水神様、おはようございます
……僕が、いつからここにいるのかは、わからない。
「水神様、おはようございます」
僕は、気がついた時にはもう、水神様と呼ばれていた。
僕に向かって手を合わせる人間を、毎日眺めていた。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
挨拶をされるたびに、僕は嬉しくなった。
僕がここにいることを知っている人間がいる、それがうれしかった。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
毎日僕に会いに来てくれる、人間たちを気にするようになった。
毎日僕に挨拶をしてくれる、人間という生き物が好きになった。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、お願いします」
「水神様、おはようございます」
たまにお願い事をされるようになったけど、僕には何もできないのが気になった。
僕には、人間の願いを叶えてあげることができなかった。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、ありがとうございました」
「水神様、おはようございます」
僕が何もしなくても、人間は自分で解決してお礼を言った。
僕が何も解決しなくても、人間は感謝の言葉を口にした。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、ありがとうございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、お願いします」
僕は何もしていないのに、感謝されるので…、少し、戸惑う。
僕は、人間が挨拶をしてくれることがうれしくて…、ただ、それだけだったのに。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、ありがとうございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、見守っていてください」
「水神様、ありがとうございます」
僕はただ、ここにいるだけなのに…、人間はみんな、願いを叶えていく。
人間はただ、自分の力で願いを叶えているだけなのに…僕にお礼を言う。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、ありがとうございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、ありがとうございました」
「水神様、ありがとうございます」
「水神様、おはようございます」
僕には…、ほんの少しだけ、気持ちを乗せて挨拶をする事ぐらいしか、できない。
おはよう、今日もいい天気だね。
おはよう、今日は元気そうでよかった。
おはよう、自分の力を信じてがんばれ。
おはよう、大丈夫だから落ち着いて。
おはよう、君にいい事がある事を祈るよ。
おはよう、無理をしなくてもいいんだよ。
おはよう、いい報告をありがとう。
おはよう、あなたの悩みが解決するといいね。
おはよう、いつも元気な姿を見せてくれてありがとう。
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、ありがとうございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、ありがとうございました」
「水神様、ありがとうございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、おはようございます」
「水神様、いつもありがとう」
……伝わっているのかなあ?
僕の、気持ち。
……伝わっていると、いいなあ。
大好きな、人間たちに。
「水神様!おはようございます!」
おはよう!