5
王たちを連れ帰った父に後始末を押しつけると、エリスはクロノを部屋の中に連れ込んだ。
...ちなみに、扉は父に直してもらった。
「まったく、最初から私に知らせていれば、もっと早く解決してただろ!」
「...悪い」
「わかればいいんだ」
違う、そうじゃない。
元はと言えば、顔を見せるなとクロノに言った自分が悪い。
こんな口調しかできない自分が嫌になるが、ひとまず用事だけは済ませないといけない。
「クロノ、今日からお前はこっちにしろ」
「...これは?」
エリスが差し出したガラス皿には、魔眼が乗っていた。
「...ずっと前から、クロノに内緒で開発してたんだ」
視える範囲はせいぜい、この国の面積ぐらい。
未来予知ではなく、未来予測。
ディンの瞳には、性能は遠く及ばない。
...それでも、クロノの負担はぐっと減る。
「本当は、その眼と同等な性能で作りたかったんだけど、私の技術ではこれが限界だった」
「...」
「だから、その...」
これ以上、上手く言葉にできない
このままでは、また悪態一直線だ。
「そうだ! ちょっと、そこで待ってろ!」
「おい、お嬢!?」
エリスが取り出したのは、納品予定だった嘘がつけなくなる薬だ。
無味無臭で、本来は飲み物に混ぜるそれを一気にあおる。
「お、お嬢...?」
「...私、自分勝手だから、クロノのことをずっと道具みたいに扱ってた。クロノのことを、ずっと縛りつけてた」
そうすれば、ずっと一緒にいてくれるから。
一人じゃなくなるから。
「でも、それじゃダメだって、本当はわかってた」
いつかは解放してあげないといけない。
その時は、あんな命を削る眼よりももっといいのを、餞別に送ろうと決めていた。
「別に、俺は気にしてなんか...」
「私が気にするんだ! クロノがなんとも思ってないのは知ってる! けど、お前が傷つくと、私が痛いんだ!!」
今までクロノが削ってきた命の分は、エリクサーでチャラにできたが、二度目は絶望的だ。
「最近は自炊できるようになったし、野菜だって食べられる! そのうち、掃除用や納品用のゴーレムを作るから、部屋も問題ない! だからクロノはクロノの人生を...せめて、もっと大事にしてくれそうな主を見つけて...」
「いくつか言わせてもらっていいか?」
涙でぐちゃぐちゃなエリスの顔を、ハンカチで拭うクロノの手つきは心なしか乱暴で、なんだか怒った表情をしている。
「毎回毎回、パン、ボソボソのスクランブルエッグ、野菜スティックオンリーで、よくもまあ自炊できるって言い切れるなあ?」
「み、見てたのか!?」
「当たり前だ! 追い出されたとしても、主の様子を確認するのは当然だろ!」
「そんなことに命を削るな! お前のそういうところが嫌なんだ! もっと自分を大切にしろ! 私の前からいなくなれ! ずっと一緒にいろ!」
「支離滅裂だな!?」
「うるさいうるさい! クロノのバカーー!」
嘘がつけないせいで、余計なことまで口走ってしまった。
なんかもう、グダグダだ。
「一人はヤダ! 出ていけ! 行かないで! 死なないで! ずっと、ずっと傍にいて! うわ~~ん!!」
「...」