塩は国家予算の15%
塩商達をどう脅せばいいのか。
1番嫌がることを考えてみる。
殺される、家に火をつけられるーーームリできない。
捕まって痛い目に遭う。
なんだ。東宮が「自分は東宮だ」って言うだけでいいじゃん。天下の東宮を拉致ったってなれば、ただでは済まない。みんなびっくり仰天して逃げ出す。
でも、これやっちゃうと、東宮が副業してたことがバレる。
塩商にとって嫌なことは、損をすること。塩が安くなること。
以前、第3側室ピンク芍薬&第4側室紫陽花が言ってた。外国から安く物が入ってくると、値崩れするって。
じゃ、塩を輸入するぞって脅す?
そんなことできないよね。だって今は鎖国状態なんだから。
値崩れ。どーやって。
次の朝、弓の稽古にNo.15が来た。
麗様はその場から離れ、杏と星のところへ行く。
No.15は、東宮を1日も早く連れ戻したがっていた。
「食事は取り敢えずあった。けど、異母兄はさ、あーゆーところに住む人じゃないんだって。トイレも困ってて。穴掘るんですって、掘ってきた。洗濯もしたことない」
「それは皇子だって」
思わず突っ込む私。
「オレ? ある」
「戦で?」
「おねしょの隠蔽」
「あははは」
「昔だからな」
東宮を連れ戻すには、船着場の見張り2人をどうにかしなければならない。
しつもーん。
「船着場じゃないところから船は出せないの? 例えば、皇子が泳ぐルート」
「船がない」
「あ、そっか」
「お! 船を持ち込めばいいのか? 小さい船を荷車で運んで。湖に流れ込んでる川の方からできるかも」
次の課題は、どう報復されないようにするか。
「異母兄はさ、塩田警備の仕事をしてたんだ」
No.15がゲロった。
「……」
「他にも、」
東宮の商いは、塩に関連した多岐に渡っていた。
塩田警備はほんの一部。
配下の塩商19名。塩官として更に多くの配下が政府入り込んでる。
配下の塩官は、仲間から賄賂を取らない。それによって塩の値を安く抑えていた。検問所にも配下の者がいる。その他、運搬、仕分け、包装、販売。塩のルートには多くの配下の者が従事していた。
やっぱり、塩田警備だけじゃなかった。それでは大きな軍を維持できない。
「じゃ、東宮様は、軍の維持費を捻出しながら、塩の値段を下げてたの?」
No.15は頷く。
「珊瑚は勘づいてたよな。オレは異母兄から聞かされるまで分からなかった」
「そこまで具体的には想像してなかったよ」
「異母兄は、民が塩の値段に苦しむのを見て、塩が儲かることに気づいたんだ。で、塩商と塩官が儲けすぎって」
それは、
「数年間から?」
都の塩の値段は、数年前から安値で安定した。
星輝は知っていた。東宮が、表には出ず塩商を仕立て、塩のルートに息のかかった者達を置いて、利益を吸い上げていたことを。
星輝と星輝の父親は、沿岸部にも塩田警備に使う武器を納入していたから。なによりも、東宮が商売を始めるときに、仕入れや運搬の口利きをしたのは星輝の父親だった。
「知っていた」。それは社会の裏までも。だから東宮は、星輝に私を託した。それが、星輝が私を逃そうとした理由だった。
No.15は、東宮から塩についてのことを聞かされたとき、私のことを話した。兵士の数に気づいていること、その費用はどこから来るのか疑問を持っていること。
「異母兄がさ、珊瑚に話せって。自分はもう東宮殿には戻れないかもしれないとか言っちゃってさ」
「……」
塩の事業に手を出していたことが明るみになれば、東宮は皇帝に排除される。だから、自分が何をしていたのか私に話すよう、No.15に言った。
「自分が何をしたかったのか、何をしてるのか、知ってほしいんだってさ。カッコつけやがって。オレは、ウダウダ言ってないで早く帰って自分で伝えろっつったんだよ」
「……」
「アイツじゃなきゃ、お前を守れないんだ!
……。
絶対に東宮を取り戻す。
オレ、都へ帰るとき、珊瑚のことばっか考えた。こんなとこでヘタったら、お前に笑われる。幻滅されるって」
「笑わないよ。幻滅なんてしない」
「異母兄を助けることより、
塩田守ることより、オレ、
……珊瑚を救うこと考えてた」
「ありがと」
「なんで珊瑚、女なんだろ。男だったらよかった。そしたら、帰ったとき、星輝や星みたいに飛びつけたのにな」
「飛びついたんだね。あはは」
東宮のしていたことは、想像通りだった。塩商が19人もいたのはびっくりだけど。自分の代わりの1人だけだと思っていたから。
頭の中に、厩で馬達が舐めている塩の塊を浮かべる。
「あんなにちょっとした物のために、東宮は拉致られちゃったんだね」
私の言葉に、No.15は「ちょっとじゃない」と被せるように言う。
「国家予算の1割半は塩の利益」
「国家予算の1割半?!」
@_@ 驚く私の声に、麗様、杏、星がこっちを見る。
取り繕うように、No.15が矢を射った。命中。
私は、父からの情報をシェアした。
東宮が塩将軍の代わりに誘拐されたこと。塩将軍はただの噂ってこと。
「異母兄は『塩将軍』なんて一言も言ってなかった。誘拐した方は、そんなもんいないって分かってるんだろーな」
都や沿岸部の塩の値段が上がっているのは、隣接する地域の塩商が、自分達の担当地域との価格差をなくそうとしているからだってことも告げた。
「なんで塩の店が酷いことされてるのに、誰も何もしないんだよ」
No.15は苛立つ。
「東宮がいないから、決定権がないって。ここにいる武官らはなにもできないでいるみたい。東宮が誘拐されたってときでさえ、調査って名目で、数人を沿岸部へ送っただけだもん」
「うっそ」
事実を聞かされて、今更驚くNo.15。
「ボスが不在のときに勝手に動いて、ここに大勢の兵士がいるってバレたら、そっちの方が問題だよ」
「よし。都の塩売ってる店に用心棒として兵士を派遣しよう。いつも武術の鍛錬をしている200人から。だったら東宮殿の軍のことはバレない。で、塩の値段を戻す」
「塩の値段を下げるのは、東宮のしたかったことでしょ? 皇子自身はどう考えてるの?」
すかさずNo.15は答える。
「オレは、民のことを1番に考えてる。人間に必要な米や塩は、絶対に高く売っちゃいけない」
「今、ちょっと尊敬した」
「ちょっとかよ。で、他に200人を沿岸部へ遠征」
てきぱきとことを進めようとするNo.15。でも。
「200人もの遠征は難しいじゃないかな。普段の仕事があるから。それに、200人もが一斉に出発するって、まるで戦。穏やかじゃないよ」
最悪、禁軍(皇帝の軍)に捕まって処罰されてしまう。
「そうか。100人でもマズいな」
No.15は考え込んでしまった。
「んーとね、あのね。塩商を脅すネタがあればいいんだけど。それで、東宮を助けた後、報復されないようにするの。塩商に損をさせるぞって言えるような。絶対ムリなんだけどね、例えば、外国から大量に塩を輸入して値崩れさせるぞとか、そーゆーの。鎖国だし、塩って輸入するものじゃなさそーだから、ぜんぜん違うんだけど。そーゆー感じの。そしたらね、100人もの大群で沿岸部へ行かなくてもいいって思う。戦わないの前提だから」
私って説明ヘタクソ。
これ、伝わってるのかな。言いたいこと。分かってもらえた?
不安げにNo.15の顔を見る。
「なるほど。値崩れか。できるかも。ちょっと相談する」
えええっ?
No.15は去った。どーするの?
その後、No.15は誰かと何かを話し合ったらしく、私は父へ文を出すよう依頼された。文をチェックしているのは東宮殿の執務長。執務長も承知の内容だった。




