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気が弱いので後宮には向きません  作者: summer_afternoon
東宮殿

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13/133

早く帰ってください




圧倒的な運動不足。淑女の教育に足腰を鍛えるものなどない。自分の脚は、家の中を歩いていた程度だと思い知った。



珊瑚(シャンフー)様、お座りください」

(シン)はいつも立っているじゃない」

「私は座ることなど許されませんので」

「絶対に私より、脚が強い。私も鍛えるの」

「できなくても気にすることはありませんよ」



ピキッと引っかかった。

杏は、なぜ私が脚を鍛えたいのか分かっている。しかも、武術がめっちゃくちゃ下手ってことも。


くっそう。絶対上手くなってやる。


(リー)様はまだ15歳。でも、ずっと年上の兵士達より圧倒的に強かった。麗様によれば、兵士達は小さなころから武術を習っている。だから年数じゃない。


しつもーん。



「ねぇ、麗はどうやって強くなったの? 動きを速くするにはどうすればいい?」


「食べるためです。旅の一座で剣舞があるんです。最初はそれで剣の扱いを覚えました」


「舞だったんだ」


「はい。そのうち、強くならないと狙われるので、強くなりました」


「狙われる?」


「旅芸人という仕事は、女も男も若いと襲われるんです。売上金を強奪する輩もいますし。強くなるしかなかったんです」


「そうだったの」



事情があったんだ。麗様は綺麗だから、格好の標的。



「それに、昔からすばしっこかったんです」


「才能なのね。」


「生きるためです。物心ついたときは、道端で暮らしていました。盗んだ物で食い繋いでいました」


「なんだか、立ち入ったことを聞いてしまって……」


「子供のころ盗みで捕まって。そのとき盗んだちまきの料金を払ってくれたのが、世話になってた一座です。結局、追い出されましたが」


「そっか」


「速くないと捕まるし、強くないと()られる。それだけです」



こんな話聞いちゃったら、私、絶対に上手くなれっこない気がしてきた。



「少しでも上達したいなって思って」



ハードモードな人生じゃなくても、武術を上手くなりたい。



「練習です。だんだん、相手の動きを見る余裕が出てきます。相手がゆっくりに見えてくるんです」


「その域に達するのはずっと先かもだけど、頑張る」


「昨日より、動きがよくなっていましたよ。兵士達も褒めてました。練習あるのみです!」



麗様♡




夕方には、ルーティン化した東宮の訪問。



「珊瑚。今日はプレゼントがある」


「ありがとうございます」



服とか宝石かな。あんま、興味ないんだけど。


いつもは部屋まで入ってこない家臣が箱を持ってやってきた。

東宮は箱の蓋を開け、手招きする。



「あ。かわいい!」

「子犬だ」

「私にですか? ありがとうございます」



箱の中から抱き上げると、左耳に三角の切り込み。あら、この子。



「珊瑚は犬が好きだと言っていたから、探したのだ。なかなか子犬が見つからなくてな」



いえ、この子、狼です。



「……」

「私が出立する前に見つかってよかった。喜ぶ顔を見たかった」

「え?」

「可愛いなぁ」

「本当に」

「子犬も、子犬を抱く珊瑚も」



東宮はとても満足そう。



「きゅおーーーん」



! 子狼が突然の遠吠え。まだ下手くそで遠吠えっぽくないけど。狼ってバレたら連れていかれちゃう。



「きゅおーん きゃんきゃん」



自分の声を被せ、「遠吠え禁止」と念じながら見つめる。



「はあぁぁ。可愛い」



東宮は首を横に振りながら、何かを噛み締めるようにため息を吐く。子犬の育て方についてのメモまでくれた。いえ、狼なんですが。



「本当にありがとうございます」

「珊瑚、その子に東宮殿を案内してやろう」

「はい」



庭から出、子狼を抱っこしたまま、東宮殿を少しお散歩。


自分の庭まで戻ってくると、部屋からいい匂いがした。

部屋の扉の前、両側に立つ侍女が東宮に(かしこ)まったお辞儀をした。



「おかえりなさいませ。ご用意ができております」



部屋には、いつもより豪華な夕食の用意ができていた。

嫌な予感がする。


東宮は、にこにこしながら席に着いた。



「珊瑚は、牛肉が好きだと聞いた。さあ、いただこう」



ピンチ!


夜伽の流れは、

1、今夜の相手ですよーのお知らせ

2、入浴して準備

3、お迎え

4、一緒に夕食

5、夜伽


夕食と夜伽はセット。


きっと大丈夫。お知らせされていないから。

きっと大丈夫。入浴していないから。

きっと大丈夫。だって、私の気持ちを1番に考えるって言ってた。


このおっさん、どーゆーつもりなんだろ。



「ほら珊瑚、少し辛いのは好き?」



東宮は、私のお皿に美味しそうな物を取り分けてくれる。父母や祖父母がしてくれるように。



「好きです」

「っ。……。ほら、この牛肉のオイスターソース炒めは、好きか?」

「はい」


「こっちのエビチリの辛さはどうだ?」

「ちょうどいいです」


「これは?」

「好きです」

「っ。……」



東宮はときどき息を呑んで目を細める。

甲斐甲斐しく料理を取ってくれるのはありがたいのだけれど、ちまちました量じゃ味わえない。がっつりいきたい。


でも、その前に確認したいことがある。

今夜、ここに泊まるわけじゃないよね?



「いつもは1人でお食事なさっているのですか?」


「そうだな。1人が多い。大抵は、さまざまな報告を聞きながら。家臣と話をしたり。消化に良くないと分かっていても。仕事を優先してしまう」


「お忙しいのですね」


「ああ。終わりのない仕事だ」


「今日は大丈夫なのですか?」



=早く帰って。ゆっくり豪華ご馳走を味わいたい。



「珊瑚と過ごそうと思って、片付けてきた」


「……ありがとうございます」



ありがたくないよー。何時まで過ごすんだよー。怖いよー。



「なかなか一緒に過ごせないのでな」



それでいいんだってば。顔忘れる程度で。



「お忙しい中、朝、弓を教えてくださって、ありがとうございます」



その時、一緒じゃん。



「子犬に名前をつけよう」


「名前ですか」


「珊瑚がつけなさい」


「はい。(セイ)……」



うっかり「星輝(セイキ)が見つけた」って言いそうになっちゃった。



「よいな。(セイ)か」



決まっちゃった。



「星です」


「星」



東宮は星に呼びかける。星は寝ながら耳だけぴくっと動かした。疲れたよね。山の中で星輝に拾われて、都まで連れてこられて、No.15に飼い主が移ったのも束の間、知らない人のところで過ごして箱に入れられた。

さっき、お散歩のときも私の腕の中で寝てた。

お疲れ様。



「珊瑚は素直で弓の上達が早い。剣も槍も拳術も熱心と聞いた」


「恐れ入ります」



お皿がだんだん空に近づいていく。勿体ないけれど、食べ残すのが礼儀。これ以上食べられませんという意思表明。ちょうど食べるのを止める頃合いというのに、東宮は、、、いる。


湯浴みをしろと言われたらどうしよう。夜伽確定。

湯浴みなしでベッドに運ばれる可能性だってある。


昨日の馬上での言葉を思い出す。



『皇帝は何をしても、咎められることはない。たとえ目の前で何かあっても、誰もお前を助けない』



それは、東宮であっても同じこと。何かあったとしても、誰も助けてくれない。

ヤバい。


お腹が痛いって言う?

ダメだ。この状況だと、料理人が疑われて罰を受けてしまうかも。


どうしよう。



「さて。では私は部屋へ帰ろう。珊瑚、歯を磨いて、しっかり寝なさい。明日も早い」



よかったぁぁぁ。



「はい。おやすみなさい」

「おお。こっちにもおやすみを言わなければ」



東宮は、子狼に優しく「おやすみ」と挨拶。



ちゅ



あらら。キスまで。


退場。タスカッタ。




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