おとぎばなし塩将軍
No.15に貸してもらった資料は、全部で36冊。恐るべし。
年代順に書かれている。項目別じゃない。うっわー。ここから開国&鎖国と塩に関して探すの。大変。
読みましょう。
まず、最新の1冊から。
開くと、傷みが激しかった。印がつけてある行があったり、線を伸ばして注釈が書き込んであったり。
挿絵には落書きなし。
これ、No.15のじゃない。いったい誰の?
取り敢えず読んでいく。
ひたすら文章。
もっと簡潔にしてくんないかな。
そして気づく。資料を使った人は、頭の中で簡潔にしていただろうことに。ポイントに赤い線が引いてある。助かる。
おかげで、余白に隙間がないほど書き込まれていたというのに、割と速く読むことができた。
塩に関しては1行だけ。「従来の制度を引き継いでいる」。
従来の制度については書かれていない。ってことは、こっちに書いてあるのね。残りの35冊を見て、げんなり。
貿易に関しては、厳しく取り締まっていると記述あり。海の向こうの国から海賊が来るみたい。
赤と黄色の紙を用意して、付箋にした。赤が塩。黄色が貿易。
残りの35冊、どっちから読もうか。悩んだ末、最初から。
1冊目は、昔々、群雄割拠で、領土の境界がしっかり決まっていないころの話から始まっていた。塩登場。英雄達の戦いには、塩の産地をめぐるものがあった。
お、ここ、赤の付箋。
4冊目は前王朝がどれだけ酷いかが書かれていた。悪いことだけがひたすら。いいことだってしてただろうに。そして、どのように前王朝を倒したかが、事細かにあった。もう、ええっちゅーねん。
現王朝の初代皇帝は、ほぼ神扱い。眠っ。
翌朝の弓の稽古に備えて、寝よう。
すでに星は、すーすー寝息を立てている。あ、舌がちょっとだけ出てる。かわいー。
翌朝、弓の稽古に向かうとき、麗様から訊かれた。
「昨晩、珊瑚様の部屋が静かでした。なのに灯りが点いてて」
え、普段は静かじゃない?
「書物を読んでたの」
「麗。珊瑚様が突如、難しい書物を読み始めたのですよ。第15皇子からお借りになって」
杏は「雪が降るかも」みたいに言う。
「そうだったんですか。珊瑚様が」
「いつもだったら、星とばたばた遊ぶ音が聞こえるのに、昨晩は全く」
やっぱ、いつもは騒々しかったのね。
弓の稽古から自分の部屋に戻るとき、どんな書物かを訊かれた。
「歴史とか、今の政治とかの」
「珊瑚様が?! すぐに奥様に報告しなければ」
「今の政治ですか」
「私、正直、何も知らないの」
「まだ13歳ですもの」
「ここにいたら、何も分かりませんよね」
麗様の一言に、頭をガツンと殴られた。
「ホントにそう」
「今、物価高で庶民が苦しんでいます」
「「そーなの?」」
「米も香辛料も値上がりしてます。服は、安いのと高いのがあって、真ん中の値段のは少ない。富める者はがんがんに金持ちに、貧しい者はどこまでも貧乏になって、二極化が起こっています。私は、ここでお世話になっているから、羽振りがいいんですけど」
「「そーなの?」」
「特に塩」
!
「塩がどうかしたの?」
「塩は、政府の専売なんです。都の辺りや海の辺りはまだいいけど、内陸では塩の値段がめちゃくちゃになってるそうですよ。塩商と塩官が値段を吊り上げまくって。塩証文も山の中や治安が悪いとこは誰も引き受けたがらない」
「「????」」
ここに素晴らしい先生イターーー!
「どうしたのですか? 珊瑚様。いつもにも増して、麗をキラキラした目で見て」
「麗、私、それ、知りたかったの」
「え? 物価が上がって庶民が苦しんでることですか?」
「塩の話」
「塩?」
塩が政府の専売ってことは知ってた。塩商とか塩官とか塩証文は初耳。どうして値段が吊り上がるのかもよく分かんない。でもって、沿岸部や都と他の場所では、値段が違うの?
人に聞かれたくないから、紙に書いて欲しいとお願いした。
「それはムリです。私、字ぃ書けません。読めませんし」
知らなかった。
「じゃ、麗はどーやって劇の台本覚えてたの?」
「喋ってもらって。あと、劇を見れば覚えます」
「それ、すごい」
というわけで、続きは次の朝、弓の稽古場への行き帰りに。
塩は作るにも売るにも、基本政府の許可が必要。
塩商は政府公認の塩の商人。めっちゃ金持ち。
塩官は、塩に関することを扱う役人。賄賂三昧。
塩証文は、どれだけの塩をどこどこへ売ってもいいですよという証明書。
国境などの辺境へ兵糧を収めると、ご褒美として塩証文が貰える。塩の役所で証文に書かれている量の塩を貰い、証文に書かれている地域へ売りに行く。売るときは、その地域の塩商にまとめて売るのが通例。
兵糧の用意や運搬には多額な費用がかかる。これをできるのは、たくさんお金を持ってる商人だけ。塩証文は多額の金額の代わり。塩ペイってこと。
塩証文を貰うには賄賂が必要。儲かりそうな地域の塩証文は賄賂ましまし。塩を役所で貰うときには賄賂が必要。運ぶとき検問所で賄賂が必要。塩商達は、塩の値段に運搬費や賄賂を上乗せさくさく。
もう1つ。塩田は塩盗賊に狙われる。その警備が必要なので、その分も塩の値段にこみこみ。
エグ。
東宮はこれに目をつけて利権を欲しがった?
破格に儲かるから。軍を維持するために。
「塩って絶対必要だもんね。悪いことしてんだね。そんなん税と一緒じゃん」
「内陸部は困ってるみたいです。いっぱい塩採れるとこ以外は」
一昨日読んだところに書いてあった。内陸部でも塩が採れる場所は栄えてたって。塩の湖があったり、濃い塩水の地下水があったり、岩塩の山があったり。
「塩官と塩商ってワル」
「いい人もいるみたいですよ。塩将軍」
「塩将軍?」
「塩、安いみたいです」
「ふーん」
塩は、多くの地域で値段の高騰が激しいことに加え、もう1つ問題があった。
「山の奥に住む人は、塩がなくて困ってるんです。政府の専売だから他から買えない。なのに、塩商は、僻地に売っても儲からないから売らない」
「ひどい」
「塩将軍は、そーゆーとこにも塩を売るんです」
「義賊なの?」
「おとぎばなしかもしれません」
「おとぎばなし?」
「誰も会ったことがないし、塩将軍が誰か知らない。でも、僻地に塩が届く」
「それってタダで?」
「まさか。塩商が売りに来るんでしょーね」
だったらその商人が塩将軍じゃん? あれ? 違うの? @_@
ついでに、塩を横流しする人達を塩マフィア、横流しされた塩を闇塩ってゆーんだって。
「ありがとう。いろいろ分かって嬉しい」
「珊瑚様はどうして塩の話など?」
「なんか、すっごく知りたくなって」
麗様、私、東宮を疑ってるの。もともと清廉潔白な人だなんて思っていないけれど、見た目と裏腹、想像以上に真っ黒なんじゃないかって。そんなこと言えないけど。
だからって、何かできるわけじゃないし、正そうなんて思わない。
好奇心かも。
300人と偽って、3000人の軍を持ってたり。
塩の利権を欲しがったり。
とどめは、皇帝に向けて矢を放った。
矢のことは、もちろん感謝してる。助かったんだから。
同時に、私は東宮に千載一遇のチャンスを与えたとも思う。
皇帝への意思表示。
自分は皇帝の座を狙っている。現皇帝を殺すことも厭わないって。
よけい皇帝に嫌われちゃうじゃん。今ごろ、皇帝は東宮制廃止、末子継承導入に動いちゃってるよ。
父は、皇帝の目論見を「杏にも言うな」と告げた。
頼れる大人が杏だけの私には辛いこと。
でも、知っていることは負担になる。杏を守るためにも話しちゃいけない。
この小説はフィクションで、中華ファンタジーです。ご了承ください。
塩証文、塩マフィア、闇塩は造語です。
一応、ネットで中国の塩政について調べております。しかし、世界史が超絶苦手で基礎知識がなく、難しくて理解できません。 (;_;) 佐伯富先生の「明代の票法」を参考にしております。




