白骨に触れますのよ
コッコッコッコケーッコッコッコ
青薔薇磁苑の経営者から貰った鶏は、今日も元気。麗様は貰ったとき、「食べよう」って言った。星輝に「シメるのは自分でやって」って言われたら、諦めた。そんな会話を思い出して、くすっと笑う。
でもね、星がいるから、いつか食べられる運命なんだろうなって思う。
持ってきてくれたときの鳥籠は小さかった。麗様と私が広めの鶏小屋を造った。見よう見まねで結構何でもできちゃうもの。両方とも雌って言われてたのに、ある日、ひよこがピヨピヨ言ってて驚いた。
鶏小屋がハクビシンに狙われたらしい。星が、退治したハクビシンを誇らしげに見せに来た。グロかった。
仕事は順調。ただ、何時間もかけて書写をしても、第3側室ピンク芍薬と第4側室紫陽花から貰った銀子や指輪分には程遠かった。麗様曰く、「世の中そんなもん」らしい。
ある夜、麗様は静かに私を見た。
「珊瑚。明日、星輝が使ってた部屋、片付けっか」
「そうだね」
星は仕事で私を逃しただけ。次の仕事がある。もうここへは帰ってこない。
「星輝さ、ここが楽しかったんじゃない? あいつ、もっと早く都へ行けたのに」
「旅も、ここでの暮らしも、楽しかったよね。麗、私、今も楽しいよ?」
「同じく」
私、星輝に花火のお礼、直で言わないままだったな。
3人で部屋を決めたとき、麗様と私は、板を買ってきて新しいベッドを作った。星輝は、元家主が使っていただろう、布団が残されていた部屋。星輝は、たくさんの小さな虫がいた布団を捨てて、荷馬車にあったのを持ってきて、ベッドはそのまま使っていた。今、その布団は残されたまま。
翌日、星輝が畳んだ布団を退けると、カビの生えた板があった。
「げっ! 星輝、こんなとこに寝てたんか」
捨てようと、2人でベッドを持ち上げる。ベッドの下、壁際に箱があった。一旦ベッドを外に出し、とりあえず箱の中身を確認。小袋に入った銀子がいっぱい入っていた。
「もう怖いよ、ここ。麗、なにこれ」
「さすがの私も、不気味でお腹いっぱい。勘弁」
白骨、行方不明、皇室御用達の器。大金まで。
残暑の中、汗を拭いながら、私は、これまで見ないふりをしていた白骨入りの窯を頭の中に浮かべていた。
この家に青峰さんが住んでいたのは確か。窯の近くにある作業場に多くの青峰さんの作品がある。完成品だけでなく造る途中のものまで。
「麗。青薔薇磁苑の人、青峰さんは、儲けに興味がないって。なのに。これ、銀子が同じだけずつ同じ袋に入ってる」
「どう見ても、一度にまとめて貰った金だよね」
「実は、ギルドの人達からの『ボコってごめんなさい』ってお見舞いかも」
「多過ぎ」
「そっか」
「青薔薇磁苑のオヤジは、ここが青峰んとこって知らなかったじゃん」
「そっか」
家も知らないのに、お見舞いに来ないよね。
「金銭トラブルで殺られたんかな。か、殺して逃げた」
と、麗様は、やっと窯の中にある白骨死体に触れた。
この家は、格子窓から風が吹き込むままになっていたし、不動産屋に案内されたとき、雨戸が閉まっていなかった。それは家主が突然いなくなったことを物語っていた。
白骨死体は事故死じゃない。窯の入り口は外から塞がれていた。殺人。
「ええーっ。どっちにしても誰かが誰かを殺して焼いたんだよね。怖っ」
「珊瑚、焼いてないよ」
「え?」
「服着た骨」
シュール。
「もう麗! どーして、窯開けちゃたのー」
と今更非難。
「窯ん中にも金目の器が残ってっかなーって思ったんだよ」
あのとき、麗様の目は $_$ こんなんなってた。あ。
「前歯」
「? どした? 珊瑚」
「青峰さんって、前歯、折られたって」
「ん?」
「喋ってたよ。ボコったとき、誰かが前歯折って悪かったって話」
「ごめん。頭の中、高く売れる器でいっぱいだったわ。で、前歯がどした」
「もし窯の中の骨が青峰さんだったら、前歯が折れてるはず」
「え。まさか」
「うん。そのまさか。確かめる」
「私は嫌だからね。珊瑚」
「うん。自分で確認する」
「マジで?!」
まず、ベッドを箱の上に戻した。カビ生えてるのに。しょうがない。大金の箱剥き出しは、ちょっと目立ち過ぎるから。
別棟の方へ行き、窯の入り口を塞いでいたレンガを除ける。それは麗様も手伝ってくれた。
「行きます!」
ぱんぱんと心臓部分を2回拳で叩いてから、窯の中へ身を低くして入っていく。
白骨は横向きに寝ていた。毛髪が頭のそばに落ちている。白骨の辺りは窯の床部分の色が黒っぽい。怖いよー。一旦ぎゅっと目を閉じ、両手を合わせた。
地面に自分の頬を着け、骸骨の正面に顔を持っていく。
星が見せてくれた血まみれのハクビシンの方がよっぽどグロくて怖かった。骨は、カラッと乾いている。実際の人間からかけ離れていて、死体というよりも、物に見えた。
前歯が欠けている。1本はかなり根本で、もう1本は真ん中で折れている。これは、青峰さんの白骨死体。
骨の鼻の部分の穴。少し開いた口。折れた歯の隙間から、ちらちらと頭蓋骨の中に何かが入っているのが見えた。
「失礼しますね」
そっと口の中を探る。青峰さんの折れた歯が、右手の甲に当たる。出てきたのは、四角いころんとした物だった。どの辺も1寸(3cm程)に満たない。
それを手に、窯の外へ出る。
「お疲れ」
「ご遺体、前歯が折れてて。青峰さんだった。でね、こんなんあった」
明るい場所で見ると、四角い物は、落款を押すための印だった。
「へー。気づかんかった」
「口ん中」
「っ。やめて、こっちにやんないで」
「麗、これ、皇室御用達の印」
「なんでそんなんが」
「なんでだろ」
「あー、もうっ。早く戻そ。珊瑚を見る目、変わったし」
窯の入り口を元通りに塞ぐ。皇室御用達の印は、なんとなく私が持ったままになった。
昼、朝炊いた玄米ご飯を丸めて食べる。味つけは塩。熊笹に包まれていた塩の塊から削ってかけた。器と箸の用意がいらなくていい。
部屋にある長椅子の上で、麗様は靴を履いたまま両足とも座面に乗っけ、肘掛けに背中を預けて体操座り。私はもう一方の肘掛け付近に腰掛け、玄米ご飯にぱくついた。
「殺されたの、青峰さんだったね」
「なんで口に印なんて入れてたんだろな」
「入れられた? 隠してた?」
「渡せって脅されたんかな。殺されても持ってるとか。ありえん」
「やっぱ、青峰さん、殺されたんだよね?」
「それしかないって」
「麗、どーする?」
「何もしない」
「できないね」
弔うことすら。そんな形跡が残ったら、私達が疑われてしまう。
「珊瑚、仕事は?」
「終わってる」
「気分転換に、ちょっと街で遊んでこよ」
麗様の提案で出かけることにした。忌まわしい家から離れたい。2頭立てだった荷馬車の馬1頭に、2ケツ。
最近、暑いからか、星は外出についてこない。日中は家の中の風通しがいい場所で寝ている。
いつもは「星も一緒に行こうよ」って言うのに、大金の箱を守って欲しくて誘わなかった。よろしくね。
「書いたの納品するね」
せっかく街へ出かけるのだから、私は書写した紙の束を持った。
蝉時雨の中、木立を潜り、街へ向かう。
「旨いもん、食うぞ!」
麗様は外食する気満々。
「あ、私、行ってみたいお店ある。メインストリートのテラス席。カフェかな」
どうだろ。カフェだと麗様NGが出るかもしれない。がっつり系じゃないから。
「行ってみよ。もうさ、一生分の金あるから、どこでも行っちゃうよ♪」
麗様は、ベッドの下にあった大金を自分の物にカウントしている。私は星輝じゃないから、窘めるなんてしないよ。実際に麗様がそのお金に手を着けようとしたら、止めると思う。……たぶん。自信ないけど。




