魔法、使ってみた
続きです~
お盆は仕事も忙しいのですがそれでも書きたかったから書いた後悔はしてません!
あれから月日が経ち、今年4歳を迎えた。
あの日からとにかく何か出来ることは無いかと思考をめぐらせては眠くなり空腹になれば起きる赤子特有の生活を送っていたが何もそれだけの無為な生活をしていた訳では無い。
以前読んだラノベで、魔力は使えば使うだけ成長する、なんてのを読んだことを思い出して実践してみたりもした。
ゲームでは魔法系最上級職である大賢者まで登り詰めて居たわけだが、それはそれ。ゲームでは起動キーとなる呪文を唱えれば魔法は発動していたが、ここは異世界で現実。魔力をしっかり認識しなければそんなことが出来るわけがないことは何となく理解していた。
現代の気とかだと臍の辺りに丹田と言われる部分があって、そこに力を溜めることで気功術とかそういうことが~なんて昔趣味で集めたオカルト本に書いてあったことから、何となくそんな感じか?と想いながら、転がされたベビーベッドの上で意識を集中してみた。
すると、ぼんやりとだがなにか流れていることを感じられた。
それからは毎日毎日同じ事を繰り返して居るうちに、大きな間違いに気がついた。
ステータスを見ていたら、いつの間にか『気功術』と言う項目が増えていたのだ。
つまり、認識していた力は魔力ではなくて、気だったわけだ。
うん、丹田を意識したからそっちが目覚めるのは当たり前か。というかこの世界に気功術もあるのか。
と、そのときはあっけにとられたわけで。
そこからはまた一から探り直した。
もちろん、その合間に気功を練る訓練も行ったけどね。
それからは割と速く魔力の流れを感じることが出来た。
気功とは違い、血液と同じように体をグルグル巡る力の流れだったから気がついてしまえばあっというまだった。
体を巡る早さを速くしたり遅くしたり、手のひらに集めてみたりと新しいおもちゃを見つけたみたいで楽しかった。
気功と混ぜたらどうなるか興味がわいたが同時に使いこなすにはまだまだ体が未熟でそんなことは出来なかったというかやるのが正直怖かったわけで。
そんなことを繰り返しているうちに、気がつけば立って歩く事が出来るようになった1歳過ぎのころ、言葉も少しずつだがしゃべることが出来るようになり、母であるクララの溺愛がものすごかったがまぁそれはおいておこう。
絵本や英雄譚を読み聞かせられているうちにこの世界の文字が普通に読めることに気がついた。
そして、今に至る。
4歳にして家主であるアレクの書斎にある本はほぼ制覇することが出来た。
といってもどうでも良い物が多く、貴族家再興を目指してるとは思えない文学作品の山、山、山。
その中に何冊かあった魔導書。
基礎魔法の本で、魔力の練り方や基本となる明かりの魔法や水の魔法に関する記述などなど。
本当に基礎的な内容だったが、それでもこの世界の知識が無い俺にとっては非常に価値のある本だった。
だがしかし、我が父は魔法はからっきしだって母は言っていたはず。
となるとあの本はなぜ書斎にあったの。
甚だ疑問である。
「まぁ、お陰でこうして魔法を練習できるわけなんだけど・・・。」
家の裏庭、というかもはやここは森の入り口と言って良いのでないだろうか。
自宅がある農村、イナカ村というのだが、まぁそのままの意味で本当に田舎なわけで。
自宅の真裏が森というか裏山の入り口というか、山間を切り開いた開拓村の様なところで、広く拓いた場所に集落を作っただけの村なのだが、どの家も隣接すると様に森や丘がある。
お陰で隣の家との距離はそれなりに離れているから、変な目を向けられることも余計な目撃者が出ることもないのはラッキーだけど。
ちなみに母は共同井戸で洗濯をしながら井戸端会議中。
「水の魔法が使えるようになれば、母上もお喜びになるかな。」
今日は初めて、魔法の呪文を試す。
グリザリアオンラインでも最初に使った魔法。まさか呪文も同じだとは思っていなかった。
手のひらに魔力を集め、魔法を発動する鍵となる呪文を唱える。
「水氣の精よ、この手に集いて、糧となる水となれ。『ウォーター』」
三節からなる第一階梯魔法『ウォーター』。
基礎中の基礎である水を作るための魔法。
コップ一杯の水を作ることができれば最初は上出来である。
手のひらに集まっていた魔力がゆっくりと魔法陣を構築し、その上に徐々に徐々に水が生み出される。
「お、おお!成功だ!」
初めて使う魔法がうまくいって子供ながらに喜んでしまった。仕方がないじゃないか。初めてなんだから。
だがそれがいけなかった。
集中力が乱れ、予定より多く魔力が流れてしまった。
気づいた時には後の祭り。
魔法陣の上に生み出された水玉は急激に成長し、タライ満杯にしても余るほどの大きな水の塊に至り、制御できなくなった力は破裂する。
「わぷっ?!」
破裂した水の塊は辺り一面を水浸しにしても飽き足らず、ソラスを濡れネズミ変えてしまった。
ここが裏庭でなければ家の中が大変なことになっていた。
だが、予想以上に大きな音が響いたらしく、家の方からドタバタと足音が聞こえたときには時すでに遅し。
「ソラス、何があったの?!」
「は、母上?!こ、これはその・・・!」
クララが血相変えて裏庭につながる勝手口の扉を開いて駆け寄ってくるが、その表情は驚きに染まっていた。
「これ、ソラスがやったの?貴方、魔法が使えるようになったの?!」
「えっと、あの、父上の書斎にあった本に書いてあった呪文を試してみたら、その・・・」
これは怒られる奴だと思い、言い訳をせず素直に話そうと口を開いたが、次の言葉を発するより早く強く抱きしめられていた。
「すごい、すごいわ!さすが私の息子ね、もう『ウォーターボム』を使えるなんて!」
「い、いえ、これはただの『ウォーター』でして・・・」
「まぁ!それならもっとすごいわ!こんなにたくさんの魔力を込められるんだもの、ソラスは魔法の天才ね!末は大魔導士かしら、それとも賢者?」
「(すでにどっちも前世のゲームでマスターまで上げてます、なんていえないというかこの世界ではすでに職業欄に大賢者って出てますなんてもっと言えない・・・!)」
怒られなかったことにほっとしながら、ここまでの褒められると思っておらず、顔が熱くなる。
「(ああ、なんというか、くすぐったいな、この気持ち)」
前世ではいろいろと訳ありな環境で育った彼は、純粋に誰かから褒められたり好意を寄せられることに慣れていないのである。
抱きしめられたまま顔を真っ赤にして、どう反応していいか困っていた。
「魔法の素質があると分かったことだし、明日から魔法のお勉強ね。」
「え、母上、魔法使えるのですか?」
驚いたことにクララは魔法が使えるらしい。
だが、次の一言でさらに驚かされることになる。
「ええ、もちろん使えるわよ?こう見えて、元宮廷魔導師筆頭候補だったんですから。」
「(じゃあなんで没落貴族に嫁いだの?!)」
驚きの連続で口をパクパクさせていたらニコニコしながらクララが立ち上がり、抱きしめたまま家の中に向かって歩き出す。
「ただ、まずは濡れて冷えた体をお風呂で温めてからね。そのあとお昼ご飯を食べて、お勉強よ~。」
拒否権はないまま、風呂場に強制連行されるのであった。
そこからは毎日魔法の勉強と呪文の書き取りをすることになった。
もちろん、そのどれもがやはり覚えのあるものでグリザリアオンラインで幾度となく振るった魔法の数々であった。
「(懐かしいなぁ、初期職の魔法士になったときに必死に呪文をかまないように練習したっけ。)」
基本的に近接戦闘職を一つマスターしてから魔法職を選ぶユーザーが多かった中、彼は最初から魔法士を選択した。
理由は簡単。
『魔法が使いたい!』である。
せっかく五感がリアルに再現されたゲームなのだ、呪文や魔法陣を使って発動する魔法をまずは味わいたいと思ったわけである。
元々現実世界で武術を習っていたこともあり、近接系は転職すればある程度動けると思っていたのもある。
「(そういえば短縮詠唱とか無詠唱って、この世界でもできるのかな。)」
短縮詠唱とは必要な詠唱数を減らし簡略化して発動する技法で、魔法士をマスターしたユーザーの中でも一部が使えるようになり、上級職の賢者になったものでもすべてが使えるわけではないものだった。
魔法が発動するために必要な詠唱は、体内の魔力を使って周囲の魔力に干渉して発動するための鍵である。
それを簡略化するということはどういう原理で発動するかを明確に把握しなければならない。
突き詰めて魔法を覚えようとするユーザーはハードユーザーだけだった為完全には解明されていない技術であった。
無詠唱に至ってはそれを極限まで突き詰めた技法。最上級職である大賢者以外では、上級魔法職を全てマスターしたものしか至ることができない魔法技能の至高技法。
ゲーム世界でも高度ったスキルが、実際この世界でも使えるか、正直未知数の為わからない。
「(だけど、魔法の勉強は楽しいからいっか。)」
そんなことを考えながら今日も新しい呪文の書き取りをしていく。
毎日違う呪文の書き取りをして、発動する練習も行う。
知識が蓄積していくことが楽しくて毎日の母から教わる時間が楽しくて仕方がなかった。
「ほんと、ソラスは優秀ね~。いずれはやっぱり賢者様かも~。」
親ばかにもほどがあるが今日も平常運転のクララはニコニコしながら新しい教本を持ってくる。
父の書斎で見たものよりも高度で、使い込まれた教本はクララが愛用していたことがよくわかる。
それだけでクララがどれほど優秀な魔導士だったかが垣間見えるというものだ。
だからこそ、だからこそ思う。
「 (なんで没落貴族と結婚したんだろ、本気で謎なんだが。)」
口にはしないがこの家の一番の謎である。
深い闇に足を取られそうなのであえて口にはしないが。
それに開拓民の農家という割には大きい家屋なのだが、華美になりすぎない程度に豪華なつくりなのである。
謎が多すぎる我が家だが、あえて絶対口にはしない。絶対である。大事なことなので二度言った。
「(俺は、平穏無事に生きたいんだ。余計なことには口出さない。)」
前述したとおり、彼は前世でいろいろと訳ありの人生を送っていた。
そのため、処世術というものを心得ており余計なことに首は突っ込まないが信条である。
「さ、ソラス、今日は外で第一階梯魔法『ウォーターアロー』を練習してみるわよ。」
「はい、母上。」
今日もご機嫌に魔法の練習を行う。
きっと明日も明後日も、変わることなく続けることだろう。
『戦闘系職業 魔法士の制限解除条件を満たしました。無限収納の権限を一部開放します。』
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