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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
伏魔殿

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41/133

実は武闘派ですの②

「第15皇子は、まだ都に入れないでいます」



(リー)様が教えてくれた。



「疫病だったの? 見張りの人達が第15皇子を都に入れないようにするための口実だって言ってたけど」

「口実です。軍の他の者達は帰ってきました」

「どーして」

「大勢を長く滞在させると費用が嵩みますから。皇子だけ残したのでしょう」


「皇子を都に入らせないようにしてるのって、皇帝?」

「のようです。皇帝は東宮を疎んでいて、東宮の腹心である第15皇子も嫌なのでしょうね。理由は分かりませんが」



皇帝は東宮を廃し末子継承にして、権力を維持しようとしている。そのことを(リー)様は知らない。



「皇帝、怪我してるかも」

「え?」



私は、麗様に、皇帝を2度撃退した話を披露した。



「私、強くなってるかな」

「一刻も早く逃げた方がいいですね。準備を急ぎます」

「ありがとう、麗。気をつけてね」



星輝(セイキ)と逃げる。一度目は私がそれを選ばなかった。ときどき思う。東宮が視察先で誘拐されたとき……。


もし星輝と逃げていたら。

もし、そのとき私を好きになってくれたらって。


庶民は好きな人と結婚するのが普通。でもって一夫一婦が一般的。だったら「自分だけを想ってくれる人と、たった1つの恋を貫く」という夢が叶っていたかもしれない。


なんて。


私が想像するのは、相思相愛の人と逃げて一緒にどこかで暮らすこと。けれど、そんなことは起こりはしない。

星輝は仕事として請け負ったから私を逃すだけ。逃して終了。また新たな仕事に飛び回る。その後、最悪私は、星輝に会えない。


ーーーオレ、気が狂うーーー


あの言葉だけで、ここまで囚われてしまうなんて。



アオーン アオーーン アオーーン



! (セイ)の声。



アオーン アオーーン アオーーン



寂しくてたまらない悲痛な遠吠え。

星、ここにいるよ。会いたいね。自分も遠吠えで答えたくなる。

もしここから逃げたら、もう、星に会えなくなっちゃうのかな。


想像しただけで涙が出てきた。星。


後から後から涙が湧いてくる。

ねぇ、星。ここは嫌だよ。

ねぇ、星。助けてよ。


投獄されてから、初めて流した涙だった。







懲りもせず、また皇帝が訪れた。

今度は屈強な2人の男を従えていた。

皇帝の顔の中央には白い布が貼られている。私が手枷の鎖をぶつけたときの怪我だと思う。



珊瑚(シャンフー)と話をしたい。出なさい」



皇帝は、まず見張りの3人を外に出した。

屈強な男が牢の鍵を受け取り、鍵穴にそれを差し込む。


きぃぃと蝶番が音を立て、格子の扉が開いた。



「抑えろ」



命じられた男が1人、身をかがめて入って来る。今ヤラなければ2人に増える。



ガツッ



私は、扉を潜る男の後頭部に、鎖付きの手枷を振り下ろした。



「う”っ」



繰り返し。



ガツッ ガツッ ガツッ



男の後頭部から血。どうしよう、死んじゃう。怯んで動きを止めたとき、男が倒れた。入り口を塞ぐようにうつ伏せになって。もう1人の男が、倒れた男の両足を持って引き摺り出す。



「何をしておるのだ。こんな小娘に。早くせいっ」



皇帝の言葉に、「はっ」と答え、2人目が入って来る。同じ手は使えない。屈強の男は股間の位置が分かる服装だった。その一点を目掛け、蹴り上げた。



「っ」



足枷と鎖の重さに足首が悲鳴を上げる。

効果は絶大。男は口を開いたまま、無言で辛そうに蹲る。



皇帝は、「使えない」と文句を言い、外で待機する見張りを呼びに行った。



「あの女子(おなご)が暴れて困る。取り押さえなさい」

「「「はっ」」」



見張りの3人は、倒れている男と蹲っている男を不思議そうに眺める。そして、首を傾げながら、牢の中に入ってきた。



「珊瑚様、失礼します」

「「失礼します」」


「こんなあばずれに、様などつけなくとも良いわっ」



皇帝は毒付くと、両腕を見張りに抱えられて身動きが取れない私を、舐めるように見た。



「ほう。まだまだだな」



皇帝は、閉じた扇子の先で、私の平らな胸を(つつ)く。キモッ。



しゅるっ



服の胸元の紐が解かれる。キモいキモいキモい。



「……こ、皇帝、お気を確かに」



私の左腕を捉えている兵士が、声を震わせながら、言葉を発する。紐が解かれても服を抑えてくれる。そうしてもらえなければ、布が落ちて脚が(あら)わになってしまっただろう。

右腕を捉えている兵士も布を抑えながら言った。



「珊瑚様は、東宮の側室であらせられます」

「ふん。それがどうした。この国の民は余のもの。この国の女子は全て余のものだ」



皇帝は、閉じた扇子で私の耳の下から顎を辿り、鎖骨の下に滑らせ、服の襟元を扇子の先で広げていく。精緻な竹細工の扇子で私の肌に赤い痕ができる。



「おやめください、皇帝」



見張りが止めようとする。



「こやつはな、余の鼻の骨を折ったのだぞ。可愛い顔をしおって。鬼のような女子だ。東宮は甘やかし過ぎだ。全く手を出していないという話ではないか。くだらない。さっさとすればいいものを」

「まだ子供ではありませんかっ」

「14は子供ではない。この女子が幼いだけだ。まるで棒のようだ」


「東宮は皇帝のご子息。珊瑚様は、その東宮の……」



その言葉に被せるように皇帝は苛立たしげに言い放つ。



「まだ言うかっ。お前の首を刎ねるぞ! いや、お前の家族の首だな」

「……」

「この女子は、あのクソ真面目で堅物な東宮を(そそのか)したのだ。昼夜を問わず話し合っていたときすら、東宮は東宮殿に帰るたび、この女子のところへ行ったと言うではないか」



皇帝の手が私の頬を撫でる。四角い白い布の両側に好色そうな目が笑う。



「女子はな、抱いてやれば可愛くなるのだ。宝石や身内のポストで更に脚を開いて尽くす。東宮は、そこを分かっておらん。女盛りの妻らを放置して。はっはっは。案の定、独寝の寂しさに、余に迫ってきおったわ」



ええーっ。誰誰誰。

ちょっ、やめて。皇帝が服の上から私の左胸を撫で始めた。触るな!!! 笑った目のまま、私の顔を覗き込んでくる。



「ん? どうだ? ここだろ? 感じぬか?」



悔しさに唇を噛み締め、目をぎゅっと瞑った。

今度は布越しに胸を掴もうとする。ないから掴めてないんだけど。キモ過ぎる。



「ほお、触られたこともないのか。余が教え、育ててやろう。楽しいぞ」



やっと止んだと思って目を開けると、眼を細めた皇帝の顔。



「珊瑚、お前も余のものになれ」



皇帝は私の前にしゃがんだ。



「少しは生えたのか? 愛でてやろう」



と私の下腹部に語りかけ、脱げかけの布に手をかける。

もう、ムリ!



ごちん



膝蹴りをしようとしたとき、皇帝の顔の方から私の膝に突っ込んできた。同時に私に大きな毛の塊が飛びつく。



「珊瑚様?!」

「「皇帝?!」



勢いで床に仰向けになった私は、「ぎゃっ」という皇帝の叫び声を聞いた。



「わん」



私の上に、星がいる。めちゃくちゃ笑顔。

皇帝がよろけたのは、星が私に飛びつくジャンプ台にしたからだった。


なんとか半身を起こした私は、星にじゃれつかれながら服を直す。星は大はしゃぎ。尻尾をふりふり歓喜の表現。けれど、狼が私を襲っていると思った見張りの兵士達は、あたふたと衝立などで星を追い払おうとする。

皇帝は腰を抜かして尻餅状態。顔に当てがわれていた白い布は真っ赤に染まっている。



「わおーん」



麗様のわざとらしい声がした。逃げる打ち合わせはまだ。でも、もう限界。


私は床に落ちていた鍵束を拾い手枷足枷を外した。それから、皇帝と見張りの兵士3人を牢に入れたまま、施錠。

見張りの兵士3人に告げる。



「お世話になりました。閉じ込めて、ごめんなさい」



逃げた。


服のイメージをSeartで作成してみました。


腰のところで上下セパレートです。「腰のリボンが前についている」と「ふわっとした羽織を羽織っている」の指示は反映されませんでした(AI)。15回程試行した中のベスト画像です。指が6本になってしまいました。


挿絵(By みてみん)


小説のバックグランドは、塩政が事実と違っていたり、大砲があったり、ちぐはぐです。異世界ファンタジーなのでご了承ください。服は、ふわふわした漢服が好きです。清の時代背景は好きですが、髪型を想像すると話が浮かばないのです。


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