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あれから二年が経った。
相変わらず、エリスは研究に没頭していて、クロノは世話を続けていた。
エリスの父は、いまだにルーちゃんの正体が自分であることを告白できていない。
しかし、変わったこともあった。
時々、三人で食事するようになり、父娘の会話も少しずつ増えた。
エリスは前よりは積極的に外に出るようになり、なんと女友達ができた。そして...。
「エリス、今度こそ休憩だ」
「も、もうちょっと...」
「それはもう聞き飽きた。切り上げるまで離さないからな」
魔眼を替えて負担が減ったのもあってか、クロノはかなり変わった。
あの日を境に、エリスを名前で呼ぶようになり、事あるごとに触れてくるようになった。
膝に座らせたり、抱きついたり、あちこちにキスをしてくるのだ。...心なしか、回数が増えてきているような気がする。
(たぶん、慣らされてる)
あの約束の意味がなんなのか、エリスにはまだわからない。
クロノはそのうち教えるとしか言ってくれないし、父に至っては目をそらすだけだ。
変わっていくクロノが怖いと思う一方で、それが嫌じゃないと思っている自分がいる。
「来月で、エリスもついに十七歳になるんだな。...長かった」
「...どういう意味だ?」
「楽しみってこと」
「...私が成人になることをか?」
「半分正解」
「...もういい」
エリスはこれ以上、問いただすのを諦めた。
「これだけやらせろ。本当にもうちょっとで、そばかすを消す薬が完成するんだ」
「...一年前は髪をツヤツヤにする薬、この間は老廃物を出す薬だったか。エリスもそういうのに興味を持つようになったんだな」
「.........から」
「ん? なんか言ったか?」
(うう~~、あとちょっとなのに...!)
一向に離す様子がないクロノ。
自分の羞恥心か、研究か...エリスは後者を選んだ。
「...私の、すべてをあげるわけだから! きれいになったほうがいいと思ったんだ! ほら、研究のジャマ!」
「...!!!」
腕の拘束が弱まったので、エリスは急いでフラスコに材料を追加した。
(クロノのバカ! 恥ずかしくて言いたくなかったのに!)
どうにか薬は完成したが、エリスのメンタルはボロボロだ。
なので気づかなかった。
「......こんなの反則だろ」
エリスの後ろで、クロノが身悶えしていることを。
いつもの夜だと思っていたエリスが、クロノから結婚届を出したと宣告され、そのまますべてを貰われるのは、もう少し先の話。