安普請はいけません
隣で、No.15が草の陰から立ち上がった。
「オレも行くわ。珊瑚も麗と麺、食べくれば? アイツのツケで」
「んー。とりあえず、麗のとこ行ってくる」
「じゃな」
「じゃね」
麗様は、No.9の後ろ姿が建物の陰で見えなくなるのを確認してから、No.9とは別ルートで広場に向かう。ぜんぜんの言うこと聞く気ないじゃん、麗様ったら。
走っていって、後ろから声をかけた。
「麗」
「珊瑚!」
ハグされた。♡_♡ なんだか、心の中でどんよりしてたものが飛んでいきますぅ。シアワセ。
「ごめんなさい。勝手に船で行っちゃって」
「びっくりした。走ったけど、船が岸から離れ過ぎててビビった」
「乗ってたのがいい人でね。知事を縛ってくれたの。お昼も分けてくれた」
「いーなー。腹減った」
「なんか食べよ、麗」
麺?
「広場に店、出てるかな。どーなったんだろ。私、タマナシくそメガネに薬で眠らされてさ。マジ、ムカつく」
それは、大事にされてるんだよ。
「麗、戦はね、」
正直に戦況を報告した。私が船で港に行ったとき、開戦の狼煙が上がったこと。宮殿から広場に敵軍が出て来て、それを、西側からNo.9の軍が、東側から青巾隊が削ったこと。その後、No.15の軍が到着して青巾隊が退き、敵が殺され、現在、広場は死体だらけだということ。
「そっか。やっぱ終わってないんだ?」
「うん。皇子の話では、知事が人質になってるから、戦をするかどうか決断できないんじゃないかって」
「ふーん。来るに決まってるじゃん」
「え?」
「騎馬隊を持ってるのは知事の一派。知事の一派は、北東部以北を騎馬民族の国にしたい。つまりは北の国を広げたい。北東部以北を手土産に北の国へ行ったら、知事の下でNo.2だった人がNo.1に繰り上がって、願望成就&北の国でブイブイ言わせられる」
「そうだね」
「この機会に活躍したら、誰であってもNo.1の可能性あり」
「チャンスなんだ?」
通ったのは、最初に包囲していた役所の北側の道。木立の間から宮殿の堅固な城壁が見える。宮殿隣の奥、木立の向こうは湖。湖周辺は、今は一般に開放されているけれど、もともとは前の統治者が景色を愛でるために作らせた人工の湖のある庭園。湖側の城壁には、色の違う部分があった。レンガの形が違う。
「珊瑚だったら、いつ攻める?」
「私? んーっとね。今は明る過ぎるし、敵が用意して待ってるから攻めない。勝って調子づいてるときって勢いあるし。もう『今日はないな』って思う夕方。か、明け方のまだ薄暗いくらいのとき。夜は見えないから」
「夜? 松明使えば」
「松明では、ちょっと。誰か分かんないと困るし」
そこで私は、第9皇子がとんでもない要人だということを話した。
「げっ」
麗様は顔を顰めた。この顔、確実に知ってる。宦ちゃん=第9皇子だって。
うっかり宮殿側の道を通ってしまったけれど、よく考えれば危険。いつ城壁の上から敵に射られてもおかしくない。銃弾が勿体ないから、たぶん弓矢。即死できなくて長い時間苦しむ確率大。途中まで来た道を引き返し、No.9が使った安全なルートで広場に出た。
一面の死体。麗様は、ぼーっと突っ立っていた。
「ショックだよね」
話しかけると、「飯、食えるかな」と呟いた。
「おう、麗、珊瑚! 生きてたな」
青巾隊のダーリン大工に声をかけられた。知事を捕まえた話が広まっていて、拍手で迎えられる。
「食べる物は何かありますか?」
「あるぞ。ヒャッハー派がパクって来た米と肉で作ったのが」
私はお昼、帆船の船員からちょっと貰ったんだけどね。できたてホカホカ。猪の肉、塊が大きい。噛みごたえばっちり。
麗様は、相当お腹が空いていたらしく、ガツガツと食べていた。
「宮殿の城壁、湖側が色、違ってました。修理したのですね」
ダーリン大工は詳しかった。
「もうだいぶ昔だけどな。ケチったから、またもうすぐメンテするんだぜ」
「え?」
「あの部分はな、前の統治者んとき、地震で崩れたんだよ。まーったく。オレらの血税で湖なんて造ったから、バチが当たったんだぜ。地盤が弱くなってたんだろな」
「メンテするんですか?」
城壁の他の部分は、外側がレンガ、中はレンガを砕いた物を入れて固めてある。しかし、地震で壊れた部分は、外側はレンガ、中は土砂。湖を造る大規模な土木工事や地震の復興に予算が取られて金欠だったから。
何十年かごとにメンテが必要らしい。
ダーリン大工は、人手が要るから手伝って欲しいと言われ、知り合いの土建屋と城内へ見に行った。
「外から見たら、大丈夫だが、中は下の方から崩れてて、地面がぬかるんでる」
「それ、軍に伝えましょう!」
「おお、そうか。そこが弱いんだもんな。まず、代表者んとこ行ってくる」
ダーリン大工は走って行った。見ていると、代表者と一緒に私を手招きする。
3人で、No.9のところへ。指揮官らしい。初陣なのに。
「よくやった! 場所を詳しく教えてくれ」
ダーリン大工と代表者は戻り、私だけ残るように言われた。
何だろ。「帰れ」って言われるのかな。
「大砲で穴を開けられそうなことは分かった。問題はその後だ。穴を開けても堀がある。先に堀を埋めるべきか? 堀は幅が広く深い。必要になる土砂も大量。そうすると、作業をする者達が上から狙われて死ぬことになる。いい案はないか」
「船を浮かべて渡るとか。それだと馬はムリですが」
「水面は結構低い。渡るのに一苦労だな」
「大砲で撃ったら、崩れるので、その崩れ具合で考えればいいのではないでしょうか。どうせ相手は逃げられません」
籠城しているのだから。
「そうか。もし城壁が崩れたら、上からの攻撃はできなくなるしな。ところで珊瑚」
「はい」
「麗は家に帰ったか?」
本当は、これを聞きたかったのね。
「いえ」
「そうか。珊瑚は帰らないのか?」
「分かりません」
「東宮と再会できたのに?」
「……」
だからぁ。困ってるって知ってるでしょ?
「どれだけ東宮に想われているか分かってるのか?」
「……」
「眉目秀麗のいい歳の大の男が、少女のようにはにかみながら珊瑚の話をするのだぞ」
「……」
「正直、ドン引きだ」
「……」
聞かなきゃいーじゃん。
「女というのは、ままならない生き物だな」
麗様のことだよね、これ。
「青巾隊へ戻ります」
「死ぬなよ」
「はい。皇子も。ご武運を」
No.9、No.15の予想通り、その日は何事も起こらなかった。
私だったら夕闇で奇襲するという推測は外れた。
夜、青巾隊は、軍部の建物に招かれて就寝。まだまだ朝晩は冷える季節。野宿よりもずっといい。雑魚寝。私は1番壁際。その隣が麗様。なぜか麗様の隣がジャンケンになり、結果、ジャンケンに参加していなかった新婚の男の人が隣になった。
眠らなければ。次の日に動けない。命にかかわる。目を閉じた。
星、心配してるよね。帰らなくて、ごめんね。
呑気に寝ていたのは麗様と私くらいだった。なぜなら、夜中に星が来て、麗様の隣に寝たから。疲れていて爆睡だったよ。麗様なんて、昼間も薬で眠らされていたのに爆睡。
明け方、気持ちよく目覚めると、男達は星シフトのポジション。星の近くには私達だけ。みんな窮屈そうだった。
まだ薄暗い。
井戸のところで顔を洗っていると、爆音が聞こえた。
ドーン がらがらぐしゃぐしゃ
ドーン がらがらぐしゃぐしゃ
ドーン がらがらぐしゃぐしゃ
まさか。今のって。城壁を攻撃したの?
広場に出て宮殿の方を見ると、宮殿の向こう側から煙が上がっている。寝ていたはずの青巾隊も軍の建物から出て来て眺める。
始まった。




