表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
塩利権

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/133

結構適当なのですね

(リー)様の報告が続く。



「東宮は無傷。塩田(えんでん)の警備を安く請け負っているから(さら)われたようなんですが。いったいどれだけ安くすると、50人もの男達から恨みを買うのか」

「拐ったのは、どーゆー人達なの?」

「皇子によれば、東宮は『塩業界で安く仕事されちゃ困る』とか『しばらくここにいろ』とか言われたそうです」

「塩業界……」

「第15皇子は、戦わずに東宮を救う方法を考えていました。けれど、船着場は1カ所。少なからずバトることになると」


「東宮が泳げればいいのに」

「30分ぐらいかかるとか。皇子がそれなら、他の人はもっと大変だと思います」

「30分も!」



そして麗様はくすくす笑い出した。



「ふっふっふ。あははは。皇子がまともに食べてなかったのは、店がどこにあるか知らなかったからって。それでも馬の飼い葉や塩はなんとかしたみたいで、馬は大丈夫でした。あはは」

「人に聞かなかったのかな」

「使ったルートが宿場町のないような道だったのでしょう。そーゆー道には民家はほとんどありません。あはははは。途中で百姓が芋の団子をくれたと喜んでおられました」



ホントに頑張ったんだね。No.15は帝国1番レベルの箱入。大抵お付きの人がいて、身の回りのことをしてもらえる。ほぼ野宿で都まで辿り着くなんて。







両親が来た。母は二胡を携えて。

父が外聞屋だと知る今、来訪のタイミングに意味を感じる。前回と同じく人払いをして、親子3人水入らずの空間となった。



「母君への手紙にあった。珊瑚(シャンフー)、東宮が帰られる日が延期になったと」

「はい」



父の目配せによって、母が二胡を弾き始める。要件が始まる。



「都の塩の値段が上がった」



父の一言目は、東宮と塩の繋がりを知っていることを示していた。



「そのようですね」

(ちまた)では、塩将軍(えんしょうぐん)が拐われたと噂されている」

「塩将軍?」



塩将軍はおとぎばなしじゃないの?



「かつて塩の値段は高かった。しかし、数年前から、都の塩の値段が安値で安定した。人々は塩将軍という偶像を作り出したのだ。沿岸部も安いことから、塩将軍は塩田付近に住んでいると言われていた」


「塩田付近に……」


「塩は、塩証文(えんしょうもん)を手に入れた塩商(えんしょう)が販売する。塩証文には、どれだけの量の塩をどの地域に売って良いかが書かれている。値段は決まっていないのだ」

「はぃ」

「例えば、同じ地域に売る塩証文が5枚あり、5人の塩商がいたとする。3人の塩商が塩を安く売ると、あとの2人も塩の値段を下げることになる。こうやって都や沿岸部の塩の値段が下がっていった。そのうち、高く売りたい塩商は、それ以外の地域の塩証文を選ぶようになった」

「それで都の塩の価格が、安く安定したのですね」


「が、ここで、隣接する地域との価格差が生じる。人々は、少し足を伸ばしても、安い塩を手に入れる」

「はぃ」

「人々は高い塩を買わなくなる。塩を高く売りたい塩商達は、塩将軍を目の敵にしていたのだ」


「さきほど、塩将軍は偶像だと」


「そうだ。周辺地域の塩商達は、塩田の警備を安く引き受けている親玉らしき男を誘拐した。それが東宮だ。実在しない『塩将軍』の代わりに。『将軍』という、いかにも武闘派な響きから、塩田警備をターゲットにしたのだろう」



うっわー。テキトー。

そんな簡単に拐っちゃうんだ。



「では、東宮は()()()()()()拐われたのですね」

「そうだ」

「他に外聞屋の情報はありますか?」



きっと、東宮の副業は、塩田警備だけじゃない。

一緒に武術の鍛錬していた兵士の中には、塩官(えんかん)がいる。川の港で働いている人も。



「珊瑚、知っていたのか。外聞屋のことを」

「こちらへ来て知りました」



東宮殿にいる兵士は、見せかけは300人体制、実態は3000人規模。ローテーションするから、ほとんどの者が東宮殿の警備以外の仕事をしていることになる。


更に塩田警備も含めたら、雇用している兵士は3000人以上。それだけの軍を維持する費用は、塩田警備だけでは足りない。たぶん。



「では、外聞屋が噂を撒くことも知っているのか」

「はい」

「そうか」

「まさか、『塩将軍』は父君が作った噂ですか?!」


「違う。塩将軍は、人々の中から生まれた真の噂。塩の値段の高騰に苦しんだ人々の英雄なのだろう。我々が意図的に流す噂よりも、ずっと曖昧でぼやけている。本来噂とは、つかみどころがないものなのだ」


「都の塩の値段が上がったことと、東宮が誘拐されたことは、どう結びついているのでしょう。偽物の塩将軍なら、塩の値段は変わらないはずです」


「今まで不満を持っていた、周辺地域の塩商達が調子づいたのだ」

「……」



イケイケになっちゃっただけで値段って上がるの?



「塩の値段を上げろとガラの悪い輩が脅迫しているらしい。その輩は、周辺地域から来た者や、そういった者達に金で依頼されている」

「お金を払ってまで、塩の値段を吊り上げるのですね」



東宮は、都で、塩商を仕立てて儲けていると思う。東宮が囚われて、雇われの身の都の塩商達に指示がなく、なされるがままなんじゃないかな。



「今まで儲けを逃した恨みもある。それに、都でも塩を高く売れるのであれば、都もマーケットにできるのだ。交通の便がよく、人が多い都は、塩商達にとって垂涎の場所」

「そうなのですね」

「塩将軍を拘束したという情報が、都の周辺地域の塩商達に伝わったのだろう」

「父君。」



視察先の滞在している場所近く、湖の小島に東宮がいることを知らせた。



「そうか。珊瑚は頼もしくなったな」

「けれど、東宮を連れ戻したとして、そのことによって、塩田で、更に大きな争いが起こるかもしれません。それを懸念していると聞きました」

「うむ」

「塩の値上がりが由々しき問題なのかどうかも、私には判断がつきません。東宮から何も知らされていないのです」

「私とて、外聞屋の情報だけだ」



部屋に二胡の音が充満する。息苦しいほど。

私を守るための艶やかで伸びやかな音は、母の愛。逼迫(ひっぱく)したフレーズもまた、私を案ずる母の愛だった。



「商いのプロである父君にお聞きします。父君だったら、東宮を助けたとして、その後、どのように報復されないようになさいますか?」


「報復したら、10倍痛い目を見るぞと具体的に脅す。だがそれも、脅す材料があってのこと。多くの塩商に損をさせるような方法など思いつかない」


「損をさせるのですね。お聞かせくださってありがとうございます」



母は二胡の演奏を終えた。

父と私の話が長引いたせいで、母は少し疲れていた。

私は葡萄を勧め、弦を押さえていた母の指先を握った。



「ありがとうございます。本当は、もっとゆっくりと母君の演奏を聴きたいのです。もっとたくさん、お話ししたいことがあるのです。……もっとずっと、母君のお傍にいたかった」



皇帝から襲われそうにことが頭を過り、下唇を噛んだ。



「珊瑚。まだ幼いのに。お友達とお喋りして、はしゃぐあなたを見るのが幸せでした。一緒にお芝居を観て、お洋服を買って、甘味処に寄る。楽しかったですね」



母の瞳が潤む。


できるなら、このまま一緒に帰りたい。全ての行動が見られ、すべての会話を聞かれてしまう。その当たり前が辛い。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ