表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
伏魔殿

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/133

実は武闘派ですの①


目覚めると土の床。私は、丸くなって眠っていて、牢の前に転がっていた皇帝の姿はなかった。



「目が覚めましたか?」

「……はぃ」



見張りの兵士達の声は優しかった。



珊瑚(シャンフー)様、何があったのです?」

「ぃぇ。……」

「鍵を」



手を差し出され、自分が鍵の束を握ったままだったことに気づく。おずおずとそれを、格子の間から渡した。



「寒いでしょう。どうぞ」

「ありがとうございます」



真新しい暖かい毛布が差し入れられた。地下だからか、空気がひんやりしている、まだ朝晩は寒い。



季節は梨の花が散って、芍薬(しゃくやく)が盛り。この後、紫陽花(あじさい)の季節が始まる。



(セイ)、寂しがってるだろーな。一日中一緒だったもんね。朝昼武術の稽古を見学して、庭で遊んで、夜は私の布団の上で寝ていた。



「ご両親が宮廷の門の前で座り込んでおられます」



見張りの兵士達は様々な情報をくれた。



「珊瑚様の父君が、薬を船に積んだのは自分だと訴えて」

「周りに見物人が集まって、広場がちょっとした騒ぎですよ」

「東宮は宮廷のどこかに軟禁されておられるのですが、場所までは分かりません」




朝食は、お盆2つに様々な品。どれも美しい器に入っていた。昨晩は、欠けた器に薄い粥だけだったのに。


食べていると、隣の牢に様々なものが運び込まれ、食後、そちらの牢に移された。

高価な敷物、椅子、ベッド、布団、衝立、着替え。トイレのときは牢を出て、地上の使用人用を使えることになった。普通は、狭い牢の中、仕切りもない場所におまるがあるだけ。更に、湯浴みまでできる厚待遇。


誰からも好かれるという呪いのせいかもしれない。

皇帝が私を見たから。

気絶させたんだけどな。



「珊瑚様が投獄されたのは、政治的なことがあるのでしょう」

「きっと皇帝も、たった14歳の珊瑚様をこんな目に合わせるのが不本意なのだと思います」

「我々は、なるべく珊瑚様が不自由なく過ごせるようにと(おお)せつかりました」



変なの。だったら、こんなとこに入れないでよね。

東宮が軟禁で私が地下牢って、なんなの。



トイレや浴室への行き来もあり、見張りの兵士達と話す機会は多かった。



「珊瑚様のご両親は、座り込みを断念されました。兵士達に剣で脅されて。周りにいた人も」

「そんな」



様々な情報が入る。



「戦から引き上げてきた者達は、疫病の恐れがあると言われ、都に入れないでいます」

「変だよな。船で帰ってきた怪我人は、そのまま受け入れてるんだから」

「確かに」

「第15皇子を足止めする口実だろ」



No.15が帰ってきた!

星輝(セイキ)は? 船だから、そのまま都に入ったの? 都に星輝がいるかもしれない。



日の当たらない牢にいると時間の経過が分からない。トイレのとき、日光を浴びると気力が回復する。


たっぷりある時間で、拳術の稽古をした。豪華な食事だけでは太ってしまうし、じっとしていると体がおかしくなりそうだった。兵士達はプロ。アドバイスをくれた。



「東宮からの差し入れです」

「渋いですね」



渡されたのは書物3冊。軍記物。

夫から妻への差し入れとしては、妙。

きっと、文があるのだろうと思った。ぱらぱらとページを捲り、紙が挟まっていないか逆さにしたりしていると、言われた。



「検閲済みです」



あらら。

本当に、ただの差し入れだった。有り難く読もう。




私は、暴れるという理由で手枷足枷がつけられた。



「不本意ですが、皇帝の命なのです」

「拳術の稽古のことが耳に入ったようです」

「すみません。珊瑚様」



ぼーっと過ごしている間にも状況は変わる。

(リー)様が来た。



「麗! 見張りは?」

「のびてます」



牢の格子に手をやると、ジャラリと手枷の鎖が音を立てる。



「どうやって入ったの?」

「私のファンが荷物と一緒に宮廷に入れてくれました。別のファンが部屋に匿ってくれました」

「さすが」



刹那落としの麗様。そこら中にファンがいそう。



「宮廷の下女の話では、珊瑚様は風呂にも入れる異例の待遇ということだったのですが。そうでもないみたいですね」



麗様は私の手枷足枷に視線をやった。



「ああこれ? 拳術の稽古してたのがダメだったみたい。

「なるほど」


「なんか変わったことある?」

「東宮は東宮殿に戻られました。それと。星の遠吠えがうるさくて、苦情が来ています」



あらら。寂しいんだね、星。



「来てくれてありがとう、麗」

「東宮に言われて来ました。『お前ならできるだろう』と」

「できたね♪」


「できましたが。宮廷に入るのが難しいので。一旦出て東宮に報告した後は、また来られるかどうか分かりません」

「そっか」

「堀と塀が。あれは猫の子1匹入れませんよ」

「麗は入っちゃったけどね」


「東宮は、自分の命に変えても珊瑚(シャンフー)様を助けると。だから、待っていてください。この投獄は不当です。周りの誰もがそれを分かっています」



麗様が去った後、しばらくすると、見張りの3人が意識を取り戻した。薬を嗅がされて気絶したらしい。




別の日、皇帝が来た。

嫌な予感しかしない。

前回同様、人払いをした。



「珊瑚。こんなところでも、綺麗な肌だ。若いとは素晴らしい」



皇帝は、鍵を開けて牢の中に入ってきた。

後退りするとき、足枷が足首に食い込む。


麗様から教わった反則技がある。殿方の大切なところを蹴る。それをすれば、特大ダメージを与えられるはず。


皇帝の服は腰にベルトはあるものの、ワンピース型。お腹が出っぱっていて、足の付け根の場所が推測できない。


近づいてきた皇帝に膝蹴りをした。つもりだったけど、下腹を掠っただけ。ここもお腹なの?!



「はっはっは。悪い女子(おなご)だ。ん? ん? どうだ、動けまい」



皇帝の顔が鼻先に近づいてくるとき、



ガツッ



思いっきり、手枷の鎖をその顔に打ちつけた。



「うっ」



皇帝が顔を押さえている。ガラ空きの腹に手枷ごと両手を力一杯突き出す。



げふっ



皇帝が床に膝をつく。気持ち悪い。嫌ぁぁぁ。

私は牢の隅へ身を寄せた。


皇帝が格子に手をついて立ち上がる。顔を抑える指のすき間から血。それは蝋燭(ろうそく)の灯りでぬらぬらと光っていた。

皇帝は這うように牢を出、呻きながらよたよたと歩いて行く。

私は急いで床に落ちていた鍵の束を拾い、牢に鍵をかけた。


遠くで「どうなさいましたか!」と騒ぐ声が聞こえる。

それが収まると、見張りの3人が戻ってきた。私は鍵を渡した。


足首が痛い。見たら、両足首周りが赤くなって、ところどころ皮が剥けていた。

麗様が前に言っていた「強くならないと狙われるので、強くなりました」って、こーゆーことかって思った。




麗様が来た。

見張りの兵士がいるのに、堂々と入ってきた。銀子でも渡したのだろうか。



「麗、どーしたの? 賄賂(わいろ)?」

「すぐ帰るから入れてってお願いしました。『断ったら力ずくだよ』って脅して」

「かっこいい♡」

「不毛な争いは向こうも嫌でしょうから」

「そっか」

「私が珊瑚様をここから出して、あとは星輝が逃すってことになりました」

「星輝。元気なの?」

「元気ですよ」

「私、ずっと会ってないよ」



会いたいな。



「あの〜。星が、家出しました」

「え」

「前回、私がここへ来た日、帰ったら、めちゃくちゃ匂いを嗅がれたんです。たぶん、珊瑚様に会ったことが分かったんでしょう。その後、いなくなりました」

「えー。ごはん、どうしてるんだろ、あの子」

「近くまで来ているかもしれません。ここの厨房で働いている者が、『豚の餌として買い取ってもらう残飯が、犬に荒らされる』と話していたので」

「星かも。大丈夫かな」

「大丈夫ですよ。どこから見ても立派な狼です。誰だって逃げます」

「そだね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ