東宮視察地への船旅
「塩は国家予算の15%」の章を変更しました。
内容は同じですが、第15皇子、星輝、麗、珊瑚の4人での会話を、第15皇子、珊瑚の2人での会話にしました。
高らかな笑い声が東宮殿に響く。
「ほーっほっほっほ。東宮ご不在で退屈でしょう?」
皇太后様がやってきた。
皆で出迎え、1人ずつ抜けていく。残ったのは第4側室紫陽花と第5側室の私。
今回の皇太后様は、船で東宮に会いにいくドッキリを企画。冗談じゃない。阻止阻止。東宮は捕まっちゃってていないんだもん。
「あの、ご公務でお忙しいのでは。……驚かれますでしょうね」
ノリ気じゃない空気を醸し出してみたけれど、皇太后様にとっては蚊が止まった程度。
「そうよ。だからこっちから出向いてあ・げ・る・の♪」
馬車で東宮殿から川の港まで行き、港から船で川を下って海に出、沿岸部の視察の場所まで行く。上陸して、公務から戻った東宮を、「来ちゃった」って驚かせる。
いえいえ、いませんから、東宮。皇太后様がドッキリさせられる企画になっちゃうよ。
第4側室紫陽花は、美しい眉をハの字寄せた。
「私、船酔いしてしまいますの。申し訳ありません」
あ、ズルい。前回、船遊びのとき平気だったじゃん。
「珊瑚、行きましょう。ほーっほっほっほっほ」
圧が……。行きたくないんだけど。
!
私、行かなきゃ。東宮がいないことをごまかすために。
侍女数名と麗様、星まで同行することになった。
星は、私達の馬車の後をついてきちゃったから、仕方なく。もうすっかり狼っぽい外見なんだよね。ただ、皇太后様やその周り、東宮殿のみなさんは狼を知らないから、バレていないだけ。ちなみに、兵士達はみんな、狼だと気づいている。
船室がいくつもあるような豪華客船に揺られる。目的地には1日では到着しなかった。途中、華やかな港で遊んだ。
夕方。船に戻る途中、ごま油と豚肉のいい匂いに鼻腔をくすぐられた。
「まあ♪ 食べたいと思っていたのです。とても美味しいのですよ」
皇太后様は港の隅に停まっている1艘の船を見た。船の周りでは、男達が地べたに座り込んで、美味しそうにラーメンを食べている。口の中に涎出てきちゃった。
地元では有名なキッチン船らしく、麗様も知っていた。
皇太后様の侍女達が意味深に目配せし合う。? 誰かが食べたい人を数えているとき、杏は挙手していた手を、皇太后様の侍女に降ろさせられていた。パワハラ?
仕方がないのかもしれない。女性がラーメンを食べるとなれば、テーブルとイスの準備が必要。1人でも少ない方が用意が楽だから。そのせいか、皇太后様の侍女達は皆、遠慮している。
完食。めっちゃ美味しかった。
一晩中。お腹、下りマシタ。ラーメンを食べた者はほとんど。無事だったのは、皇太后様と麗様くらい。
杏が皇太后様の侍女に手を下ろさせられたのは、親切心だったのね。
次の日はげっそり。
甲板で風に当たっていると、隣の船から声をかけられた。
「よ。珊瑚じゃん。どした?」
「皇子。あ、星輝も」
お互いに驚き合う。まさか、川で会うなんて。
皇太后様のお供だと説明し、2人からは、東宮を助けるために船で来たと言われた。
「船の方が速い」
「いっぱい運べるんです」
「何を?」
『塩』
No.15は口パク。
見れば、2人の船に乗っているのは、武術の鍛錬を一緒にしている兵士ばかり。「姫さーん」と手を振ってくれている。
「こんにちはー」
私もぶんぶんと手を振った。
「皇太后様か。急がないとな。じゃ、向こうで」
「失礼します」
「気をつけてねー」
行っちゃった。
本当は、何をするつもりなのか詳しく聞きたかった。けれど、周りには人がいる。
私はNo.15に依頼され、父宛ての文に、至急、噂を広めてほしいと書いた。内容は「本物の塩将軍が怒っている」というもの。
いったい2人は何をしようとしてるんだろう。
私の使命は、少しでも皇太后様の到着を遅らせること。
麗様は東宮が拐われたことを知っている。だから相談した。
「少しでも船の到着を遅らせたいの。近くに立ち寄れる名所とかないかな」
「では、少し遠回りになる隠し港とかいかがですか? 派手で賑やかで、皇太后様がお喜びになると思います」
「隠し港?」
「密輸の中心です」
「だめだめだめだめ。国家権力に近い人が、そんなヤバいと、、」
「まあ、麗様、珊瑚。2人で楽しそうに何を話していたの」
「い、いえ。皇太后様……」
「聞こえてしまいました。派手で賑やかな隠し港」
あらら。
「とんでもありませんよね。取り締まっていただかないと」
「行きましょう」
「え」
「この国は広くて、まだまだ私の知らない場所があるのですね。ほーっほっほっほっほ」
船の針路変更に伴い、食料が予定通りではなくなってしまった。手配を任されている侍女は頭を痛めていた。
「すみません。不用意なお喋りをしてしまって」
謝罪すると、「気まぐれはいつものことですから」と返ってきた。ご心労いかばかりかと存じます。
隠し港、到着。
風紀悪っ。皇后様の周りを侍女達と私。その周りを護衛がずらりと囲む。どこからどう見ても貴族に見えてしまう群れを、周りは遠巻きに眺めている。
「麗、珊瑚様をお守りするのですよ」
杏は周りを見回しながら麗様にお願いしてくれる。
「大丈夫ですよ。金の匂いに寄ってくるくらいです」
麗様はこういった場所に慣れている風。
皇太后様は、肝の据わった方だった。すれ違う異人に話しかける。
「ぺらぺーら、ぺらぺら、ぺらぺーら」
「ぺらぺらぺららら。ぺらぺらら」
外国語もおできになるのですね。
皇太后様は異人の情報をもとに、見知らぬ店でお買い物。アクセサリ、ガラスの器、服、象牙、美術品。なんかレベチ。
異人のマント、羽飾りつきの目の部分だけの仮面も手に入れてご満悦。さっそくそれらを身につけて、怪しい大物感満載。
「エキサイティング! 初めて外国語が役に立ちました」
「いつも遣っていらっしゃるかのようでした。素晴らしいです」
予定より2日遅れで視察先の港に着いた。
皆で下船。皇太后様はマントに仮面姿。
それほど大きくない港。私達が乗ってきた皇太后様の船と、もう1つ、同じくらいの大きさの帆船が係留されていた。No.15と星輝、兵士達が乗っていた船。
「まあ。こちらも大きな船ですこと」
皇太后様が興味を示す。お捨て置きを。ヤバい。
皇太后様の侍女の1人がいらんことを言った。
「この船、来るときに、珊瑚様が挨拶していらっしゃった船ではありませんか」
見てたのね。どーしよ。でも、挨拶の相手が誰だったかは気づいていない様子。
「はぃ。知り合いが乗っておりまして」
「あら。それは珊瑚の父君、薬問屋の船ということですか?」
皇太后様に尋ねられる。
「ぃぇ。その、知り合いでございます」
「ここで遭遇したのも何かのご縁。ご挨拶いたしましょう」
ええーっ。いーんだって。何もしなくて。
皇太后様はつかつかと歩き、船に向かっていく。どーしよ。留守であって。お願い。
護衛の1人が船の中へ入って行った。そして戻ってくる。
「皇太后様。中に、第15皇子のお付きの者がおりました」
終わった。
「あら。知り合いの知り合いは知り合いなのですね。あの者は、第15皇子の世話で心身ともに疲れているでしょう。誠に。いつも感心しておりました。ストレスで腰痛を患っているのに、あのように心休まらぬ皇子の世話をして。髪もすっかり真っ白に。会って行きましょう」
やめてあげて。余計ストレスで腰痛が悪化しちゃう。
皇太后様は、船に渡してある板に足を乗せる。慌てて侍女が皇太后様の手を取り、護衛は「呼んで参ります!」と走る。
船への板の幅はそれほど広くない。護衛は皇太后様を抜かすことができず、結局は後から付き従う形になっていた。




