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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
伏魔殿

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42/133

うんPロードを進め

自由の身となったことよりも、(セイ)に会えた嬉しさが勝る。

星、めっちゃかっこよかったよ。無意識でやっつけちゃうって、強すぎ。天然。


地上に、(リー)様がいた。



「ごめんなさい。キモくて我慢できなくて、逃げてきちゃった」

「ちょうどよかったです」

「?」

「今日、第3側室と第4側室が後宮の芍薬(しゃくやく)品評会に出席されています」



麗様は、後宮への行き帰り、招待されている第3側室ピンク芍薬の馬車に乗せてもらうことになった。

だったら馬車で宮廷から出られる!


第3側室ピンク芍薬と第4側室紫陽花(あじさい)、その侍女御一行。だけじゃなく、たくさんの芍薬の鉢も一緒。


私が逃げたことが分かれば、出入りのチェックが厳しくなる。できれば皇帝が牢の中にいるうちに宮廷から出たい。



「まず、馬車まで行きましょう」

「わん」

「星、しーっ」



星はまだ興奮状態。嬉しさに私に体を擦り付けて来る。踏ん張っていないと倒れそう。自分が大きく成長していることを星はぜんぜん分かっていない。



「馬車は北の門です」

「え、ムリじゃん」



北の門は正門の間反対。いまいる場所は正門近く。北の門へ行くには、後宮をつっきらなければならない。不可能。後宮は、基本、皇帝と宦官(かんがん)しか出入りできない。



「とっておきの道があります」



麗様は人差し指をぴんと立てた。



「どんな?」

「うんPロード」

「……」



宮廷は広い。そして大勢の人が働き、生活している。当然、大小便の量も膨大。ぜんぜん考えたことなかったわ。


大小便は大きな壺に貯められ、様々な場所から宮廷の1箇所に集められ、回収業者に渡される。集められるとき、高貴な人々の目に触れたり、臭いで不快な思いをさせないよう、特別なルートがあるのだった。知らなかった。



「その道は、下働きの者も通るので、普通に歩いていけば大丈夫です。なにせ大勢の者が働いていますし、メンバーは入れ替わるので、顔バレもありません」

「じゃ、そこ行こう。うんPロード」



人目を避け、こそこそとうんPロードへ向かう。うんPロードへの扉の取手には、何やら茶色くガビガビの物が付着している。正体を想像しないようにした。


道はすかーんとストレート。


正面から何かを積んだ荷車が来る。隅に寄って道を空ける。星は自ら草むらの中に隠れた。すっごい臭い。大きな壺を数個積んでいた。は、鼻が。


通り過ぎると、普通に歩いていく。堂々とした方がいいとのこと。


今度は後ろから荷車が来た。道を譲る。すれ違う時に臭ったくらい。空の壺なのかな。

こーゆーお仕事あっての豪華絢爛な宮廷なのね。



「この道から後宮に入るの?」

「後宮には入りません」

「え?」

「馬車のところへ行きます。馬車は後宮に入れないので」

「御者が男の人だから?」

「なんでしょうね。妃が逃げ出さないようにというのもあるかもしれません。うんPロードからも、後宮だけは簡単に入れないんですよ」



麗様の何気ない言葉にぞくっとする。自分が行くかもしれない後宮は、東宮殿とは違う。血脈を守るための檻。


あの、皇帝の異様さは、歪んだ環境で培われた賜物だろう。そう思いたい。世の中の男の人がみんなあんなだったら、絶望。違うよね。だって、見張りの兵士3人は止めようとしてくれた。

あんなに素敵な皇太后様の息子で、恐らくまともな東宮とNo.15の父親なのに。



「ここから出られるのかな」

「取り敢えず、出ましょう。珊瑚様、大暴れしたじゃありませんか。捕まったら終わりですよ」

「そーだった」



皇帝に怪我させて、牢屋に閉じ込めたんだった。あっちが悪いは通用しない絶対権力者。


うんPロードだけあって、到着地点は護衛達のトイレ裏。なかなかのディープ。



(ほろ)がついた荷馬車に乗り込んだ。芍薬の鉢を運んできたもの。御者達は休憩所にいるらしく、馬車は空だった。



「どうしましょうか。東宮殿には帰れません」

「ごめんなさい。逃げるの、早すぎたんだよね」

星輝(セイキ)からの返事が来ないんです」

「……」

「珊瑚様が逃げたとなれば、探す場所は、東宮殿とご実家です。東宮殿に着く前に、馬車から降りましょう」

「はぃ」



麗様のことの方が心配。私が捕まったら、間違いなく、麗様も罰せられる。こんな仕事を引き受けたばかりに。



「んー。私はなんとかなります。まず、珊瑚様を見捨てても、自分は捕まりません。逃げる自信があります」

「安心。」

「都を離れればいいだけ。この辺りでは顔バレしてますが、他の場所なら大丈夫」


「私も麗みたいになりたいなー」



思わず本音がぽろり。カッコよ過ぎなんだもん。



「それってどんな?」

「一人でもなんとかなるって」

「もともと路上で生活してたんで」

「そっか」


「珊瑚様には難しいかと」


「私、周りに誰かいないとなんにもできないよ。情けない」

「貴族のお姫様ですから」

「それほど高位でもないし、側室の娘だよ」

「十分、上級国民です」

「東宮に嫁いじゃったもんね……」


「14歳なのに、謀反(むほん)の罪を言い渡されるほどの大物です。上級国民ならばこそ」

「だったら不起訴処分にしてほしいわ」



そんな話をしていると、荷馬車の御者が現れた。麗様が驚く御者を制し、説明してくれた。麗様は、第3側室ピンク芍薬と第4側室紫陽花を連れてきてくれた。



「お久しぶりです。お変わりありませんか?」


「珊瑚!」

「かわいそうに」


「そうですわ、これ」

「持っていきなさい」



ピンク芍薬は銀子を袋ごと渡して来る。紫陽花は両手にはめていた5つの指輪を外し、私の手に握らせる。



「そんな、受け取れません」

「ふふふふ。次に会ったとき、利子付きで返してください。トイチでかまいませんわ」

「じゃ、東宮の子供が生まれたら、私の一族の出世をよろしくね」


「珊瑚様、お願いですから受け取ってください。この先、金が要ります」



麗様に言われ、「ありがとうございます。ご恩は決してわすれません」と受け取った。2人とも私が帰って来る前提で送り出してくれる。本当にステキな女性。



「ふふふふ。星ではありませんか」

「よかったわね。ご主人に会えて」


(シン)が死ぬほど心配していますよ」

「絶対に帰って来るのよ! 珊瑚」



2人は東宮殿の馬車に乗り込んだ。

泣きそうになる。


そんなセンチメンタルは束の間。即、寝転んだ私の体の周りに芍薬の鉢が並べられていく。一際目を引く大輪の美しい芍薬があった。鉢には「皇后賞」と書かれた、赤地に金の縁取りの紙があった。

頭からムシロを被せられながら聞く。



「星輝の定宿近くで降ろしてもらいましょう」



星輝に会える! ムシロの下で顔が綻んだ。

定宿があるんだね。

会ったら、花火のお礼を言おう。


門を出るときは、護衛に荷台をちらりと覗かれただけ。



脱出成功。




ムシロの中から起き上がる。ふぅ。



「ね、ね、麗。東宮が独断で、武器や援軍を送ったことについてはお(とが)めなしなの?」

「そーなんですよね。兵士のおじさん達は、皇帝が軍部に忖度してるって話してました。兵糧は内閣やらなんやらを通すらしいのですが、援軍は軍部に決定権があるから大丈夫みたいです。で、その辺りの絡みから武器なんかについては触れられてないと」


「なんか(むず)そ。東宮殿にいっぱい兵士がいることに関しては大丈夫なのかな」


「それ、不気味ですよね。頃合いを見計らってるのかもしれません。一応、まだ武器は、皇太后様の船に隠してあるみたいですよ」



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