背中の傷を忘れても
前の話「狂戦士」を変更しました。青巾隊は塩マフィアなので、味噌ではなく、塩を使う梅干しにしました。
「どっか、この荷馬車隠せる?」
「えと、こっち」
「珊瑚、乗って」
御者の席、星輝の隣に並ぶ。基本1人用。近すぎ。また、男っぽくカッコよくなってる。
「そっちに同じタイプの荷馬車が並んでるから。馬は別んとこ。荷物置きっぱで大丈夫?」
「困る」
「んーっと。第15皇子に頼もう」
「え、ここにいる? 皇室別邸じゃなくて。ってか、戦? とうとう東宮返せってドンパチ?」
他所から来た星輝は詳しく知らなかった。説明は後。取り急ぎ、No.15を呼び出した。
大量の荷物をNo.15の私物として保管。荷馬車を軍の荷馬車に紛れ込ませ、馬も軍馬のところへ連れて行った。
軍部にある、No.15が使っている宿直用の部屋に入った。星も一緒。
「どーしたんだよ、星輝」
「ヤバかった」
納品する品を運んでいる途中、星輝は休憩しようと、道端にあった倉庫の軒先で雨宿りした。倉庫の中には進軍中の北区域の兵士数名がいた。中の1人は、取引をしたことがある知り合いだった。
北東区域の街は戦だと言われた。幽閉されていた東宮を巡り、皇帝の弟と第9皇子&第15皇子が争うお家騒動。
「なんか、ちょい違う」
No.15が否定する。
「届け先の兵舎の兵士は全滅って聞いてさ」
星輝に最新情報を教えた兵士は、北区域と北東区域は同胞なので、代わりに品物を受け取ると言った。信用できる人間ではあったけれど、星輝は「依頼主に届ける」とつっぱねた。代金も受け取らなくてはならない。すると、大規模な戦で取り込み中、誰であっても会う余裕などないとのこと。妙に高圧的で、武器を欲しがっていることは明らかだった。
「現地までお運びします。雨で濡れてしまっては、使う時に火薬が湿気ってしまいます」
火薬。運んでいる品物は銃。
星輝は従順なふりをし、隙を見て逃げた。
その話にNo.15が驚く。
「どこにいた?」
「区の境辺りまで来てる。その近隣の寺で休んでるときに逃げた。数は1200くらいかな。騎馬隊。後続隊が2000だって」
「はああああ?!」「ええっ」
合計3200。戦って倒した数より、たぶん、ずっと多い。
ところで、北の区域の街は遠い。軍を出す中心部から北東区域のここまで、徒歩なら20日くらいはかかる。馬だったとしても、4〜6日。
開戦を知るまでに4〜6日、戦をすると決め、軍を準備するのにも2日はかかりそう。さらに、区の境までは中心部から馬で3〜4日。
今は、開戦5日目。開戦を知る前から動いていることになる。
北の区域は、もともと戦うつもりでいた。
あれ? どこと戦うつもりだったんだろ。皇帝の弟は味方のはず。北東部の上層部とは同じ民族で繋がってる。
なんか、怖いこと、想像しちゃった。まさかの帝国相手? 実は、当初の予定はもっとずーっと南の都? 都までにいくつもある区域の城を落としながら。帝国征服……まさかね。
思い出した。人質がいるじゃん。
「知事がいろいろ知ってるかも」
「「知事」」
「うん。もともと知事が東宮に接触したくて、船の入港を拒否したって聞いたよ。それに、さっき考えてたんだけどね、北区域は、戦のことを知る前に進軍を決めたことになるの」
開戦の情報を得るのにかかる日数、戦を決定して軍の準備をする日数、こちらに向かう日数。そのことを説明した。
「すぐ異母兄達に知らせてくる。星輝は風呂に入れよ。珊瑚はそこで待ってて」
No.15が使っている部屋は、机とベッドがあるだけ。狭い。それでも、青巾隊を受け入れてスペースが半減した軍部で個室があるのは、特別待遇だろう。
「ね、星はどう思う?」
尋ねると、星は首を傾げた。そんな星に、私は肉の塊をあげた。
机の前、イスに座って冷静に考えてみる。
北区域の軍は3200。
こちらの北東区域にも多くの兵がいた。3000は帝国軍に、1000以上は知事達上層部の私軍に、数は不明だけれど皇帝の弟の私軍。
例えば他の地を攻めるとなったら庶民からも雑兵を募集する。1万の規模には即なっただろう。残念ながら、知事達上層部の私軍の多くは亡くなったし、帝国軍も削られた。青巾隊は1000は残っているかな。青巾隊の人数はちょっと不明。ジモティは通勤?している人多数で、メンバーが流動的。
皇帝の弟は、宮殿の目と鼻の先にある軍部の兵士は自分につくと計算していただろう。皇帝は東宮を排斥して末子継承にしたいのだから。
それが、No.9とNo.15が動いたことによって、皇帝が東宮を救う羽目になってしまった?
No.15は力なんてない。決定的な存在は、No.9。
すごかったのね、あのメガネ。
コンコン
扉がノックされ「失礼」と星輝が部屋に入って来た。
濡れていない服に着替えてさっぱりしている。
「珊瑚、背中の傷、綺麗に消えた。ありがと」
星輝は服のボタンを外し、シャツを下げて、私に背中を向けた。
そこには、痛々しい傷跡があった。皮膚が少し盛り上がり、引き攣っている。
「お礼を言うのは私の方。ちゃんとケガに見えるよ。痛かったよね」
「もう最近は、傷があったことすら忘れてる」
鼻の奥がツンとする。南自治区での日々は楽しすぎた。
あのとき星輝を大好きで、たぶん星輝も私のことを想ってくれていた。
「なーなーなー、地図もってきたし」
突然、No.15が入って来た。星輝が慌ててシャツを直す。そして、不自然に私から遠ざかりながらボタンを留める。No.15は、星輝が役人から拷問を受け、犯罪者の焼印を押されたことを知らない。焼印を消す手術をしたことも。
妙な間の後、No.15がドスの効いた声を出す。
「星輝、珊瑚に何した」
は?
「別に、何も「だったら、なんで珊瑚が泣いてんだよっ」
星輝の返答に被せるように、No.15が語気を荒げる。
「怒らないで、皇子。ちょっと、昔を思い出しただけ。東宮殿から逃げたときのこと」
気づかれたと分かった途端、気が抜けて、はらりと無防備な涙が頬を伝う。
「大丈夫? 珊瑚」
No.15が私に涙を拭く布を渡す。それを頷きながら受け取った。
「そんなことより、大事な話、して」
とお願いする。
星輝は、ここへくる前に納品先の兵舎に行ってみた。そこはもぬけの殻。隣接する厩舎は丸焼けになっていて、雨の中、周りにたくさんの馬がうろうろしていた。
「宮殿はどうなってる?」
聞かれたNo.15は、籠城の様子を説明した。城壁の一部を大砲で崩したことまで。
星輝は、No.15の両腕を掴み、真剣な顔で訴えた。
「油断するな」
その言葉だけで、宮殿の中に兵器があると分かる。皇帝の弟は恐らく、星輝の顧客。
「ん。感謝する」
No.15は星輝に告げ、東宮とNo.9が知事に話を聞きに行ったと教えてくれた。
「東宮、幽閉されてたとき、知事が来たんだって」
「やっぱ、知事はそれ目的だったんだね」
「へー」
「遷都しろっつってきたらしー」
「「セント?」」
星輝と私は首を傾げた。
「都を移せってさ」
「そんなの、決定権があるのは皇帝じゃん」
と私。
「遷都の約束してくれたら、北東区域と北区域出身の官僚を開国派にして、皇帝を退位に追い込んで、東宮を皇帝にしてやるって言って来たって」
「遷都にメリットってあるんだっけ?」
星輝が尋ねる。
「経済の中心が移動する。政府と癒着できる。知事一派は地方役人だから今のままじゃ、政府と繋がりたくても遠すぎる」
皇帝の弟を傀儡にしたように、東宮を操ろうと考えていたのね。




