奪還のロケット花火
タスカッタ。
皇太后様と共に歩く。いつもだったら現れる、私担当の侍女達が来ない。酷い。杏、私の味方じゃなかったの?
半ばショックを受けながら、気づく。星までいない。
「星を見ませんでしたか?」
「あの子、さきほど、向こうで第15皇子といましたよ。花火をしていたわ。第15皇子ときたら、まだまだ子供ね。微笑ましいわ。ほーっほっほっほ」
きっと星輝も一緒にいる。
足が勝手に動き出す。
「すぐ戻ります」
「犬は他の者では呼べませんものね」
会いたい。星輝に。
次、いつ会えるか分からないから。
「星!」
見つけた、星輝。No.15と星。
「あれ、珊瑚じゃん」
「珊瑚様」
星が私に飛びついてくる。
「今日はありがとう」
星を撫でながら、私は星輝を見る。
「東宮を助けるのも仕事です。今の我々は東宮あってのもの」
そうじゃなくて、私は、自分を助けてくれたことにお礼を言いたいだけ。
ーーーオレ、気が狂うーーー
たったあれだけの短い言葉で、心の中が星輝に埋め尽くされる。
「なーなー、オレは? オレ、オレ」
「クーンクーンクーンクーン」
No.15と星が、星輝と私の間に顔を出してくる。なんか似てる。
「かっこよかったよ。1番かっこよかったのは、皇太后様だったけど」
「「ははははは」」
「花火?」
フランクフルトみたいな棒に筒状の何かが刺さってる物がいっぱい。フランクフルトからは、細くねじねじしてある紙縒が出ている。
(この小説は中華風ですが、異世界ファンタジーです)
「そ。珊瑚がさ、楽しそうな音で出てくるかもって」
No.15はそう言った。星輝もNo.15も、私が東宮の部屋に連れていかれたことを知ってたんだね。……なんか。嫌だな。
今の自分は、普通だったら人前などに出られない服装。寝巻きの上に1枚羽織っているだけ。夜伽のための。なんて汚らしい格好。
「楽しそうな音?」
「おう。もう、珊瑚出てきたから、星輝、どーする?」
「私?」
「もし嫌だったら、こっちに来れるくらいの音」
「……」
「皇子、そーゆーのゆーなって」
星輝はNo.15の頬を人差し指で弾いた。
「痛っ。止める? やっちゃう?」
「今やらないと、湿気ってできなくなる」
「そっか」
返事と同時に、No.15はフランクフルトについている紙縒に着火。
地面に刺してあったフランクフルトが飛んでいく。うっそ。
ひゅんっ パン!
宙で音を立てて弾けた。火の粉、火花、煙。
「すごーい! こんなの初めて見たよ」
ぱちぱちぱちぱち
思わず拍手。星は驚いて、私の服の中に隠れてる。
「オレらが作ったの。な、星輝」
「こーゆーのもありますよ」
星輝は、紙縒の先に火を点けて、小さな火花をぱちぱちと出す。
「これ、やったことある! これも作ったの?」
「はい」
途中から持たせてくれた。星輝の指が触れそうになる。大きなごつごつとした手。生まれる火花に照らされる星輝の横顔は、日に焼けて浅黒くて、まつ毛が長くて、鼻筋が綺麗で。星輝の口角が少し上がるだけで、自分への好意って感じてしまう。
渡された花火は、あっという間に終わった。本当は結構長かったのかもしれない。星輝にばかり目が行って、星輝からの視線を意識して、時間の感覚がなくなったから。
「ありがと。花火作っちゃうなんて凄いね。皇太后様が待っていらっしゃるから、行くね。じゃね」
「またな」
「お元気で」
パタパタと走って、皇太后様のところへ戻った。顔が自然に緩む。会えた。それだけで嬉しい。
「お待たせいたしました」
「さあ、珊瑚、行きましょう」
「はい」
不意に背後で連続音。
ひゅんっ パン! ひゅんっ パン! ひゅんっ パン!
一瞬空が明るくなり、振り向くと、煙が見えた。
皇太后様の見送りに出ていた、No.15のお付きの人が走り出す。
「おやめください! 皇子ぃぃぃ」
そして、空が輝く。
ひゅんっ ひゅんっ パン! パン! ひゅんっ ひゅんっ パン! パン! ひゅんっ ひゅんっ ひゅんっ パン! パン! パン! ひゅんっ パン!
建物の中から次々と人が飛び出し、兵士達が音の方へ駆けていく。
「はぁ。……私達は行きましょうか」
「「「「はい」」」」
皇太后様はため息をついていた。
「また、第15皇子のお付きの者のは、腰痛が悪化するのでしょうね。気の毒に」
東宮が、一人、馬車の前に立っていた。他の者達は花火の方へ行ってしまったのだと思う。
「皇太后様、お体にお気をつけください。もう御年なのですから」
「女性に年齢のことを言うのは御法度ですよ、東宮」
「心配しているのです」
「邪魔をしたから仕返しなのかと思いました。ほーっほっほっほ」
「次はお控えください」
「ほーっほっほっほ」
「珊瑚、風邪をひかないように。気をつけて」
「はい。東宮も」
「珊瑚が来てくれたから、私は元気だ」
「ほーっほっほっほ。ここの見送りはよいので、第15皇子のイタズラをなんとかしてはいかがですか? ここであの者を叱れるのは、東宮だけですよ」
今は、東宮もNo.15を叱れない。小島から自分を助けてくれたから。
「困りましたね。では、火薬を使い過ぎたことだけ注意しましょう。珊瑚、おやすみ」
「おやすみなさい」
「珊瑚……」
「東宮、きりがありません。第15皇子を!」
「はい」
東宮は、皇太后様に追い払われる形で、花火の現場へ向かった。名残惜しそうに振り返りながら。
「あのように何度も振り返られては、こっちはいつまで手を振り続けるのやら」
皇太后様は呆れていた。
3日ほど滞在した。
星輝とNo.15の帆船は、花火の日の翌日には出港してしまった。兵士達にも船にも通常の業務があるから。
「花火の一件は、どうなさったのですか?」
東宮に尋ねた。No.15は怒られなくても、星輝が罰を受ける可能性はある。
「みんなで2人の花火を見学したよ。まったく。あの2人は」
なんだか嬉しそう。
2人は、火薬に混ぜ物をすると炎の色が変わると言い、いろいろな色の花火を披露したらしい。
「私も見てみたかったです」
「綺麗。みんな楽しそうだった。星輝がいろいろなことを知っていて、異母弟が、それを実行する。感謝しているよ。あの2人だったから、私を助けられたのだろう」
「そうなのですね」
「私の周りには、大勢の者がいる。だが、泳いでまで小島に来てくれたのは、異母弟だけだ。私は絶対に異母弟を手離さない」
それは決意にもにた響きだった。
帰路、キッチン線のラーメンを食べたのは、皇太后様と麗様だけ。
「よう、そっちの姫さんは食わねーんですかい?」
キッチン線のご主人が私に声を掛ける。
「今は、お腹がいっぱいなのです」
「そうかい。今度、腹空かせてここに来てくだせぇ」
「そうします」
「ウチのは、貴族の方にはちょっと塩辛いかもしれないな。力仕事するヤツらは濃い味が好きなんですよ」
「塩が多めなのですか?」
「おうよ。特に上に載ってる野菜に。塩将軍様様だ」
「塩将軍?」
「海の方の塩商らがな、塩将軍と間違えて、雑魚拐っちまったんです」
「雑魚……」
「塩商らは、雑魚と気づかずにそこらじゅうの塩を値上げした。したら、本物の塩将軍が怒っちまって。また元通り!」
「よかったですね」
「ここだけの話。塩将軍はさ……」
そこからキッチン船の主人は声を落とした。
「……塩マフィアだってよ」
「まぁ!」
私も小声。
「派手な妖怪って話だ」
「……」




