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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
塩将軍

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31/133

大団円

どきどきどきどき



心臓の音がいつもより大きい。

護衛がお付きの人のことしか報告しなかったから、No.15は今いない。でも、No.15も一緒って考えるのが普通。

どうしよう。塩やたくさんの兵士のことがバレてしまう。



メインの船室は広かった。その奥に仰々しいイスがあり、No.15のお付きの人がぽつり、腰掛けていた。



「こ、皇太后様!」



お付きの人は、イスから飛び上がって驚き、そのまま固まる。急いで駆け寄って支えた。



「大丈夫ですか?」

「腰、腰が。こ、皇太后様にご挨拶申し上げます。申し訳ありません。ふー。ふー。ふー」



相当腰が痛いのか、挨拶することもままならない様子。



「楽にしなさい」



皇太后様は護衛達に目配せして、No.15のお付きの人をイスに座らせようとする。けれど、皇太后様が立っているのに自分が座るなどできないと、傍に積み上げてあった箱にもたれた。それを見て、皇太后様は、少し離れた場所にあったイスに腰掛けた。



「これでどうじゃ?」

「お心遣い、痛み入ります」



お付きの人はやっとイスに戻った。



「皇太后様、お久しぶりでございます」

「第15皇子と一緒に後宮から若葉宮へ移られたと聞いております」

「はい」

「マントと仮面で変装しても、私と分かりましたか」

「もちろんでございます。威風堂々たる佇まいは隠すことなどできません」


「ほーっほっほっほ。お上手ですこと。ところで、その紙はなんでしょう」



皇太后様は、イスのところに落ちていた紙を拾い上げた。お付きの人が落としたのだろう。



「あ、それは。その」


「何かのお芝居のようですね。『私が塩将軍(えんしょうぐん)だ』『あんな雑魚と間違えられては不愉快だ』『歯向かうのか?』『無謀なヤツラめ』『闇塩(やみえん)などいくらでもあるわ』『ここにあるのはほんの一部』『小賢しいことをするとこれらをバラ撒くぞ』。『セリフは臨機応変に』」


「お芝居、お芝居でございます」



これ、No.15がお付きの人に塩将軍をやらせようとしてる?


私はNo.15に言われて、父に文を送った。「本物の塩将軍が怒っている」という噂を流してほしいと。父は外聞屋(がいぶんや)の仕事として請負った。



「なんだか楽しそう。第15皇子はユニークですこと。ほーっほっほっほ」


「皇太后様、こちらにいらしてはお芝居が始まってしまいます。とても危険なお芝居でございます。美しい皆様が怪我をなさっては大変です。どうか、この船からご退出ください。お願いいたします」



No.15のお付きの人は、腰を庇いながらも頭を下げる。


その時、大勢の足音が聞こえた。やってきたのは、No.15、星輝(セイキ)を含む、何人もの私服の兵士達だった。

第15皇子が恭しく頭を下げた。



「皇太后様にご挨拶申し上げます」



マントに仮面姿の皇太后様に、皆が一斉に(こうべ)を垂れた。



「「「ご挨拶申し上げます」」」



うっわー。壮観。これだけ大勢の頭頂部を見ることってなかなかないわ。


皆がまだ(こうべ)を下げているとき、新たな足音と共に大勢の男達がやってきた。身なりの良い年配の男数名とガラの悪い男達。入り口に詰まっていていて、その他大勢は見えない。



「なんだなんだ。お前が本物の塩将軍か?」



身なりの良い男の1人が口を開いた。視線の先は、皆が首を垂れる先。



「その(ほう)、今、『お前』と申したか?」



静かな空間に、凛とした皇太后様の声が響き渡った。



「それがどうした」

「ほーっほっほっほ。知らぬも当然」

「何笑ってるんだっ。バカにしやがって。やれ!」



号令と共に、その他大勢の男達が入ってきた。手には剣や竹の先を尖らせた物を持っている。



「「「「きゃーーー」」」」



侍女達が部屋の隅に固まる。皇太后様はゆっくりとイスの背に体を預け、脚を組んだのだった。



「あら、なかなか臨場感のあるお芝居ね。素晴らしいわ」



皇太后様がそう思うはず。相手が武器を持っているのに、護衛達が強すぎて、血が一滴も流れない。私服の兵士達も鮮やかな動き。気絶させられた人が積み上がっていく。


皇太后様を狙う者は、(リー)様が華麗にぶちのめす。



珊瑚(シャンフー)様、チャレンジしてみてください。練習になります」



と余裕の麗様。そんな怖い。……と思っていたら、向かってこられた。あ、ホントだ。麗様よりぜんぜん遅い。私は右手で男の竹を持ち、バランスを崩した男の足を払った。



でん!



雑魚1消去。あれれ、私って意外とできるんじゃないかしら。

侍女を狙った男の背中に飛び蹴り。雑魚2消去。



「危ない!」



振り向くと、剣を持った男がふらふらと倒れ、その後ろにいた星輝の顔が現れる。



「ありがとう」



星輝は自分の背で私を隠すように立つ。



「危険です。万が一、その身に何かあったら」

「……」



東宮に顔向けできない?



「オレ、気が狂う」

「っ」



いつも敬語しか遣ってくれない星輝の、一人称と呟きのような短い言葉が鼓膜に張りつく。喉の奥が苦しくなる。


きっとそれは、

乱闘で敬語など面倒な状況だからで、

大した意味なんてなくて、

間に入りそうな「東宮に申し訳なくて」とかが抜けているだけで。


ーーーオレ、気が狂うーーー


それでも、嬉しい。



あっという間に終わった。敵で立っているのは、立ち回りをしなかった、身なりの良い男達だけだった。



皇太后様はイスに深く腰掛けたままセリフを言った。



「『私が、ほーっほっほっほ、塩将軍だ』」


「まさか」

「ホントにいたのか?!」

「女だったなんて」

「探しても分からないはずだ」



身なりの良い男達が慌てる。



「『あんな雑魚と間違えられては不愉快だ』」


「なんだと!」

「オレ達の縄張りの近くで安い商売されちゃ困るんだよ」

「こんなとこへ呼び出して、話し合いだ?」

「塩は高く売れよ。その方が、お前だって儲かるだろ」


「また『お前』と申したな。礼儀知らずが」


「そっちの要望は聞けねーな」

「干渉するなって? 冗談じゃない」

「こっちも身ぃ削って賄賂(わいろ)払ってんだ」

「足並み揃えねーそっちが悪いんだろ」


「『歯向かうのか? 無謀なヤツラめ』」


「文にあったな。ゆーこと聞かないと後悔って、どんな後悔なんだ」

「言ってみろ」



しゅっ しゅっ しゅっ


  とさっ とさっ とさっ



そのとき、男達の足元に熊笹で包んだ何かが投げられた。投げたのは、No.15だった。床に転がった数個のうちの1つの包みから白い物が(こぼ)れる。



「これは!」

「まさか、闇塩(やみえん)

「や、闇塩だっ」


「ほーっほっほっほ。『闇塩などいくらでもあるわ』」


「くそ」

(えん)マフィア?!」

「塩将軍の正体は塩マフィア……」

「塩マフィアだと?」



闇塩を扱う塩マフィアは裏家業。いくら賄賂三昧の悪どい商いであっても、塩商は政府公認の表側。一般ピープルにとって塩マフィアは震え上がるほど恐ろしい極悪非道なアウトロー。



「『ここにあるのはほんの一部』」



皇太后様はイスから立ち上がり、傍に積み上げてあった木の箱の蓋を開けた。そして、熊笹の包みを1つ取り出す。マントが優雅に床を滑る。貴賓、貫禄、円熟の3点セットにその場の全ての人が釘付けだった。


皇太后様は丁寧に熊笹の包みを開く。長く細い金色の付け爪が、猛禽類の爪のごとく見る者の心に食い込む。

首を少し傾げた後、皇太后様は、中にあった白い粒を人差し指につけた。それをぺろりと舐め、赤く艶やかに縁取られた唇の両端をきゅっと上げた。



「い、一緒に、た、た、高く売ろう」


「『小賢しいことを。これらをバラ撒くぞ』」



皇太后様は熊笹の葉を広げる。さらさらと床に散る白い粒。

呆然と立ち尽くす数人の男達の横を通り過ぎ、皇太后様は扉に向かう。怪演終了。



「なかなか楽しい余興でした。その者らに褒美を」



申し付けられた侍女達は、男達に1塊ずつ銀子を渡し、皇太后様と共に退場した。




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