戦への成り行き三昧
自分が敵だったら、夕方か明け方に攻めると考えた。当たらずとも遠からず。味方が明け方に攻めた。
「おはようございます。青巾隊って、軍の指揮下なのですか?」
建物から出て来た人に尋ねてみた。砲撃したのだから、軍は、もう出動していそう。
堀は埋まったのかな。
「いや。別」
「軍に感謝ですね。助けてくれたし、寝る場所も提供してくれて」
「マジでそうだよな」
「青巾隊は何時から動くのですか?」
「決まってないんじゃないか? 夜、交代で見張りしてたヤツはいたみたいだけど」
取り敢えずできることをしようと、食事を作る手伝いをした。
各鍋、100人分という凄さ。何をするのも力仕事だった。食材の多くは青巾隊ヒャッハー派が強奪してきたもの。良心の呵責で、若干ご飯が喉を通りにくい。
「ねーさん!」
給仕をしながら食べていると、街で成敗した3人がいた。セレブ女子に絡んでいたガラの悪い輩。知り合いみたいに声をかけないでよ。さっと目を逸らす。けれど、無法者は、私の気持ちなんてお構いなしだった。
「このねーさん、マジで強ぇんだよ」
「オレら、街でやれちまった」
「お前らが?」
「ウソだろ」
「ホントホント。3人がかりだったのに、ひょいひょい避けられてよ」
「コイツなんて、下半身丸出しにされてよ」
「恥ずいからゆーな!」
話を盛らないで。ミニスカートにしてあげただけじゃん。下着は切ってません。
「おう、ねーさん、馬乗れるか?」
「珊瑚なら、いつも馬に乗ってるよな」
「ンなら、こっち来いよ」
いーやー!
「馬、余ってるぜ。人が殺られちまってよ」
「お、ねーさん、剣、持ってっじゃん。ばっちり」
「いやいや。珊瑚はもう、家に帰そうと思ってた」
青巾隊の家に来ていた常連が助け舟を出してくれた。もっと言って。
「バカな。ねーさんがいりゃ、百人力だぜ」
「こっち来てくだせぇ、ねーさん」
「そーだそーだ。ボス! ボス、ボス。こっちこっち。ほら、この間話してたねーさん」
顔に刀傷のある男、キター。絶対にカタギじゃない風貌の人。
「おお。えらい若いな」
「あの、私はまだ、お食事の手伝いを……」
「おい、誰か、ねーさんに変われ。困っていらっしゃるじゃねーか」
あなた方に困っているのですが。
私は引きずられるように、青巾隊ヒャッハー派に拉致られてしまった。馬を紹介された。
「なぁ。乗ってやってくれよ。こいつ、相棒を亡くして、すっげー沈んでるんだ」
「でかい音にも槍にも動じない、戦向きのいいヤツなんだ」
赤茶色の子。優しそうな瞳。
「そう。ご主人、いなくなっちゃったの」
言いながら鼻の上を撫でると、顔をすりすりと寄せて来た。
まるで、乗ってくださいとおねだりしているような目に応え、乗ってみた。
「あいつも浮かばれるってもんよ」
仲間達は涙ぐむ。
そこへ、青巾隊の代表者が麗様を連れてやってきた。
「ほら、珊瑚が。ダメだよな、大事な妹なのに。麗」
「麗。麗って、まさか『刹那落としの麗様』?!」
「え、あの、前に流行った芝居の?」
「ヤッバ。本物だぜ」
「どうりで綺麗なねーさんだ。妹かい」
「妹、強いんだが。仕込んだのは麗様か?」
「おう。誰か、馬連れて来ーい!」
一言も発する隙もなく、麗様の目の前に大きな芦毛色の馬が来た。
「おい。この暴れ馬はダメだろ」
「コイツしかいない。暴れるから誰も乗らねーし」
「だったら連れてくんなよ」
「ついてくるんだよ。でもって、誰よりも飯を食う」
「麗様、コイツはムリだ。気性が激しくてよ」
「気に入らない馬がいると蹴りに行く」
「んだんだ。大人しくさせるためにタマ取ろうって話してたとこだ」
え。お馬さんって、気性が激しいとそんな目に遭うの?
芦毛色の馬は、すがるように麗様を見つめる。「助けて」って声が聞こえるよう。
「お前もタマナシになるか?」
麗様は不敵に馬に笑いかけてから、馬具もついていない裸馬に飛び乗った。
「「「「おおーーっ」」」」
「コイツが大人しく人を乗せるなんて」
と大盛り上がり。
麗様はヒャッハー派になった。
私、ちょっと怖いんだけど。それを麗様に話したら、みんな裏表がなくて付き合いやすいタイプだと諭された。
麗様の馬に、馬具が取り付けられる。
ヒャッハー派は小さなグループの集合。麗様と私が所属したのは10人のグループ。2人増えたから12人。5〜20人1グループで活動しているそうな。家に火をつけたり、盗みをしたり。活動内容に問題アリ。
「この戦だけだからな。妹をちゃんと嫁に出したい」
麗様が宣言すると、男達は「いい兄ちゃんや」と感涙。麗様って、この手の男達のツボを心得ている。
ところで、3発ぶっぱなした大砲で、宮殿の壁は崩れたのだろうか。
気になる。
大砲の音は、馬牧場がある兵舎まで聞こえたと思う。
「今度のヤツらは強いぞ。騎馬民族の血を引く傭兵だ」
「「「「ヒャッハー!」」」」
え”ー。相手が強いと燃えるとか、どーゆー精神構造か不明。死ぬよ。
「この道を使うと思うんだよな」
誰かが地図の中の道を指す。北から広場へのメインルート。
「ここらへんは道幅狭くなってるから、両側で待ち伏せするか?」
「それすっと、こっち側の馬牧場からのが来たら、挟み撃ちされるぜ」
「そしたら、この広場の入り口で叩くことんなる」
「店の影に隠れて待ち伏せか」
ヒャッハー派は馬に乗った者同士で戦うパターンしか頭にない。おずおずと挙手。
「ねーさん、どーした」
「屋根の上から矢を浴びせかけましょう」
「エグいぜ。採用」
「自分で言ったのにナンですが、広場に来るとは限りません」
「人質を取りに来るか?」
「人質は軍部にいるだろ」
「今朝の大砲のとこか?」
「城壁はどーなったん?」
「崩れた音しとったよな」
「壁崩れたとこ行くさね」
「そこへ騎馬隊を行かせてはダメです」
堀を埋める作業をする人が危険。
「だな。どっから来るか。うーん」
ボスは、他のヒャッハー派のグループのボスと話し合う。
待つ間、下っ端は不謹慎な会話をしていた。
「ちゃんといいとこ取ってくれるかな」
「宮殿に近いとこがいいよな」
「大砲で穴空いちまってんなら、中入るのは時間の問題だもんな」
「金目のもん、いっぱいあるだろーなー」
「女も上等だぜ」
「んだんだ。侍女まで綺麗どころなんやろ?」
「女楽しむ時間あるかなぁ」
「女女言っとけ。オレは金ぴかの物いっぱい奪うぞ!」
この面々に戦の大義はない。青巾の乱に参加した流れで仲間を見つけ、略奪が生業になっているだけ。貧しい農民に盗んだ物を分け与える話も聞いたけれど、全員がそれをしているとは思い難い。
ボスが帰って来た。
「宮殿の北東角や! 大砲の穴のすぐ近くで待ち伏せだ」
「「「「ヒャッハー!」」」」
みんな大喜び。もちろん、盗みと女がメインディッシュ。その前に戦わなきゃいけないことは忘れていそう。
麗様と私はがっくりと肩を落とした。1番危ない場所だもん。城壁の上から弓と銃で狙われる。無策だったら戦う前に全滅。
馬牧場は湖の北の方。道はなくても、湖に沿って馬で走れば、宮殿の北東辺りに着く。民家も農地もなく、戦場にうってつけ。
1人、喜び勇んで馬に乗り、広場を突っ切ろうとした。
「ストーップ!」
ボスが止める。
「え?」
「裏からこっそりな。広場なんて、狙ってくれって言ってるよーなもんや」
よかった。ボスはちゃんと考えてくれている。
安心。
物陰に隠れながら、大砲が置いてある場所へ向かう。
そこには簡単な砦が築かれていた。




