて」
しばらくすると、麗様が出てきた。
「泊まるの?」
「ううん。ナンパしてきた。もうちょっとで仕事上がるって。あの店で飯奢ってもらうことんなった」
麗様は斜め前の居酒屋を指差す。
え? なぜ、ナンパした方が奢ってもらえるの?
「私はどーすれば」
「別のテーブルで飯食ってて」
「はい。」
麗様と25歳くらいの女の人がお店に入って行った。
少し経ってから、私も入店。運良く、麗様の隣のテーブルに案内された。麗様が女の人と会話を楽しむのが聞こえてしまう。
「もう。フロントで手ぇ握ってくるなんて。慣れてるんだ?」
「あんまり綺麗な手だったから。つい。ごめんね」
えーっ。私、こんなの聞かされ続けるの?
聞かされましたとも。笑い声に混じるべたべたした声の楽しい会話。そして、麗様は本題に入った。
「実はさ、用心棒に雇ってくれそうな金持ち探してるんだ。ここに金払いのいい総白髪の杖のじーさんがよく来るって聞いてさ」
「ああ。度氏様ね」
個人情報!
「へー。度氏様ってゆーんだ。もう用心棒足りてんのかな」
「坊やったら。そんな華奢なのに。あの方だったら、いつも強そうなの連れてるから。昔っから同じ人」
「えー。結構強いつもりなんだけどなー」
「やだぁ。これじゃ、港の男にのされちゃうわよ」
女の人は甘えた声を出して、麗様の二の腕を触っている。なんてさりげないボディタッチ。技だわ。
「港の男?」
「そ。あの方はね、Doってお茶の葉輸出してんの。だからね、港の男に舐められないガタイじゃないと」
!
お茶の葉。度って、東宮の第1側室の実家じゃん。
「だめかぁ」
「今、滞在中だよ。でもね、ムリムリ。ここだけの話、あの方のお孫さん、東宮にお嫁に行ったんだって。それくらい名家だから。貴族の武家の縁者くらいじゃないと、雇ってくれないんじゃない?」
「ざーんねん」
「アタシはぁ、ムキムキよりもぉ、しゅっとした感じが、タ・イ・プ」
女の人は人差し指で麗様の肩口をつん・つん・つんって突いた。麗様はすっとその指に自分の指を絡める。なんて滑らかで自然な動作。魅入ってしまう。
「マジで?」
「うふっ。職場はなんだから、別の旅館行こうよ」
お、お、おんなの方から誘っちゃってる。
「そ? そこまでしゅっとはしてないんだけど、いーの?」
麗様は、絡め取ったままの女の人の手を自分の胸に持っていく。
「! お、お、おんな?!」
「ふふ。どーもぉ。オマケに未成年です。てへ」
「詐欺だわ」
「ううん。お姉様が勝手に間違えちゃったの。職場にタレ込んじゃおっかな。あの旅館に泊まろうとしたら、別の旅館に誘われましたって」
「なんですって!」
女の人はぷりぷり怒りながら、それでも支払いをして店を出て行った。
一方、麗様はテーブルの上の食事を食べ続けている。
「麗、お疲れ様です」
恐る恐る声をかけた。
「第1側室って、チャドクガの人?」
「うん……」
「『印』絡んでるんだもんな。ヤバい人出てくるよね」
「……」
「そのジジイだったら、アレくらいの金、出せるよな」
「……」
「密輸をやってるジジイが、誰かに依頼して*させた」
「もういいじゃん。麗、ここまでで。アレは麗の物にして」
これ以上は、近づくと危険だと思う。
青峰さんは、何か理由があって殺された。
白骨になっても皇帝御用達の印を持っていた。
もう5〜6年も前のことほじくり返さなくっても。
「あら?」
「どした? 珊瑚」
「青薔薇磁苑の経営者が」
ちょうど、青薔薇磁苑の経営者が私達がいるお店に入ってきた。1人で。何か荷物を抱えて。
「ご挨拶すっか」
2人で挨拶すると、なぜか経営者は私達のテーブルに自然に腰を下ろした。元気がないご様子。
「どうなさったのですか? ため息をおつきになって」
「お嬢さんの高貴で雅な雰囲気、テンション上がるな」
経営者は注文をした。麗様は2食目、私はデザートを追加。
「下がることでも、あったんですか?」
麗様が尋ねると、経営者は一瞬眉間にしわを作った。
「昔々のリベンジや。今回もダメやったけどな。オレは青峰に勝てん」
悔しげに言いながら、布に包まれた木箱から蓋付きの器を取り出し、テーブルの中央に置いた。大きさは5寸。青峰さんが作った8寸のものより一回り小さい。形は同じ。模様は全く違う。




