剣を振ってみた
魔法を初めて使ってからしばらくして、今日もクララとの魔法の練習、と思っていたらどうやら違うらしい。
今日は別の女性が一緒にいる。場所はいつもとは違い村の外れにある空き地。
赤茶色の髪を肩ぐらいで切りそろえた女性で、クララより少し年下ぐらいだろうか。
「ソラス、彼女の名前はエレーン。この村で武術指南役を務めているのよ。」
「初めまして、ソラス君。エレーンよ。」
「はじめまして、ソラスです。それで、今日は何をするのですか?」
エレーンと挨拶を交わし、建前上目的をきく。
まぁ、彼女たちが手にしているものを見れば何となく察しは着くが一応念のため。
「ソラスは魔法がとっても上手だから不要かとも思ったのだけど、やっぱり自分の身を守るためにも最低限の護身術は身につけた方が良いと思ったの。そこで、エレーンに剣術の指導をお願いしたのよ。」
「護身術、ですか。」
「ええ、まだ4歳だけど、ここは辺境の山岳地帯に囲まれた場所。正直魔物が里に下りてきたりすれば危険にさらされるかもしれない。
それこそ、私が常に一緒に居てあげられれば一番良いのだけど、必ずなんて事は無いから、保険はいくつあっても良いと思って。」
ニコニコしながら説明してくれるクララとは裏腹に、エレーンは苦笑いを浮かべていた。
まぁ言いたいことは何となく想像が付く。
「クララさん、それでも4歳にはまだ早くはないですか?いくらソラス君が魔法を習得するのが早かったとは言え、それと身体操作が伴うかは又別の話ですよ?
それに、私との身重さもありますし・・・。」
「エレーン、何も直接打ち合えなんて言わないわ。まずは基本的に剣を振れるように、基礎から教えてあげて欲しいのよ。それそんなに直ぐ直ぐ剣を振り回すことが出来ようにはなれないわ。」
観念したようにエレーンは手に持った一振りの木刀をこちらに手渡してくる。
長さは彼女が手にしている物よりは短いが、それでも今の身長からすれば長い。
これはまた、振るのに一苦労だが、振れないわけではなさそうだ。
「それじゃあソラス君、まずは木刀を両手で握って、胸の高さまで持ち上げてみて。こんな風に。」
エレーンは腹をくくったのか、お手本になるべく木刀を握り、胸の高さまで持ち上げて構える。
前世で嫌と言うほどたたき込まれた剣道の型を思いだし、同じように構える。
グリザリアオンラインで剣士に転職したときも、同じように型から練習を始めたのを思い出す。
「(あのときは転職後の補助機能で剣の振り方の補正があったり、ゲームのアシスト機能があったけど、実際身につけた武術の動きって生きるんだよな。さて、今の俺はどこまでやれるのか・・・。)」
木刀を握ったまま深く息を吐く。
その姿を見たエレーンは驚いた。それもそうだ。いくら練習用、それも子供用の木刀とは言え、4歳の子供がそう簡単に持ち上げることが出来るとは思っていなかった。
クララの話では魔法の練習はしているが体は鍛えていないと言うではないか。
「そ、ソラス君、普段から何かトレーニングでもしているの?」
「え?いえ、まだまだ魔法の練習で精一杯で、全く何もしていませんよ?」
「ふふ、ソラスは武術のセンスもあるのかしら?将来が楽しみね~。」
驚愕するエレーンと、平常運転のクララ。
相変わらずの親ばかである。
「(そういえば、木刀ってそれなりに重かった記憶があるんだけど、この木刀軽いな。)」
きっと練習用に軽量化してくれた物だろうと勝手に思うソラスだが、そんなわけはない。
都市にある子供向けの剣術道場でも、最初に持たせる木刀はこれと同じ物だが、まず最初に持った子供達は持つことは出来ても持ち上げる事は難しい。
持ち上げる事が出来たとしても、ここまでまっすぐ構える事が出来るようになるにはそれなりの訓練を詰んでからである。
「そ、それじゃあ、私の動きを真似して振ってみて。」
木刀を頭上まで持ち上げ、振り下ろす。それを数度繰り返し、今度は左右に切り払う動き。
基本的な型練習の動きなのだろう。
「はい!」
久々に木刀を振るうということもあり、無意識のうちにテンションが上がっていたようだ、返事の声が思いの外大きくなっていた。
エレーンの動きを真似するように頭上に振りかぶり、振り下ろす。
まだ鍛えていない子供の体と言うこともあり、流石にブレてしまうがそれでもこの年の子供が行う動きではない。
剣術の大家でスパルタ教育を受けた子供でも、そうそう簡単にできることではない。
「クララさん、この子・・・」
「ええ、ソラスは天才でしょ?」
「いや、そうではなく、いやそうなのかもしれないですけど、この子本当に今日初めて木刀に振れたんですか?」
正直、エレーンはソラスが初めて木刀を振れたというクララの言葉を信じる事が出来ない。
自分が子供の頃と重ねても、全く迷うことなく振る動きは幾度となく木刀を振る練習をしたと感じさせるには十分だった。
だが、そんなエレーンの想いをクララは即座に否定する。
「ええ、本当に今日が初めてなのよ?なんて言っても、我が家には木刀なんてないし。ソラスが怪我しないように、危ない物は徹底的に届かないところに仕舞っているもの。」
胸を張るクララに唖然としつつ、ソラスの動きからは目を離すことが出来ずにいた。
「それで、ソラスは合格かしら?」
「・・・ええ、私がどこまで教えてあげられるかわかりませんが、指導を引き受けます。」
「そう、よかったわ!」
木刀を振りながらクララたちの会話を聞いていたソラスは冷や汗をかいていた。
「(そういえば、俺、今4歳児だよな・・・そりゃこんな簡単に木刀を振るえば不審に思うし、軽く振ることが出来るわけ無いよな・・・やっちゃったー・・・。)」
ごまかすことも出来ず、今更取り繕うことも出来ないため諦めるしかない。
と言うわけでそのまま黙って木刀を振ることにした。
それからは隔日でエレーンの指導を受けることになった。
1日おきに魔法と剣術の指導を受けることとなったわけだが、楽しいから苦痛に感じることは無かった。
エレーンは村の武術指南役をしているのと同時に自警団に所属もしているため魔物が出たり、他の街から商隊が訪れるときは指導はお休みである。
そういうときは大抵クララも用事で家を空けることがあった。
本来は常に連れ立って出かけるのだが、偶にどうしても一緒に連れて行けないと言うときは家で留守番だ。
そんなときは決まって裏庭で魔法と剣術の練習をする。
成長盛りということもあり、剣を振るい続けてるうちに筋肉もしっかり付いてきたし、何より身長も少し伸びた気がする。
剣術だけで無く、少しずつだがトレーニングもするようにした。
時間があるときは、格闘術の型の練習もするようにした。
前世では剣道だけで無く合気道、柔道、空手も習っていたので記憶が風化する前に体に覚え込ませることにした。
とは言ってもまだまだ簡単な型ぐらいしか出来ないが。
時間は過ぎ、6歳を迎えるころには、魔法も、剣術もそれなりに使いこなせるようになっていた。
魔法は第二階梯までは習得したことになっている。
剣術は小型の猪とかくらいなら倒せる程度にはなった。
ただ、正直それは周りに見せるのにそれ以上は目立ちすぎるから抑えているに過ぎない。
というのも、元々前世のゲーム知識と呪文が一緒であること、基本的な魔法式の作り方が酷似していることから、記憶を元に第四階梯まではすでに頭には入っている。実際に使用はしていないためどの程度の威力になるか、調整が必要かはわかっていない。
剣術に関しても、猪程度は片手でも倒すことはできるだろう。
むしろ、猪ならおそらく素手でも行けると何となく理解している。
相手の動きを見ていると、今まで以上にゆっくり動いているように見えるのである。
動体視力がよくなっただけでは説明がつかない気もするが、それはファンタジーな世界だからそういうことだろうと理解した。
「そろそろ魔物とか、そういうのとも戦ってみたいなぁ。まぁ、危ないことはしないに越したことはないけど。」
ここ最近の目標は1週間後に参加する「森入り」だ。
初めて参加するが、浅いところでも魔物が出るらしい。
何が出るのか正直わくわくしている。
ほかの人たちに迷惑をかけないためにも少しでも動けるようになっておこうと訓練を続けていた。
「スライムとか、ウルフとかいるのかな。オーガとかは厄介そうだなぁ。何が出るかなぁ。」
そんなことを考えながら、今日も元気に剣をふるう。
『戦闘系職業 剣士の制限解除条件を満たしました。スキル『剣筋補正』の解放条件を満たしました。』
『戦闘系職業 格闘家の制限解除条件を満たしました。スキル『動体視力強化』の解放条件を満たしました。』
『戦闘系中級職業 魔法剣士の制限解除条件を満たしました。スキル『魔気融合』の解放条件を満たしました。』
『生産系職業 鍛冶師の制限解除条件を満たしました。スキル『武器鑑定』の解放条件を満たしました。』
『規定数の職業制限解除条件を満たしました。ユニークスキル『鑑定』の解放条件を満たしました。』
『規定数の職業制限解除条件を満たしました。ステータス補正を適応します。』
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