目的は謀反ですね②
まだ厳戒態勢らしく、広場は不自然に閑散としていた。
軍部で麗様を尋ね歩く。芦毛の馬はいた。隣に繋がれている馬と喧嘩している。
「どーしたの」
話しかけると、なんだお前かよ的にあしらわれた。この子、絶対に私のことバカにしてる。
「いい子にしてないと、帰ってきてもご飯あげないよ」
あ、効いた。ぴしっとして私の方をチラ見。
「分かったの? お利口。仲良くしてね」
私は、喧嘩していた馬と麗様の馬の間に赤兎馬を繋ぐ。
少し離れたところに、星輝の馬もいた。南自治区でお世話になった馬。星輝がまだ、ここにいる。
軍部の雑魚寝スペースに麗様の姿はない。
お重を返したいので、軍の兵士に取り次いでもらった。出てきたのは劉氏。
「第15皇子にこちらのお重を届けに参りました。お忙しいのでしょうか?」
「珊瑚様。いえ、そんなことはないのですが。……なんと言いますか。んー。ときに珊瑚様、戦のとき、最後、どこまで覚えていらっしゃいますか?」
劉氏は、目をぱちぱちと瞬かせながら私を窺う。
「最後とは?」
「落馬なさったときです。気を失われた」
「そうだったのですね。大変ご迷惑をおかけしました。私、落馬したのですね」
「えーっと、、、それを誰が受け止めたかは……?」
「受け止めた? まあ。劉氏様、ありがとうございました」
赤兎馬は普通に大きな戦仕様。あの背から落ちたら骨折間違いなし。それを救ってくれたのね。感謝!
「いえ、私ではありません。では、覚えていらっしゃらないのですね」
「どなたなのですか?」
尋ねると、劉氏は後ろの扉の方を振り返り、何かとコンタクトをしてから話す。
「ただの一兵卒です」
「ぜひ、直接お礼を申し上げたいのですが。お名前をお教えください」
「……」
劉氏は再び後ろの扉の方を振り返り、口をぱくぱくさせる。
「まだ戦中。お忙しいのですね。お手間を取らせました。では、こちらのお重を、第15皇子にお渡しください」
劉氏にお重を手渡して去ろうとした。ら、
「珊瑚、待って」
劉氏の後ろの扉からNo.15が出てきた。
「皇子、ご馳走様でした。飼葉もありがとう」
「落馬したときのこと、覚えてないの?」
「私、落馬したんだね。危っな。誰だろ、助けてくれたの」
ぱん
いきなり劉氏がNo.15の背中を軽く叩く。
「いいって。もう、下がれ」
「ん、ん、ごほっ。では、あとは若い二人でゆっくりと」
劉氏は、No.15に両手をぐーにしてガッツポーズ? なんだろ。そして退席。
「麗様を知らない?」
「麗なら、アイツといるんじゃね?」
「第9皇子と?」
「堀、見に行ってる」
「あ”ー。死体を土嚢代わりにしてたもんね」
「知ってた?」
「見てた」
「言ってよ」
「罰当たりだけど、効率いいのかなって。雨で浮いてくるとは思わなくて」
「フツーにダメだろ」
「戦って今、どーなってるの?」
「ハゲ霊山北は、珊瑚のおかげで相手が遁走。勝利。宮殿は動きなし。捕まえた大将は、『皇帝の弟を助けるために軍を出しただけで相手が誰か知らなかった』って惚けてる。東宮が幽閉された上に宮殿が攻撃されるのは一大事だと思ったんだってさ」
「なかなか図々しい言い訳を」
「おかしいだろ。珊瑚が言ってたように、日数が合わない。東宮の幽閉は知っていたとしても、宮殿を攻撃したのは宮殿から軍が出てきた後。なかなか謀反って言わない」
「そんなこと言ったら、一族ごと粛清されるもんね」
北区域の上層部、北東区域の知事一派がそれぞれ一族ごと殺されたら、何千人規模の粛清が起こる。
歴史では度々あった。最初は、ただ恐ろしいと思った。今は合理的だと考えが変わった。この国は自分のルーツを誇りにし、家名を大切にする。例えば、北の区域と北東の区域の支配階級は北の騎馬民族。彼らはそれを誇りにし、北の国に属したいと願っている。そのことがある限り、謀反の火種は残ったまま。粛清は有効。非人道的だけれど。
「今、戦の原因も行き先も見えなくなってる。戦としては万単位じゃないけどさ、メンバーが身内じゃん」
「皇帝の弟が知事一派と一緒に謀反を企てたから、それを阻止しようとして戦になったんでしょ?」
「謀反の証拠がない。取り調べのときの知事の自供は、一言一句そのままの記録を皇帝に報告したけどさ」
「皇帝に報告って、状況、どんどん変わってるよ?」
「アイツが逐一報告してる」
逐一。No.9が? No.15より筆豆な人イター。
あれ? No.15が口の前で人差し指を立てる。「しーっ」とジェスチャー。
???
No.15は足音を忍ばせて後ろの扉の前に行き、バッと勢いよく開けた。
ごろごろごろ
3人の武官が転がり出てきた。盗み聞きをしていたらしい。私のことを間者と疑ったのかも。
「失礼しました。今、ちょうど皇子に用がございまして」
「私はただ、この部屋を通ろうと思っただけです」
「貴方が武勇名高い女戦士ですね。お会いできて光栄です」
握手を求められ、私は手を差し出す。
「コンプライアンス! セクハラに気をつけろ」
No.15が、ぴしっと武官の手を払った。
「握手はセクハラではありませんよ」
そう言って、両手で握手。なんだか雰囲気が和やか。3人は、私が東宮の側室と知らなさそう。庶民だと思ってるよね。青巾隊ヒャッハー派バーサーカーの一員。
「では失礼して通ります」
「用は大したことではありませんゆえ、また」
「皇子、あまり硬い話ばかりではいけませんよ」
「言っておかないと、後悔しますよ」
「こらこら、縁起でもないことを」
「老婆心老婆心」
3人はNo.15と私の間を通って外に出ていく。
「私も失礼するね」
「え、あ、そ?」
麗様を探さなきゃ。戦が終わったから無事に決まってるんだけど。なんだかもう、家族な感じ。一晩帰ってこなかったら心配みたいな。
万が一、銃で狙われるといけないから、広場を通らず、商店街や民家がある道を通った。
ざっざっざっという大勢の足音が聞こえる。なにごと。
遠くから、青い巾の集団がやってくる。先頭の2人はゴリラと毛モジャ? このままでは広場を行進してしまう。走っていって止めた。
「広場は危険です。城壁の上から攻撃されるかもしれません」
「おお! 元気か珊瑚」
「どうじゃ、戦は」
来るの遅過ぎです。3つ終わりました。
「今は皇帝の弟が宮殿に籠っています」
そして状況説明。宮殿前の広場、宮殿東、ハゲ霊山の北で戦があったことなど。
「そーか。さっすが青巾隊」
「ロマン派は、ガチンコ対決は苦手でのう」
インテリ揃いと噂のロマン派は、筋骨隆々のヒャッハー派と真逆なタイプだった。箸より重い物を持ったことがなさそう。
「武器揃えてきたぜ。おう、珊瑚にも。ほい、神速無敵竹将軍」
「ありがとうございます」
「ワシらが作ったんや。竹に火薬を詰めてな」
「こっちにおる青巾隊が疲れたころに来る予定やったんじゃ。長丁場は気持ちがキツイ」
なるほど。疲れて、ほっと一息入れているところ。油断とも言う。
「こちらに。軍が場所を提供してくれています」
ゴリラと毛モジャが率いる青巾隊ロマン派を、軍部へ案内した。待っていた古参派が大歓迎していた。
私は麗様探しに戻る。再び広場の外を通って、城壁に穴が開いたところにある砦に向かった。
騒がしい。大勢の声がする。動きがあった?
物陰に隠れながら声のする方へ近づいていく。役所の裏、川沿いに出てびっくり。大きな帆船が到着している。
帆船からはどんどん兵士が降りてくる。鈍色の鎧には禁軍(皇帝の軍)のマーク。




