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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
伏魔殿

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39/133

地下牢




満天の星。この空が、戦場にも繋がっている。

星輝(セイキ)とNo.15は大丈夫だろうか。怪我は? 病気は? 命は?


東宮殿から出ることもできない自分が歯痒い。もし男だったら、一緒に戦って助けられたかもしれない。


2人の友情は羨ましくて、尊い。


ときどき私のところへ、友達が訪ねてきてくれる。街のきらきらした話を聞くのが楽しい。とりあえず、麗様を呼ぶ。みんな喜ぶから。

おしゃべりは弾む。

けれど、私が東宮のことを好きじゃないとか、心の中で「おっさん」呼ばわりしてるなんて、とても言えない。でもね、本当はそれが、1番話したいことなんだよ。


友達の結婚相手をみんなでこっそり見に行ったとか、お祭りで出会った人と文を交わし続けてるとか、淑女教育の師がヒステリックで最悪だとか。そこに、私もいたかったな。

私のこと、「すごいよね」「羨ましい」って言ってくれるけれど、ここは、ぜんぜん、楽しい場所じゃないよ。なのに、楽しくないって言えない。


東宮殿から後宮へ行って年月が経ったら、私、心を許せる友達、いなくなっちゃうのかな。

今だっていないじゃん。東宮との夜伽が嫌って、誰にも言えない。


……。


言ってないけど、分かってくれてる人ならいる。星輝(セイキ)とNo.15。


2人とも、無事でいて。




東宮は、東宮殿にほとんど帰らず、宮廷内の軍部に詰めていた。

帰っても、湯浴みや着替えだけで、即、仕事に戻っていく。



珊瑚(シャンフー)。東の国の軍が引き上げた」

「よかった! 勝ったのですね」

「勝ったわけではない。嵐で東の国の船がいくつも壊れ、気づくと、嵐の後、帰って行ったそうだ」

「被害は」



No.15の無事を確かめたかった。でも、万が一を考えると、すっぱりと聞けない。そんな私に、東宮は優しく告げる。



異母弟(おとうと)なら無事だ」

「よかったです」

「周りの者が船で帰るように行っても、船には怪我人を乗せろと聞かないそうだ。陸路で帰ってくる」

「怪我をしていないのですね」



よかった。



「ああ。星輝は船で帰ってくるが」

「怪我を?」

「いや。東の国の武器を拾って帰ってくる。刀の切れ味が凄いらしい」



死の商人。

血の臭い。転がる死体。星輝が戦場の痕で血の着いた刀を拾い集める姿を想像し、ぞっとした。


No.15だって人間を殺す。土煙。(ひづめ)の音。槍で人を刺す感触を想像する。浴びる返り血。どくん、と心臓が嫌な音を立てた。



「疫病は大丈夫ですか?」

「村に医師団を送った。戦が終わって、やっと送ることができる。帰ってくる兵士達は、都に入る前に健康状態をチェックする。では、もう行くよ。戦の復興についての話し合いを聞かねば」

「東宮は聞くだけなのですか?」

「意見を求められれば話すが、皇帝でもなく、官僚でもない私に発言権はない」


「お仕事頑張ってください」

「っ。……。行ってくる」



早朝から深夜、ときには泊まり込みで会議に参加する東宮を尊敬する。







皇帝が湯治場から都に帰ってきた。お気に入りの妃を同行させていたことに皆は眉を顰めた。東の国からの軍が攻めてきた一大事だったから。


庇う気はないけれど、皇帝が出かけたのは、東の国から攻めてきたのが、まだ軍ではなく海賊だと思われていたときだった。

No.15に戦に行けと命じ、自分は湯治場へ行った。


でも、戦いが続く中、湯治場へは戦の情報が届いていただろうし。都に戻らない選択をしたのは皇帝。


取り沙汰されたのは、皇帝の言葉を仰がず、東宮が兵糧を送ったことだった。

皇帝が都に帰らなかったのは、東宮に尻尾を出させる罠だったとも考えられる。



「ふざけんな! 姫さん。どーして東宮が捕らえられるんだ」



兵士達は憤る。

東宮は皇帝のいる宮廷内に拘束された。



正室が、側室一同を集め、ことの次第を説明した。淡々と。

側室達は静かなまま。どこか他の国で起きた話を聞いているようだった。

私も含め、妻達にとって、東宮は家族ではないのだと感じた。



「おやめください!」

「何かの間違いでございます」

「とんでもありません」

「お待ちくださいっ」



部屋の外が騒がしい。侍女達が口々に叫んでいる。

物々しい雰囲気に、皆で扉の方を見ていると、役人が大勢入ってきた。


先頭の役人が(ひざまづ)き、正室に宣言した。



「皇帝の御命令です。第5側室珊瑚(シャンフー)様を謀反(むほん)の罪で連行します」



見知らぬ兵士が私の両脇を抱える。え? なんで?



「珊瑚!」

「無礼者」



第3側室ピンク芍薬(しゃくやく)と第4側室紫陽花(あじさい)が叫んでいる。


……なんか……よく分かんないけど……捕まっちゃた。


投獄された。


通常、悪いことをした罪人達は、都の外れにある役所施設の牢に入れられる。けれど私は、宮廷内の地下牢だった。

穴を掘りましたって感じの岩や土が剥き出しの空間。見張りが詰める場所すら平らじゃなく、机やイスが傾いて、ごとごと音を立てている。

私がいるスペースは、割と広い。土の床にむしろが1枚。


見張りは3人。1人がマーラーカオ(蒸しパン)を差し出した。



「お腹空くだろうから。食べてください」

「ありがとうございます。いただきます」



他の見張り2人も牢の格子のところへ来た。



「可哀想に」

「まだ子供じゃないか」

「こんな子供を。なあ」


「私はなぜ、捕らえられたのでしょうか?」



見当がつかない。



「謀反です」



WHY?



「東宮が疑いをかけられた。けれど調べていたら、誰かに(そそのか)されたと分かったらしいのです。それが」



見張りの兵士は私に向かって掌を上に向けた。


東宮は独断により、政府の手続きをすっ飛ばし、船で兵糧を運んだ。これが皇帝に背く行為と見なされた。船には多くの薬も積まれていた。薬といえば、私の実家。私が企てたと見なされた。

アホくさ。


多分、理由なんてどうでもいいんだ。

皇帝は、東宮が邪魔。けれど、簡単には潰せない。だから、東宮の周りを削っている。恐らく、作戦としてはこの上なく効果的。



「安心してください。誰もそんなこと信じていません」

「我々は、昼夜を問わず軍部や内閣にいた東宮を見ています。東の国との戦を鎮めようとなさっていた。前線に兵糧と援軍を送る決断をなさったことに、皆が喜びました」

「薬があっただけで、どうして。東宮殿から出ることもできない側室を捉えるのか」

「おいっ。誰か来る」

「珊瑚様、早く食べてください」



私は急いでマーラーカオを頬張った。



「「「皇帝にご挨拶を申し上げます」」」



皇帝?



「ご苦労。しばらく出ていなさい。2人で話をしたい。鍵はそのままでいい」

「「「はっ」」」



3人の足音が遠ざかり、1人の足音が近づいてくる。

私はひれ伏した。皇帝の靴先だけが見える。



「顔を上げよ。余はまだ、其方(そなた)の顔を見たことがないのだ」



ゆっくりと顔を上げると、下卑た視線があった。

皇帝はしゃがみ込み、蝋燭(ろうそく)を持ってきて私の顔を確認する。



「なるほど。美しい。その顔で泣けば、兵士3人くらい、たぶらかせるだろうな。だが、余は騙されん。美しい女子(おなご)など見飽きるほど見てきた。女子が美しいのは当たり前。男をどれだけ喜ばせるかが魅力というもの」



皇帝は、鍵が数個ぶら下がる輪を手に取り、蝋燭の灯りで鍵の番号を確認する。そして。



ガチャガチャ



狭い牢に入ってきた。



「もうあれから成長したのか? 余は膨らみかけの乳というものを見たことがなくてな」



びしっ



私は皇帝の後ろに回り込み、首筋後ろに手刀を振り下ろした。



ばたん



皇帝が床に転がる。


気絶した皇帝を牢の外に引き摺り出した。それから、自分は牢の中に入り、鍵をかけた。

牢の壁際で鍵を持ったまま、ぎゅっと目を閉じる。

これで、安全。



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