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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
逃避行

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人情の漢とちゃうで




プラムを持って、青薔薇磁苑(あおばらじえん)を訪れる。


「都から来たって、言っちゃダメだから」と(リー)様に言われた。杞憂だった。過去を詮索しないという南自治区の文化は強い。


青薔薇磁苑のまかないは美味しかった。味濃いめ。どーんと食べ応えあり。立ち上る湯気をはふはふしながら食べるのは最高。

実家や東宮殿は、品数が多くてもそれぞれの量は少ないんだよね。特に東宮殿じゃ、礼儀で残すから、食べた気がしなかったし。それに、毒味役に症状が出ないのを見てから食べてて、いつも料理は冷たくなってた。



「美味しいです♪」

「だろだろ?」



食後は見学。

見本が飾られている。青薔薇磁苑の磁器はどれもステキ。昨晩の食堂の皿は、ここの品だった。オシャレ。



「こっちのシリーズ、ウチに……」



そこまでで麗様に口を塞がれた。ウチにあったって言おうとしただけなのに。ダメなの? 麗様は首を小さく横に振り、案内の人に値段を尋ねた。



「こっちの金の縁取りの、細かい絵柄が綺麗ですね。いくらですか?」

「兄ちゃん、目利きだな。この窯元(かまもと)の最高級品、***だ」

「「うっわ。高っ」」



麗様と星輝(セイキ)は驚いている。私には、その値段が高いか安いかも分からなかった。普通の器っていくらなんだろう。麗様は『だから、しーっ』と口パク。そんなこと言われても。……なるべく黙ってます。


(かま)の近くは高温。夏が暑いとかってレベルじゃない。ここで仕事してるの?! と驚いた。

土の配合や窯の火の調節は、門外不出の企業秘密。ここで見たこと聞いたことは絶対に喋っちゃいけないと念を押された。


見学を終わり、再び食堂に戻ってお茶をいただく。

差し入れを大量にしたからか、大勢の人達がお礼を言いに来てくれた。経営者も来た。


そして、青薔薇磁苑を危機に陥れた、違約金の話になった。



土が採れる山を挟んで、青薔薇磁苑の反対側、()()()()()にイケ(だん)陶工があり、経営に行き詰まっていた。青薔薇磁苑は、ご近所で昔馴染みのイケ男陶工を買うことにした。

ここでライバル登場。猛禽製陶(もうきんせいとう)である。猛禽製陶は自治区の外にある窯元。


購入価格の提示は、青薔薇磁苑の方が猛禽製陶の1.5倍と高い。


猛禽製陶が買った場合、イケ男陶工の窯は閉鎖。従業員の半分は解雇、残りは猛禽製陶の窯がある遠くへ引っ越すことになる。兼業農家には自治区からあてがわれた農地がある。継続従業を諦めるか、農業を営む家族との別離かを選ぶことになる。


一方、青薔薇磁苑が買う場合は、看板が変わるだけ。


イケ男陶工は青薔薇磁苑を選び、M&A契約。


しかーし! 猛禽製陶側が「自治区ってちょっとヤバくね? 海外に製品流しちゃうじゃね?」と役人にチクった。自治区の製品が海外に流れるのは手出しできないが、それ以外の敷地で造ったものはいかがなものか。

つまり、青薔薇磁苑が自治区内で造った製品を密輸するのはグレーだけれど、自治区の外にまで青薔薇磁苑が広がることになり、青薔薇磁苑が密輸をするとOUT。自治区の外の役人としては取り締まらなくてはならなくなる。

そんな話になり、向こうの役人がM&Aを許さなかった。


契約を交わした後なので、青薔薇磁苑は、M&A契約の莫大な違約金を払うことになる。それは、契約金の2割増し。



「ひでぇ話だ」

「黙ってるんですかぃ?」

「猛禽製陶の思う壺だ」



働く人たちが文句を垂れる。当たり前。

①猛禽製陶はイケ男陶工を1の値段で買いたかったとする

②青薔薇磁苑は1.5の値段で契約

③契約破棄となり、イケ男陶工に違約金1.8が支払われる

 (1.5の値段の2割り増しで1.8)

④猛禽製陶がイケ男陶工を1で買う

⑤猛禽製陶はイケ男陶工が手に入り、

 1つになるわけだから、違約金1.8も猛禽製陶のもの。



「でもなぁ。契約書があるんだ」



経営者は深いため息をついた。

私は、不思議に思っていたことを質問。



「……あの、、、どうして潰れるようなところを買おうとなさったのですか?」 



経営者は迷わず言った。



「昔馴染みだから」


「さっすが(おとこ)だ」

「困ったときは助け合うもんだ」

「んだんだ」



働く人達は腕組みして感心しきり。

経営者は、そんな皆を追い払った。



「仕事せいや。まだここが潰れるとは決まっとらん」


「「へーへー」」

「「仕事仕事」」



皆が散って仕事に戻ると、経営者は少々声を落とした。



「お嬢さんや。なんでそんなことを思った?」


「猛禽製陶は分かります。良質の土の採掘所を残して、働く人の半分は解雇。残りを猛禽製陶で雇うとしても、多くの人は引越しがネックになってついてこないでしょう。でも、青薔薇磁苑の条件だと、マイナスを引き受けることになります」



それには星輝が回答を出した。



「販路ですか?」



経営者は大きく頷いた。



「自治区外の西側への販売ルートが開けるんや」



麗様は別の質問をした。



「昔からの馴染みってことですが、近所に同じように窯元があって、イケ男陶工の方だけが経営に行き詰まったのはどーしてなんでしょう」


「それはな、ウチが原因なんや」



土の山は南自治区の西の区境だけでなく、北の区境を超えて広がっている。


50年ほど前、南自治区は自治区になるための独立戦争をしていた。戦には、多くのジモティが参加した。それは南自治区だけでなく、周りの地域も。

そのとき南自治区は、捕虜を土の採掘や陶磁器造りの仕事に従事させた。戦が終わり、捕虜が解放されて自治区の外へ帰った。


山が繋がっている部分では同じように良質の土が採れる場所がある。帰った捕虜は自分達の地域で陶磁器造りを行うようになった。職人として技術的に未熟な分安く販売した。


イケ男陶工は、安い陶磁器に負けた。


麗様が追い質問。



「青薔薇磁苑は負けないんですね」

「品質が違う! 技術が違う! 腕が違う!」



経営者は自慢げ。



「イケ男陶工を買い取って、よい磁器をお造りになるおつもりだったのですね」



そう述べると、経営者は私をじーっと見た。



「お嬢さん、佇まいが高貴といいますか……」



なるべく早く喋るように練習したんだけど、それでもぽやっとしてる雰囲気がまだあるのかも。もっと庶民になりすます練習をしなくては。


経営者は契約書を持ってきた。



「兄ちゃん、見てくれ、この契約書だ。違約金を書き換えて、偽造したいくらいだ」



悔しそうな経営者。



「なさらないのですか?」



麗様は、すればいーじゃん的に尋ねる。



「あっちが同じの持っててできねーんだよ、兄ちゃん。違約金は契約金の2割り増しって決まっとるしさ、この国は契約書第一や」



完璧に男と思われている麗様。



「なるほど。参りましたね」



自治区には過去を詮索しないという文化があり、国には、違約金は2割増しとか契約書第一という文化がある。世の中にはいろいろ決まりごとがあるのね。



「違約金をいつまでに支払うという決まりごともあるのですか?」

「いや、お嬢さん、それはない」

「60年後とか、60年かけて払うなど、賠償金のようにできればよいのですけれど」



我が帝国は、北の国が攻めてこないよう、20年に渡り賠償金を支払っている。1回で支払ってしまえば、また攻められてしまうから。もっとも、支払っても、長い距離を接する国境で戦は絶えない。

窯元は国同士とは違う。そんなことは不可能だろう。



「そうか」



え?

経営者は考え始める。ちょっと待って。こんな世間知らずの小娘が言うこと、間に受けないでよ。


星輝は尋ねた。



「イケ男陶工のとりあえずの運転資金はどれくらいですか?」

「違約金の1/20くらいかな。そうだ! 20年かけて支払うって契約をしよう。そしたら、猛禽製陶にとって、買収の旨味が少なぁなる。ウチらが中からイケ男陶工を立て直したる」



経営者は拳を作って立ち上がった。


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