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動機とその後

「まさかテツさんがねぇ」

 翠は喫茶「ポアロ」で、だらしのないTシャツサンダル姿の智樹とカウンターに座り、ダンディーメガネマスターの増田さんと話していた。松下警部によると、テツさんは素直に取り調べに応じているとのことだ。

 テツさんは、商店会の会計を務めており、商店会費を使い込んでしまった。監査役の長沼翁が帳簿と領収書に不審な点を見つけ、使い込みが発覚したのだが、長沼翁はテツさんに、使い込んだ分を補填すればよし、さもなくば商店会の会合で事を公表すると告げた。会合の前日のことだったという。

 翠は言った。

「本人に言わずに、偉い人に告げ口しちゃえばよかったのに。だって監査役ってそういうものでしょう?」

「俺はまともに働いた事ないから。よくわかんないけど。そうなのマスター」

「いや、僕もよくわからないけど、長沼さんのことだから、事を荒立てたくなかったんじゃないかな。でもテツさんには、懲らしめるためにちょっと厳しく言ったんだろう。あの日公表する気だったかどうかも本当はわからないよ」

 翠は複雑な気持ちになって少し黙った。智樹も同じくやりきれない表情をして黙っている。翠が口を開いた。

「智樹さん。これから『すみれ』はどうなるの?お父様は何て仰ってる?」

「それなんだけど」

 智樹は言いづらそうに答えた。

「実はあそこは家賃が高くてさ、教室も赤字経営だったみたいなんだ。爺さんがポケットマネーで運営してたみたい。だから、親父はこれ以上借りる気がないみたいなんだ」

 智樹は肩をすくめた。

「俺にも家に帰ってこいってさ」

 翠はため息をついた。

 そうか・・・「すみれ」はとうとうなくなってしまう。せっかく見つけた私の居場所。私に笑顔を取り戻してくれた場所。でも、長沼さんや生徒さんたちと過ごした日々は忘れない。みんながくれた安心できる居場所を、今度は私が作っていきたい。

「残念ですが、覚悟はしてました。これから私、長沼さんがしていたようなパソコン教室を、もっと素敵な場所にして自分で開きたいと思っているんです。今までパソコン教室に通いづらかった、育児中のお母さんも子連れで通えるような教室とか」

 智樹も増田さんも驚いたように翠を見た。

「それは素敵な夢だね」

 増田さんは言った。

「教室ができたら、見にいくよ」

 智樹が言った。

「はい、その時は、智樹さんも教室手伝ってくださいよ」

「いや・・・俺はミュージシャンだから」

「探偵の方が合ってるんじゃないですか?事件の謎解きしてる時、いつもと違って頼もしかったですよ」

「クラプトンも言ってるだろ。ステージに上がった時、自分が一番上手いと思え、って。あれはステージの上でハッタリかましてただけ。テッつぁんに観念して自白してもらうためにな。実際証拠なんて全然無かったんだから。イチかバチかで、内心ドキドキしてた。これでもう一生分働いたな」

 そのしょうもない言葉に、みんなで少し笑った。

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