狂戦士
東宮が兵士に告げる。
「矢がなくなった。ストックをくれ」
「はい!」
兵士から矢を受け取った東宮は、声を張り上げた。
「ここを死守するぞ! 1人も通すな!!」
一瞬、東宮と視線が絡む。東宮は、再び見張り台の上へ登って行った。
見張り台から城壁上に向かって矢を放つ。1本、1人。また1本、1人、と人が倒れる。
「誰だ? あれ」
「百発百中だな」
「すげー遠いのに」
「武官だろ」
東の湖側からの敵がいなくなり、ヒャッハー派グループは馬から降りて一息ついている。私の心臓は、それどころじゃなかった。どくどくと激しく暴れ、頭の中に「殺した殺した殺した」と言葉が反響する。何人斬ったか覚えていない。4人くらいまでは記憶にある。その後は無我だった。
「あの武官もすげーけど、お前ら兄妹もすげーし」
「オレらのグループだけで、1つの隊くらい潰したな」
麗様の馬は芦毛。白い毛に赤い血が目立つ。それは麗様が大勢の兵士を葬ったと物語っていた。
敵の死体は山のようにあるのに、グループは誰1人欠けていない。みなさん、強かったのですね。なんというか、タフ。体もだけど、精神的に。一仕事終えた笑顔なんだもん。
銃の音が止んだ。見張り台から東宮が降りて来て、近くにいた兵士と交代した。
「北と湖からの敵はもういない。ひとまず、城壁の上にも人がいなくなった」
「「「「おおーーっ」」」」
そこへ、No.9が護衛と走って来た。
「こちらにいらっしゃったのですか。お願いでございます。勝手にいなくならないでください」
「一言言えば、いなくなってもよいのか?」
「なりません。誰の救出が発端の戦か分かっておられるのですか? 命を落としたらどうなさるのです」
No.9がこっちを見る。やだ、視線が痛い。「お前のせいだ」って目。
「私の命など、それほど大したことはない。もう世継ぎがいるからな。そちらの状況はどうだ」
「広場になだれ込んできた騎馬隊が片付きました」
東宮とNo.9が去って行った。
ええーーっ。再開してるし。
気づけば、城壁の下に黒い人喰いグループが動いている。堀を埋める作業をしている模様。広場まで行かなくても、土嚢がたくさん手に入るものね。
「麗」
「珊瑚……」
声が沈んでいる気がする。
「?」
「初めて会ったとき、私に『人を殺したことがあるか』って訊いたじゃん」
「そうだっけ」
「あのとき珊瑚、好奇心できらきらの顔だった。芝居の観客と同じ」
「そうだったかも。何も知らなかったから」
人を殺める重さを。
私達、昔を懐かしむほど長く、一緒にいるんだね。
そんなシリアスな気持ちを、ヒャッハーな人達が吹き飛ばす。
「オレら、バーサーカーって呼ばれてるぜ」
「「バーサーカー?」」
「狂ってるくらい強ぇ戦士っちゅうこっちゃ」
「あいつらが『人喰い』って呼ばれるみたいにな」
「かっこよくね? 『バーサーカー』」
「飯食おうぜ。もう夕方だぞ」
今日は用意して来たよ。戦飯。
砦の中でいただく。仲間の1人が小さな入れ物から梅干しを出した。「美味いんだぜ。塩湖の塩さね」と、麗様の握ったご飯にトッピング。
「うまっ。こんなに美味い物をくれるなんて、いいヤツだな。ありがと」
麗様に笑いかけられた男は、♡_♡ デレデレ。更に麗様のポイントを稼ごうと、私にまで梅干しを勧めてくる。
「ねーさんも」
ヤダ。男は親指と人差し指で摘んだ梅干しを、私のご飯にトッピングしようとする。どーして指。箸使ってよ。さっき、用を足しに行ったよね? 絶対、手ぇ洗ってないよね。
ぴと
!!!!!
「食ってみな、ねーさん」
「あ、あはは……@_@」
目の前には、ご飯の上に薄茶色の梅干し。みんなに注目されて、食しました。泣きたい。
その日は、それで終わりだった。月明かりの中、人喰いグループは、黙々と堀を埋めていた。
軍の施設で雑魚寝するときに聞いた。湖からの歩兵は、もともとは騎馬隊だったと。
ヒャッハー派のどこかのグループが、厩舎をいくつか燃やした。あまりの火事に、馬が逃げて帰ってこなかった。やむを得ず馬なしで戦いに挑んだ。
奇襲作戦かと思ったら、成り行きだったのね。
日中、広場の南半分が戦闘の場になっていた。軍は、広場までの道、要所要所に隊を振り分けて敵を叩き、その残りが広場に辿りつく。それを、待ち構えていた青巾隊が潰した。
「星、大丈夫? 怖くなかった?」
「危ないって、星」
麗様と一緒に星をもふもふ。飼い主としては、安全な家で待っていてほしいところ。街中じゃ、食べ物の調達も不便だろうに。星の大きなふさふさ尻尾がぱたぱた揺れる。ふふ。癒されるー。やっぱ、ここにいて。
「明日は休みだろうな」
バーサーカーの1人が言った。「なんでや?」とすぐさま他の仲間が返す。
「雨」
その男によれば、風の湿り具合や何日も降らなかったことから、そろそろ降るとのこと。これまでも何度も天気を予測し、仲間内では絶大な信頼がある。
「雨か」
「砦ぇ、急いだのは、攻めてくるっちゅうのもあったけど、雨もあるやろな」
「ほー」
「雨降ったら、火縄銃が使えん」
「んでも、おめぇ以外で天気分かるヤツおるんか?」
「さあ」
翌日午前中は、待ちの時間だった。私軍の規模が分からないため、気を抜けない状況が続く。
そして、午後からは雨がぽつりぽつりと降り始めた。雨では銃をつかえない。そこを狙われるのか、お互いに体力を温存することになるのか。
更にその次、停戦2日目も雨だった。
青巾隊には、庶民から米や野菜、飼葉が届いた。届けに来た人達は、私達ヒャッハー派とは目を合わせない。心臓がずきっとした。人から悪意を向けられることには慣れていない。「誰からも好かれる」という呪いを信じていたから。
停戦3日目、雨の中、私は星を探していた。少し小雨になっていたころ。
星が民家で飼っている鶏や家畜を襲っては困る。肉をこっそり持って来た。
「星、せーい」
行きそうなのは、自然が残っている湖の辺りだろうか。
砦には見張りが3人。板で即席の屋根を作った場所にいた。
「おう。バーサーカーの」
そう呼ばれた。ペットを探していると言ったら、移動式の見張り台から探せと言われた。登った。結構な絶景。湖の北東の対岸には桜の群生。その隣に濃いピンク色の桃もある。どちらもまだ蕾。城壁の方を見てみた。遠い。ここから弓で豆粒のような兵士を狙うのは、私の腕では到底無理。
「こんな雨では、堀を埋める作業ができませんね」
見張り台から下りて話しかけると、一昨日は黒い集団が雨の中で作業をしていたそうな。人喰いグループ。雨で狙われなくて安全だと言っていたらしい。
「今なら大丈夫だ。ちょっと見に行ってみるか」
見張りの兵士達と見に行った。
ひっ!
「「「うわっ」」」
地獄絵図。ぷかぷかと死体が浮き上がって来ている。どうも、麻袋に入れて土嚢に見せかけていたのは運ぶ時だけだったらしい。土砂は雨で流れまくり、堀の中は一面泥水。堀の水位はめっちゃ高くなっている。
軍の人達は頭を抱えていた。やり直しかもね、これ。
雰囲気がどんよりしていたから「失礼しました」と、そーっとその場を離れた。
星を探しながら歩いていると、広場の西にある道の向こうの方から荷馬車が走ってくる。小雨の中、急いでいる様子。馬の足音が速い。その横に小さな黒いのが並走している。
星じゃん。何やってんの。
道で立ち止まって待っていると、満面の笑みの星が来た。尻尾を振りすぎて千切れそう。
「珊瑚」
「星輝?!」
どうしてこんなところに。




