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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
塩将軍

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34/133

国土はほぼ僻地です




東宮殿の(うまや)では、お馬番がお酒を飲んでいた。

夕方。飲んでもモラル的にOKな時間帯。基本、始まりも終わりもない仕事。常に勤務中だから、本来なら、いつ飲んでもいいのだけれど。

傍には乾燥芋があり、お馬番の前に犬がぴしっとお座りをして、それを貰おうとしていた。

都の塩の値段が、元に戻ったっぽい。




日中、武術の鍛錬はいつも通り行われていた。何事もなかったかのような日常があった。


船で乱闘に加わったことは、大きな自信。今までの「私なんかが」って心の中の声が「私だって」に変わる。



「姫さん、気合い入ってますね」

「先日は、お疲れ様でした。気合い入ってます!」



No.15、星輝(セイキ)と一緒に、東宮の視察地へ行った兵士だった。



「姫さん、あのときは、お見事でした」



乱闘中、私を見る余裕があったんだ。だよね。星輝だって助けてくれた。

今だったら聞いてもいいかもしれない。



「頑張りました。普段はどのようなお仕事をなさっているのですか? もし、口外できないのなら、いいのですが」

「船の積荷の上げ下ろしです」



兵士は、自分の太い腕をぺちぺち叩いた。

他の兵士達も集まってきて、いろいろ教えてくれた。



「オレとこいつはな、包み直してる。塩はでかい袋に入ってるんだ。そんなん、普通の家じゃ使わない」

「姫さんも見ただろ。熊笹に包んであるやつ」


「はい。あれは闇塩(やみえん)ではないのですか?」


「はっはっは。向こうが勝手に思い込んだだけだ」

「でかい箱から、いきなり小っさい包みが出てきたからな」

「普通、でかい商いは袋でする」

「見た目は普通の塩も闇塩も一緒だよ」


「知りませんでした。なんだか楽しいです」


「楽しいって?」


「はい。知らなかった話に、わくわくします」


「はっはっは。いけない姫さんだ」

「「「ははははは」」」


「他の地域にも、塩を小さな包みに分ける人達がいるのですね」



塩商(えんしょう)とは政府公認の塩の商人を指す言葉。けれど、中身は大きく2種類あるのだと教えてくれた。


1つは、国境付近の警備や小競り合いの戦場に兵糧を収めて塩証文(えんしょうもん)を入手する塩商。塩証文を塩に変え、塩証文指定の地域にそれを運ぶ。


もう1つは、そういった塩商達が運んできた塩を地域で引き受け、小分けにして人々に販売する塩商。


どちらかといえば、後者の方が巨大な富を持っているらしい。



「偽の塩将軍を(さら)ったのは、ヤツらです」



なるほど。

地域密着型の塩商は、塩の値段にいろいろこみこみ後のせさくさくで、稼ぎたい放題なのだとか。同じ地域の塩商達で結託して塩の値段を高い位置で安定させる。



「塩の値段を高くし過ぎたら、塩商の免許を剥奪するなど、罰を与えたりしないのですか?」


「姫さん、ルールってのは官僚が作ってる。自分らが懐を温っめたせいで塩が高くなるのに、そんな決まり、作るわけがない」


「民衆のために働くことが官僚の仕事だというのに、民衆を苦しめる側にいるなんて」


「姫さん、それが現実ってやつさ。はははは」

「そうそう。上級国民さね」

「成れなかったオレらが負け組」

「「「はははは」」」



東宮から聞いた話について詳しく知りたい。



「塩商達は、僻地へ塩を売りに行かないのですね。そこに住む人が可哀想です。塩は必要なのに」


「姫さん、商売人が損する仕事をするわけないって」

「そーだそーだ。オレだって損は嫌だ」


「損するんですか?」


「う〜ん。厳密には儲からないこともない。ただ、他の地域の1/10も儲からない」

「他が爆益だからな。1/20くらいかもな」

「手間や苦労や日数考えたら、1/40?」


「ええーっ」


「他で儲かるのに、なんでわざわざ」

「オレが塩商だって、そんな仕事はごめんだ」


「しゃーない。不便なとこに住んでる者は。塩だけじゃない。米は作ってたとしても、他の物買うときは、どっか、近くの街まで出るしかない。そのときに買うだろ」

「まあ、街じゃないよな」

「そうだな。あるのは、自分らんとこより、ちょっとは大きいって程度の集落。店がなくても、その村の誰かが、他の物と塩を交換してくれる」

「その村かて、大きいとは限らん。どうしようもない山奥じゃなくて、ただの山奥や」

「この国広いから。そこら中、そんな不便なとこばっかさ」

「僻地には、たまに行商が行くんだよな。服とか薬売りに」


「だったら、その行商の方が塩も売ればいいですよね?」


「姫さん、塩の販売は塩商しかできない」

「そうさね。その塩商が死んだら、その息子1人だけ」


「厳しいですね」


「甘いですよ」


「え?」


「たくさん賄賂(わいろ)を送って、接待して、やっとなれるのが塩商。なってしまえば、爆益。それを長男はするっと手にいれるんだから」

「まあ、店も官僚も世襲っす。この国は」


「官僚は科挙があります」



ちょっと否定。



「姫さん、試験受ける環境は貴族だけのものや。それに、官僚の上の方の人らの息子は、不正合格できるって有名な話や」

「世襲世襲。農民は耕す田んぼを世襲やぞ。いらんし」

「皇帝も世襲」

「おい、こら。東宮の奥方に向かって」


「あはは。大丈夫ですよ。気にしないでください」


「誤解しないでください。オレらは、東宮のやり方を気に入って、納得して働いてるんで」

「オレもそーや」

「「オレも」」







空が高く澄んで、すっかり秋。

No.15は、相変わらず(セイ)と仲がいい。いつも庭からやって来る。星はそれを待っている。



「よ」


「わん」

「皇子」



皇子は、武術の鍛錬をしているときの服だと、星とプロレスのように転げ回って遊ぶ。髪も服もくしゃくしゃの毛だらけ。ついでに顔もくしゃくしゃにして笑う。



「皇子。星が大きくなったから、襲われてるように見えるよ」

「知ってる」



肯定。寝転んだNo.15の上に、腹ばいの星が乗っかってる。



「ぐーぐーぐーぐーぐー」

「星、お前の肩、ここ? お、そーか。凝ってないか? もみもみもみ。うわっ、よだれ」

「ぐーぐーぐーぐーぐー」

「はっはははは。捕まえた。抜け出してみ。ホールド」

「ぐーぐーぐーぐーぐー」



精神年齢が5歳で止まっているNo.15に聞いてみた。



「ねぇねぇ。塩証文って、適当に発行されてるの?」

「んなわけねーじゃん」

「賄賂渡せば、希望の地域に塩を売れるんでしょ? だったら、適当じゃん」


「国の全部の地域の塩証文が作ってあるんだよ。だいたい人口に合わせて。結構細かく」


「そーなの?」


「塩の産地は何ヶ所もある。都に国中の塩を集めてから配るなんてやってたら、効率が悪いから。なるべく塩の産地に近い地域に売るようになってる。塩証文は全部の地域のが揃ってる。塩商が希望の地域を指定するとさ、塩官(えんかん)は塩証文の中からそれを探して渡すって感じ」


「そーなってんだ。じゃ、人気のない地域ってどうなるの?」


「塩証文が余る」

「え」

「で、塩官が困る。終わり」

「困るだけ?」

「そ」

「そんなの、その地域の人、困るじゃん」

「闇塩」

「え”ー」

「今までもそれでなんとかなってるから」


「ね、僻地には、行商の人が服とか薬を売りに行くって聞いたよ」

「ん?」

「その人に塩も売って貰えばいいじゃん。特別に」

「塩商じゃない」


「だから特別に。証文が余る地域って決まってると思う。その地域だけは、行商の人や普通のお店の人でも塩売っていいですよって、特別に許可するの。その地域は塩証文を発行しないで、行商の人が塩官から塩を買って、売りに行くの。か、お店の人がそれをする」


「いいかもな。塩商はでかく儲けること考えるけど、零細なら、もともと商いは小さい。運搬の手間を考えても、塩は儲かるから売りたいだろうな」


「ホント? いい? そう思う?」


「思う。ひょっとすると、ジャイアントキリングんなるかも」



????




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