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No.15&武器商人②

章「No.15&武器商人①」を変更しました。


読んでくださってありがとうございます。とても励みになります。

「武器商人なの?」



別名、死の商人。

西洋とこちらを行き来する。だから西洋の服。

武器商人は、他国、国家、裏社会に繋がりのある特殊な存在。命懸けで武器を調達し、戦場へ運ぶ。国際情勢から貴族の私軍にまで精通し、巨万の富を築いていると噂される。



「そうで……そう。」



星輝(セイキ)は敬語を遣おうとして、No.15の視線に(とが)められ、言い直す。


うーん。結婚という名の人質&スパイは、卓越した政治と軍に匹敵する、素晴らしいものということね。新たな発見。



「結婚って、平和な響きだよね」



どんなに汚い駆け引きや陰謀があったとしても、ベールで隠してくれる。



「犠牲」



とNo.15。



「女にとっては」


「男だって一緒」


「男も?」



なぜ。



「好きな人と一緒になれない。好きじゃない女と結婚しなきゃならない。好きな女が他の男と結婚するの、黙ってるしかない男だっている」


「考えたことなかった……」


「娘を差し出すはめになる男だって」



それは、私の父。



「おい、皇子」



またまた星輝が「言い過ぎ」の警告。No.15の頬を人差し指で弾いた。



「痛っ。皇帝に、連れて来いって言われたから、大急ぎで東宮との話をまとめたんだろ? 実質、秀女選抜なしだったってな」



後宮に住んでいるだけあって情報通。

東宮に嫁ぐには、秀女選抜を通過する必要がある。貴族の娘参加のミスコン的なことが行われ、最終的には、皇太后、皇后、東宮が妃を決める。


(この小説は中華風の異世界モノです)


私の場合、秀女選抜は形だけ。

父が権力と人脈と金に物を言わせて、皇太后様と皇后様に取り入り、私を東宮の(もと)に送り込んだ。これ以上、寵愛ライバルを増やすのが嫌な皇后様は協力した。皇太后様とは政治的勢力図で利害が一致。急な話で、決定は東宮の不在中。東宮は、母親である皇后様からの文で、自分の結婚相手を知った。



「……」



不正合格って(なじ)られる?



「悲劇だよな」


「……」


「色ボケじじい、見境ないわー。息子のオレとタメとか」



同じ歳なんだ?

ってか、皇帝のこと、色ボケじじいって言ってる。自分の父親なのに。



「……」


「アイツに目ぇつけられなかったら、あと少しくらいは、夢見てられたの、にな、うっ」



No.15は黙った。星輝がNo.15の口に月餅を3個まとめて突っ込んだから。No.15はゲホゲホ咳き込み、お茶を飲んで胸をとんとん叩く。



「はははっはは」



星輝は笑ってテーブルの周りを逃げる。それをNo.15が追いかける。



「てめぇ。おい、星輝っ」



No.15は意地悪。言葉にちくちく棘がある。ここへ嫁がなかったとしても、夢を見ていられるのは「あと少し」って。


棘がつぷつぷ刺さってしまうのは、その通りだから。

貴族の娘の結婚は早い。出会いすらないまま、親が決めた家に嫁ぐ。出会いがなければ恋すらできない。



「……自分だって、そーゆー立場じゃない」



反撃。


2人は追いかけっこの足を止めた。



「オレは、そこまで重要人物じゃないから大丈夫。でも、ま、一応皇族。結婚相手は限られるかな」



そう言うNo.15を、星輝は気の毒そうに見た。



「オレら庶民は、好きな人と結婚するなんて当たり前なのにな。大抵の人は、金銭的に1人の相手でいっぱいいっぱいだしさ。それに、好きな人と結婚したら『他の人も』なんて思わない」



そっか、私の夢は、庶民にとってはごくごく一般的なこと。

なのに。貴族は「自分だけを想ってくれる人と、たった一つの恋を貫く」なんて(ささ)やかなことが叶わない。


星輝の相手は、幸せだね。羨ましいな。



珊瑚(シャンフー)が今の状況から抜け出す道、あるよ」



No.15は得意げ。テーブルに肘をついて、耳を貸せとゼスチャーする。



「一応、聞きましょう」



あるわけない。東宮に嫁いだのだから。警備は万全。逃亡不可能。



「今の世が終わればいい」


「……世が終わるって」「おい。こらっ」



人に聞かれたら首が飛んじゃう。星輝も周りをきょろきょろと見回して慌てている。



「この国はさ、侵略したりされたりでできてる。明日だって、何が起こるか分かんないって」



皇族の中で帝位を争うのは歴史の常。私と同じ歳でも、帝国トップの座を狙っている可能性はある。幼い頃から政治を考え、国力アップを望む英才教育で育てられた皇子。生まれた順位に関わらず、優秀で野心があれば、自分が皇帝になりたいと望むだろう。


私は声を落とした。



「それは、……謀反(むほん)?」


「ちげーよ。夢を諦めなくていいってこと。たった1つの恋ってやつ」


「……さっき、バカにしてたのに」



子供だって。一夫多妻じゃなくても難しいって。



「好きになった相手が自分を好きになってくれるって確率。それと、本当に好きになる相手と1番目に出会えるって確率。それ考えると、難しいんじゃね?」


「……確率」



No.15の言葉に目をぱちくり。恋とか愛とか運命に確率を持ち込むなんて。その方が何も知らない子供なんじゃないかな。

侍女達がこそこそ回し読みしてた大人〜な書物に、抗えない魂の震えが恋、体の芯が熱くなる本能に近いものって書いてあったよ。


星輝は、やれやれという顔をした。



「正直に言えよ。噂を聞いて『泣いてるかも』って心配だったって」


「黙れ、星輝」



No.15は私から視線を逸らした。



「珊瑚様、皇子は後宮で母親の苦労見てきたのです。それもあって、自分と同じ歳の女の子が結婚したことに、心を痛めているのです」


「私を慰めに来てくれたの? ありがとう」



乱暴に木の枝を揺らして、梨の花を散らせた。不器用な優しさに涙が出る。

辛くても泣かない。けれど、優しくされると、弱い。はらはらと目から涙が零れ出た。



「珊瑚様……」


「おい、泣くな。泣いてなくて安心したんだからな」



星輝とNo.15がおろおろする。


No.15は続けた。



「東宮はさ、もうすぐ、半年間の国内視察に行く。その日までを乗り切れば、しばらくはゆっくりできるかも。その。えーっと。ほら。夜伽」



その言葉を口に出すとき、No.15は両耳を真っ赤に染めた。



「おいおい皇子、真っ赤んなってっぞ」


「うるさいっ」



No.15と星輝は私の前に立った。

同じ高さにある優しい2組の瞳。


No.15の声が風に溶ける。



「嫌なんだろ?」



うん、嫌。想像しただけで身の毛がよだつ。


黙ってしまった私を見て、星輝は唇をぎゅっと結んだ。



青い空の下、白い梨の花が揺れる。

悲しいほどお天気。


不意に強い風が吹き、白い花びらが一面に舞った。3人で空を見上げる。

そこにあったのは、どこまでも広がるセルリアンブルー。喜び、悲しみ、希望。絶望さえも包括する色。




去り際に、星輝が私の耳元で囁いた。



「梨の木にチャドクガはつきません。用心を」


「! 感謝します」



早くも東宮の側室としての洗礼を受けてしまった。




「ねぇ(シン)、チャドクガの毛虫に刺されるとどうなるの?」


「ぷつぷつと赤く腫れ上がって、何日もとても痒いそうです」


「怖い。二人のおかげで何事もなくて。よかった」


「本当に。お二人とも、美しいお姿をしていらっしゃいました。身分が低い母君ということは、特別美しくて皇帝に見染められた方なのでしょう」



話、全部聞いてたんだね。



「聞いたこと、誰にも話しちゃダメだからね」



今の世が終わればいいだなんて。



「分かっております。もう1人は武器商人ですか。あの端正な美しさ。死神のようでしたね」




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