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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
下衆男

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17/133

いーな星、羨ましい




星輝(セイキ)! 会いたかったぁ」



東宮が視察に出かけて3ヶ月後くらいに星輝(セイキ)がたくさんの荷車と共にやってきた。汗で髪も服も体に張り付き、長旅のせいか靴底は擦り切れていた。


驚いたのは、(セイ)が星輝を覚えていたこと。



「わんわん」



子狼はほぼ子犬。鳴き声も一緒。+遠吠え。



「ご無沙汰しております。珊瑚(シャンフー)様」



挨拶しながらも、星輝の目は足元の子狼に注がれてる。分かるの?

星輝はしゃがんで星の頭を撫でる。

気づいた。左耳の切り込みみたいな傷触ってる。



「よ! 星輝。ほら、こいつ、あのときの」



走ってきたNo.15が星を星輝の膝に乗せた。今の星は、普通の柴犬サイズ。



「こんなに大きくなったんだ。ありがと。よかったなー、お前」

(セイ)って名前なの」

「え」



星輝に名前を言うと、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

少し会わなかっただけなのに、背が伸びてる。No.15と同じくらいだったのに。



「星輝って、背ぇ伸びた?」

「伸びました」

「前って皇子と同じくらいだったよね」

「はい」

「なのに……あ、れ? 今も同じくらい」


「オレも伸びてんの」



いつも会っているから気づかなかった。



「珊瑚様も背、伸びましたね」

「伸びてる」



そっかぁ、自分も伸びてるからNo.15が伸びてるの気づかなかったんだ。


離れた場所で、星輝の父親は、武官に荷物を引き渡している。武器? だよね。武器商人なんだから。



午後、私の庭に星輝とNo.15を招いてお茶をした。

最初にチャドクガの警告をしてくれたことのお礼を伝えた。



「もう今は大丈夫。そーゆーの、されないよ。文を出したかったんだけど、皇子にムリだって言われて」


「そうなんです。人に知られてはいけない仕事が多いので、どこにいるかはお伝えできません。だから文も」



それはおかしいと思う。



「だったら、仕事の話をしたい人は、どうやって連絡するの?」


「特別な方法があるのです」



星輝はそこまでしか教えてくれなかった。



「チャドクガよりもね、星のこと伝えたかったんの。心配してるだろーなって。この子ね、犬だと思われてるんだよ。東宮からプレゼントされたの。面白いでしょ? 子犬の飼い方を書いた紙までもらっちゃって。持ってくるね」



楽しくて、その紙を広げてみせた。

ご飯の肉の大きさや水の与え方、歯が生えるころ、そこら中を噛むこと、乳歯が大人の歯に変わるから歯が抜けても驚かなくていいこと、様々なことが挿絵つきで書かれている。



「へー。これ、異母兄(あに)の字じゃん。忙しいのに。そーいえば、前、お馬番が犬の育て方を東宮から訊かれたって言ってたっけ」



え、そーだったの? No.15から初めて聞かされる。



「珊瑚様は大切にされていますね」



そーゆー話をしたかったんじゃなくて、私は、ただ、星輝に、笑って、欲しくって。狼なのに、思いっきり「子犬の育て方」って書いてあるのを見せたかっただけ。



「お馬番がさ、もし子犬がいるなら自分が世話するって言ったんだって。そしたら、異母兄が、話を聞きたいだけだって。いかにも何か誤魔化してる感じで変だったらしー。ははは」



No.15の言葉に、星輝が微笑む。



ずきっ



心臓が何かに刺された。そんなふうに笑わないで。東宮と私はなんでもないから。私は東宮のこと、なんとも思ってないよ。

私の気持ちなんてお構いなしに、星輝とNo.15の会話は進んでいく。



「お馬番は、狼って気づいてるんじゃない? あの人、犬飼ってるじゃん。(うまや)んとこで」

異母兄(あに)の手前、気づいてても言えないだろ」

「そっか」

「な、遠吠えとかするんじゃね? 珊瑚」



名前を呼ばれ、改めて笑顔を貼り付ける。



「するよ。かわいーの。きゃおーんって感じ」


「星、遠吠えすんのか。いっちょまえ。ははは」



言いながら、星輝は星の顎を人差し指でつんつん(つつ)いた。

いーな、星。敬語なんて遣われないし、あんなに近くで笑いかけてもらえるし、触ってもらえる。


日に焼けて分厚い手。父や東宮とは違う。星輝の手は、力仕事をする使用人達と同じ手をしていた。


私についている侍女達は、星輝に目もくれない。No.15の友達って認識。

正室や他の側室達にとってはどうなんだろう。

星輝が来たということの意味に気づいているのだろうか。大量の武器がやってきたということを。


見せかけ300人の形だけの護衛をする兵士達は、実際には3000人規模の精鋭部隊。ここには、3000人の兵士が使う武器庫があるはず。一際大きな荷物があった。大砲かもしれない。

東宮は、公費以外の大金を動かしている。


父は、文がチェックされると言った。当然。

こんなゴツい秘密が眠ってるんだもん。

最初に聞いたときは、正室や側室の誰かが文をチェックしているのだと思った。違う。チェックしているのは東宮サイド。



星輝と星輝の父親は、しばらく都に滞在してから、また、どこかへ行くらしい。



「今、国境でいざこざがあるだけじゃないの? 忙しいの?」



疑問に思って聞いてみた。



「珊瑚様、平和なときにこそ備えが必要なのです。平和は豊かさの上にある。その豊かさは外から狙われています」


「おー、星輝。さっすが商売人。口、上手いなー」



No.15が茶化す。私は、星輝の言葉がストンと胸に落ちてきた。納得。



「じゃ、この帝国って、狙われてる?」



概ね平和。



「それは分かりません」



教えてくれない。星輝はきっと、いろんなことを知っている。







星輝が情報を持ってることは、ひょんなことから分かった。



「皇太后様がいらっしゃいました」



それを聞いたとき、さっと武術の稽古を止めて、即着替え。猛ダッシュ。稽古していた場から建物まで走るとき、自分の体が軽くなってることを実感した。侍女達はついてこれなかった。


そして、皇后様を丁寧にお出迎えサセテイタダキマシタ。

一応、挨拶の場には正室と側室が勢揃いした。けれど、さりげなく抜けていく。



「菊の植え替えを行なっております。皇后様、ごゆっくりなさってください。よろしければ、菊を見にいらしてください。美しいのですよ」



そんな感じ。

残ったのは、第4側室紫陽花(あじさい)と第5側室の私。予定通り。


皇太后様はコミ力お化けだった。基本笑いっぱなし。寵愛を独占し、後宮カーストのトップに立ったことに納得。圧倒的、陽。



「先日街で、後宮に毛皮や宝石を売りに来る商人に会いました。息子が大きくなっていて。頼もしくて。女の子にモテそうなの。こちらにも来るのでは?」



皇后様は閉じた扇子で紫陽花を指す。



「見かけました。第15皇子のご友人のようです。ね、珊瑚」

「はい」

「彼らは、海沿いで、視察中の東宮に会ったようね。使っていた荷車に、東宮殿の番号がついていました」



やっぱり星輝は、情報を持っている。


東宮殿の荷車には、荷台に数字の焼印がある。以前、荷車を間違えて困ったことがあってつけられたものらしい。

荷車は、東宮と共に視察へ行った。それを使っているなら、星輝と星輝の父親は、きっと東宮に会った。何かある。


海沿い。

以前、No.15が東宮は塩の利権を欲しがっていたと話していた。海沿いでは、海水から塩を作っている。偶然? それとも、東宮は塩の利権を既に手に入れて、生産地の視察をしている?



「今、東宮は海沿いにいらっしゃるのですね」



そういえば、私は東宮の視察の内容を聞かされていない。



「珊瑚、東宮は今回、海の港をお調べになっているの」



紫陽花が教えてくれた。



「そうだったのですね」


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