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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
塩利権

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利権ってなんですか




武術の鍛錬の場、月が変わり、新しい兵士をちらほら見かけた。「来月から異動」と言っていた兵士はいなくなった。他にも、何人かいなくなった。


弓の稽古のとき、(リー)様に言ってみた。(シン)から聞こえない場所で。



「兵士達、入れ替わってない?」


「気づかないふりをした方がいいと思います」


「そうする」



「来月から異動」と言っていた兵士は、塩田(えんでん)に行くようだった。

No.15は恐らく、塩のことを知らない。

けれど、何年も前から武術の鍛錬に参加しているのに、兵士達が入れ替わることに気づかないはずがない。以前、300人じゃなくて3000人くらいかと尋ねたとき、「気づいた?」って言ってた。



No.15は3000人を肯定したわけじゃない。「気づいた?」と流しただけ。え、ちょっと待って。都の東宮殿には、300人と言いながら、3000人くらい兵士がいて、更に塩田に異動があるってことは、もっといるじゃん。


東宮に聞かなかったけど、チャドクガを仕込んだ人はどこへ行ったの?

異動をお願いした。でも、東宮殿では見かけない。

あのときは、東宮殿や宮廷、若葉宮の護衛をしている兵士達は、同じ所属だと思っていた。けれど、実は、東宮殿の兵士は東宮殿だけで採用されているはず。じゃないと、3000人を300人に見せかけるローテーションを秘密にできない。


東宮の軍は、3000人どころじゃない。もっといる。


塩田。

麗様の話では、塩田には塩盗賊が出るから警備をしなければならないとのこと。じゃ、塩田の警備をしてるのかな。ん? 塩って国の専売だから、塩田の警備も国がやってるんだっけ。???


えーっと。東宮が塩田を持ってて、兵士が塩を作ってる? 違うよね。塩田は国が管理してる。田畑と同じ扱いだと思う。東宮が手に入れたのは利権。


利権ってなに。@_@


悪どくて儲かるって響きがあるけど、具体的に分かんないよー。

No.15の資料に載ってなかったよー。


でもって、No.15は異動する兵士のこと、どう思ってるんだろ。どう聞かされてるわけ?




「ふふふふ。夏の間、梨をくださってありがとう」

「こちそうさま、珊瑚(シャンフー)



第3側室ピンク芍薬(しゃくやく)と第4側室紫陽花(あじさい)が遊びにきた。



「ふふふふ。(セイ)は大きくなりましたね」

「よく遠吠えしてるわよね。すぐに大人ね」



星は遠吠えが上手になってきた。狼と気づかれるのも時間の問題。


せっかくだから訊いてみよっかな。



「利権ってなんですか」


「ふふふふ。珊瑚ったら唐突」

「どこでそんな大人な言葉を。叡智(H)なことより衝撃だわ」


「大人が話していることを、耳にしただけです。一応、言葉は知っていました。ただ、今ひとつ具体的に分からなくて」


「ふふふふ。兵士達かしら。殿方は権力の話が好きですもの」


「ここの儲けは全部自分のものってゆー、利益を独占する力のことよ。大抵は国と結びついて、他をシャットアウトして利益を独占するの」


「ありがとうございます。なんだか、分かったような気がします」


「ふふふふ。そーゆーときは、分かってないものよ」

「具体的に、何かないかしら」


「ふふふふ。あなたの父君の生業はそうでなくて?」



ピンク芍薬は、扇子の上に目だけを出して、ちろ〜んと紫陽花に視線を送る。



「そうね。税として収められた米や物を船で運搬しているわ。ウチの場合は、利益総取りというよりも、中抜きしない誠実さで信用を得て、独占的に仕事を任されているだけですけれど」



ええーーっ。政府お抱えの物流、水運部分を総取り。米の流れは金の流れ。それを任されてるなんて。大富豪のお嬢様だったのね。



「ふふふふ。正室、第2側室が鎖国派なのは利権のせいですのよ」

「正室は、銀山の採掘を任されてる一族。他の国から安く銀が入ってくると値崩れするから困るのよ。だから鎖国派」


「第2側室は?」


「ふふふふ。お砂糖。南部の広大なサトウキビ王国のお姫様よ。皇族や貴族の家に納めるのは、第2側室の一族の上質なお砂糖と決められているのです。サトウキビの流通は国の許可制で、一族が独占していますのよ」


「海外から安いサトウキビが入ってくると、他の人も砂糖を作り始めてしまうかもしれないでしょ。だから鎖国派。でも、第2側室の一族の官僚は『未定』を貫いてるわ。一族のお姫様が開国派の東宮に嫁いでいるからなのか、やがて来る次の皇帝の時代での立ち回りを考えてなのか」


「そこら中に利権があるのですね。国の、政府の許可って=利権なのですね」


「ふふふふ。珊瑚の一族こそ」


「ウチはただの薬屋です」



そう言うと、ピンク芍薬と紫陽花は「ふふふふ」「ほーほっほっほ」と楽しそうに笑った。



「何言ってんのよ。ただの薬屋さん? 大問屋じゃない。薬の袋には政府の判子が押されるのよ。政府が認可した薬ですって。つまりそれは、珊瑚の家の薬ですってこと」


「え」


「ふふふふ。その顔。ホントに知らなかったのですね。だったら、ねぇ」

「そうねぇ」

「ふふふふ」


「どうしたのですか?」


「外聞屋のことは?」


「がいぶんや?」



なにそれ。



「ふふふふ。やっぱり」

「外聞屋こそ市場独占のお化け会社よ」



父の仕事は薬問屋。もともとは薬売りの行商人で、父は祖父と共に事業を拡大した。祖父の代のとき、前皇帝に薬を献上したことにより貴族の身分となった。そして、薬を国からの認可制にした。


このときに父が使った手法が、噂で世論を高めるというものだった。これがいつしか外聞屋と呼ばれるようになった。芝居や語り部、貼り紙、薬の行商人による流布。


ーーー他の薬で治らなかった皇帝の病気が、1人の正直者が献上した薬で治った。これまで使われていた薬には混ぜ物があって効かなかった。信用できる薬を使って欲しい。国が認めたなら間違いないーーーというような内容を芝居と語り部によって広めた。


いつしか他の小さな薬問屋を吸収して、巨大な大問屋になっていった。


知りませんでした。



「ふふふふ。ここからですわよ」


「薬が認可制になったとき、前皇帝は外聞屋を味方につけることにしたの。珊瑚の父君はすでに噂を拡散するルートを持っているから」


「ふふふふ。大切なのは、拡散だけではないことです。情報収集も。政府に入ってくる情報など、所詮役人が自分達で都合のいいように編集したもの。民の真の情報は、外聞屋から仕入れるのが1番なのですよ」



びっくり仰天。自分の父親がそんなに手広く商売をしていたなんて。



むぎゅぅ



いつものように紫陽花の胸に頬が潰された。



「無知無垢、かわいい!」


「ふふふふ。そろそろ、かわいいだけを卒業するのもいいかもしれませんわ」


「お二人はいつ卒業なさったのですか?」


「私は、小さなころから、こういった話ばかりの中で育ったわ」



利権、政情、英才教育。



「ふふふふ。私は、生まれたときから東宮に嫁ぐよう、教育されてきましたの。女は笑顔で腹黒く」



おおーーっ。かっこいい。


感心している場合じゃない。東宮に嫁ぐ人は、才女。見目麗しいだけの女の人とは一味違う。東宮が私軍を持ってること、もうバレてたりして。塩の利権とか。



「お二人のようになりたいです」


「ふふふふ。ムリですわ。私の腹黒さは一朝一夕で造られるものではありません」

「珊瑚のおウチが1番、情報を持っているのよ。父君に尋ねれば?」


「父の仕事すら知りませんでした」



しょんぼり。完全に子供扱い。



「ふふふふ。13歳の側室の娘に家業を伝えなかったのは、余計な不安を抱かせたくなかったからでしょう。父君の愛情ですよ。生まれたときから一族の出世の道具と決まっていた女子とは違います」

「そーねぇ。なるべく大きくなるまで、無邪気に笑っていてもらいたかったのよ」



なんてお優しいお言葉。ピンク芍薬も紫陽花も、美しいのは内面からだわ。




「女は笑顔で腹黒く」は尊敬する投資系YouTuberの言葉です。使わせていいただきました。

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