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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
塩利権

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22/133

おとぎばなし塩将軍


No.15に貸してもらった資料は、全部で36冊。恐るべし。

年代順に書かれている。項目別じゃない。うっわー。ここから開国&鎖国と塩に関して探すの。大変。


読みましょう。


まず、最新の1冊から。

開くと、傷みが激しかった。印がつけてある行があったり、線を伸ばして注釈が書き込んであったり。

挿絵には落書きなし。


これ、No.15のじゃない。いったい誰の?


取り敢えず読んでいく。

ひたすら文章。

もっと簡潔にしてくんないかな。


そして気づく。資料を使った人は、頭の中で簡潔にしていただろうことに。ポイントに赤い線が引いてある。助かる。

おかげで、余白に隙間がないほど書き込まれていたというのに、割と速く読むことができた。


塩に関しては1行だけ。「従来の制度を引き継いでいる」。

従来の制度については書かれていない。ってことは、こっちに書いてあるのね。残りの35冊を見て、げんなり。


貿易に関しては、厳しく取り締まっていると記述あり。海の向こうの国から海賊が来るみたい。


赤と黄色の紙を用意して、付箋にした。赤が塩。黄色が貿易。


残りの35冊、どっちから読もうか。悩んだ末、最初から。


1冊目は、昔々、群雄割拠で、領土の境界がしっかり決まっていないころの話から始まっていた。塩登場。英雄達の戦いには、塩の産地をめぐるものがあった。

お、ここ、赤の付箋。


4冊目は前王朝がどれだけ酷いかが書かれていた。悪いことだけがひたすら。いいことだってしてただろうに。そして、どのように前王朝を倒したかが、事細かにあった。もう、ええっちゅーねん。

現王朝の初代皇帝は、ほぼ神扱い。眠っ。


翌朝の弓の稽古に備えて、寝よう。

すでに(セイ)は、すーすー寝息を立てている。あ、舌がちょっとだけ出てる。かわいー。




翌朝、弓の稽古に向かうとき、(リー)様から訊かれた。



「昨晩、珊瑚(シャンフー)様の部屋が静かでした。なのに灯りが点いてて」



え、普段は静かじゃない?



「書物を読んでたの」


「麗。珊瑚様が突如、難しい書物を読み始めたのですよ。第15皇子からお借りになって」



(シン)は「雪が降るかも」みたいに言う。



「そうだったんですか。珊瑚様が」


「いつもだったら、星とばたばた遊ぶ音が聞こえるのに、昨晩は全く」



やっぱ、いつもは騒々しかったのね。


弓の稽古から自分の部屋に戻るとき、どんな書物かを訊かれた。



「歴史とか、今の政治とかの」

「珊瑚様が?! すぐに奥様に報告しなければ」

「今の政治ですか」

「私、正直、何も知らないの」

「まだ13歳ですもの」


「ここにいたら、何も分かりませんよね」



麗様の一言に、頭をガツンと殴られた。



「ホントにそう」


「今、物価高で庶民が苦しんでいます」


「「そーなの?」」


「米も香辛料も値上がりしてます。服は、安いのと高いのがあって、真ん中の値段のは少ない。富める者はがんがんに金持ちに、貧しい者はどこまでも貧乏になって、二極化が起こっています。私は、ここでお世話になっているから、羽振りがいいんですけど」


「「そーなの?」」


「特に塩」





「塩がどうかしたの?」


「塩は、政府の専売なんです。都の辺りや海の辺りはまだいいけど、内陸では塩の値段がめちゃくちゃになってるそうですよ。塩商(えんしょう)塩官(えんかん)が値段を吊り上げまくって。塩証文(えんしょうもん)も山の中や治安が悪いとこは誰も引き受けたがらない」


「「????」」



ここに素晴らしい先生イターーー!



「どうしたのですか? 珊瑚様。いつもにも増して、麗をキラキラした目で見て」


「麗、私、それ、知りたかったの」


「え? 物価が上がって庶民が苦しんでることですか?」


「塩の話」


「塩?」



塩が政府の専売ってことは知ってた。塩商とか塩官とか塩証文は初耳。どうして値段が吊り上がるのかもよく分かんない。でもって、沿岸部や都と他の場所では、値段が違うの?

人に聞かれたくないから、紙に書いて欲しいとお願いした。



「それはムリです。私、字ぃ書けません。読めませんし」



知らなかった。



「じゃ、麗はどーやって劇の台本覚えてたの?」

「喋ってもらって。あと、劇を見れば覚えます」

「それ、すごい」



というわけで、続きは次の朝、弓の稽古場への行き帰りに。


塩は作るにも売るにも、基本政府の許可が必要。

塩商は政府公認の塩の商人。めっちゃ金持ち。

塩官は、塩に関することを扱う役人。賄賂(わいろ)三昧。


塩証文は、どれだけの塩をどこどこへ売ってもいいですよという証明書。


国境などの辺境へ兵糧を収めると、ご褒美として塩証文が貰える。塩の役所で証文に書かれている量の塩を貰い、証文に書かれている地域へ売りに行く。売るときは、その地域の塩商にまとめて売るのが通例。


兵糧の用意や運搬には多額な費用がかかる。これをできるのは、たくさんお金を持ってる商人だけ。塩証文は多額の金額の代わり。塩ペイってこと。


塩証文を貰うには賄賂が必要。儲かりそうな地域の塩証文は賄賂ましまし。塩を役所で貰うときには賄賂が必要。運ぶとき検問所で賄賂が必要。塩商達は、塩の値段に運搬費や賄賂を上乗せさくさく。


もう1つ。塩田(えんでん)は塩盗賊に狙われる。その警備が必要なので、その分も塩の値段にこみこみ。


エグ。

東宮はこれに目をつけて利権を欲しがった?

破格に儲かるから。軍を維持するために。



「塩って絶対必要だもんね。悪いことしてんだね。そんなん税と一緒じゃん」


「内陸部は困ってるみたいです。いっぱい塩採れるとこ以外は」



一昨日読んだところに書いてあった。内陸部でも塩が採れる場所は栄えてたって。塩の湖があったり、濃い塩水の地下水があったり、岩塩の山があったり。



「塩官と塩商ってワル」


「いい人もいるみたいですよ。塩将軍(えんしょうぐん)


「塩将軍?」


「塩、安いみたいです」


「ふーん」



塩は、多くの地域で値段の高騰が激しいことに加え、もう1つ問題があった。



「山の奥に住む人は、塩がなくて困ってるんです。政府の専売だから他から買えない。なのに、塩商は、僻地に売っても儲からないから売らない」


「ひどい」


「塩将軍は、そーゆーとこにも塩を売るんです」


「義賊なの?」


「おとぎばなしかもしれません」


「おとぎばなし?」


「誰も会ったことがないし、塩将軍が誰か知らない。でも、僻地に塩が届く」


「それってタダで?」


「まさか。塩商が売りに来るんでしょーね」



だったらその商人が塩将軍じゃん? あれ? 違うの? @_@


ついでに、塩を横流しする人達を(えん)マフィア、横流しされた塩を闇塩(やみえん)ってゆーんだって。



「ありがとう。いろいろ分かって嬉しい」


「珊瑚様はどうして塩の話など?」


「なんか、すっごく知りたくなって」



麗様、私、東宮を疑ってるの。もともと清廉潔白な人だなんて思っていないけれど、見た目と裏腹、想像以上に真っ黒なんじゃないかって。そんなこと言えないけど。

だからって、何かできるわけじゃないし、正そうなんて思わない。


好奇心かも。


300人と偽って、3000人の軍を持ってたり。

塩の利権を欲しがったり。

とどめは、皇帝に向けて矢を放った。


矢のことは、もちろん感謝してる。助かったんだから。


同時に、私は東宮に千載一遇のチャンスを与えたとも思う。

皇帝への意思表示。

自分は皇帝の座を狙っている。現皇帝を殺すことも厭わないって。


よけい皇帝に嫌われちゃうじゃん。今ごろ、皇帝は東宮制廃止、末子継承導入に動いちゃってるよ。


父は、皇帝の目論見を「杏にも言うな」と告げた。

頼れる大人が杏だけの私には辛いこと。

でも、知っていることは負担になる。杏を守るためにも話しちゃいけない。




この小説はフィクションで、中華ファンタジーです。ご了承ください。

塩証文、塩マフィア、闇塩は造語です。


一応、ネットで中国の塩政について調べております。しかし、世界史が超絶苦手で基礎知識がなく、難しくて理解できません。 (;_;) 佐伯富先生の「明代の票法」を参考にしております。

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