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第23話 剣術道場

「いでででででででで!!!痛!!痛い!!!!!」

「だから言ってるだろう!!魔力に偏りがあるから痛みを感じるんだよ!!もっと集中して出力を繊細に調節しな!!」

「痛くて集中どころじゃねーんだけど!??」


 抗議の声を上げるユージアルの背中に手のひらを当て、その体内にあたしの魔力を注ぎ込む。

 若干出力を増やしたせいか、ユージアルが更に大きな声で「ぎゃあっ!!」と叫んだ。



 これは身体強化の効率を上げるための訓練だ。

 身体強化は身体の各部位に魔力を流すことで、その働きを強化するもの。

 武器による直接攻撃を得意とする騎士にとっては必須の術だが、効率良く全身くまなく均等に魔力を流すのは意外に難しい。利き腕や利き足、あるいは癖などで、偏りが出てしまうことが多い。


 そのように部位によってばらつきがあると、身体は無意識のうちにバランスを取ろうとして、勝手に魔力を体外に放出してしまう。つまり、無駄な魔力消費が増える。

 また、一部分だけに偏って魔力を流すと周辺の筋肉や骨に負荷がかかり、怪我の原因になったりもする。


 そこで正しい身体強化を身に着けるために編み出されたのが、あたしが今使っている強化訓練術だ。

 相手の全身に微弱な魔力を均等に注ぎ、その筋肉や関節、神経を刺激して、びりびりと痺れるような痛みを生じさせる。

 これに対し、相手は全身に自分の魔力を循環させ、注がれた魔力に抵抗し中和する。


 上手く中和できていれば痛みは感じないはずなんだが、ユージアルはさっきから痛がりっぱなし。

 これは魔力の調整が下手で、部位によって出力がまばらになっているせいだ。



「ババア、これ本当に訓練なんだよな!?俺を拷問してるだけじゃないよな!??」

「当たり前だろが。あんたを拷問したって何も楽しくな…いや…」


 あたしはちょっと考え込む素振りをする。


「悲鳴を上げるあんたを見るのはちょっと楽しい気もするね…」

「サドババア!!!!!」

「冗談だっての。いいから集中しな!」


 まあ実際、このように相手の身体に無理矢理魔力を流して苦痛を与える拷問というものも存在する。

 そもそも他人の身体に思い通りの魔力を流すのは難しい。ただ適当に流して痛みを感じさせるだけなら簡単だが、ちゃんと中和できるように均等に流すには相応の技術がいる。

 王宮魔術師のあたしには朝飯前だけどね。



「痛い痛い痛い!!ストップ!!もう無理だって!!ストップ!!」

「仕方ないねえ…」


 だんだん悲鳴が切羽詰まって来ているので、あたしは魔力を注ぐ手を止めた。

 少し離れた所で見守っていたセピオがこちらに近寄って来る。


「先生、進捗はどのような感じですか?」

「初日よりは随分良くなってるよ。この調子なら思ったより習得が早そうだ。…でも、さっきからもう集中が切れて来てるね。今日は一旦ここまでにした方が良さそうだ」


 そう言った途端、ぐったりとうずくまっていたユージアルがバッと顔を上げた。


「やったー!!やっと地獄から開放される!!」

「おや、まだ元気みたいだね?だったらもうちょっと続けようかね」

「む、無理…」


 再びばったりと床に倒れ込む。



「全く、冗談だよ。今の状態で続けた所で身になりゃしない、今日は本当にここまでだ。魔力も消耗しただろうし、一休みしたら後は剣の稽古でもやりな」

「おう…」

「分かりました!ではユージアル様、5分後に練習開始ですよ!!」

「休憩みじかっ!!もうちょっと休ませろよぉ…みーずー!レモン入りの水くれ!!冷たいやつ!!」

「はいはい、水分補給は大事ですからね」


 何やら駄々をこね初めたユージアルに、セピオが果実水を手渡す。

 最近はずっと真面目だったので、こういうわがままな姿は久し振りに見る気がする。


「何だい、すっかりグダグダだね。あのやる気はどこ行ったんだい?」

「やる気はあるんだけどさあ…張り合いねえんだよぉ…エリスさんに会いてぇ…」

「はあ?」


 どうも集中していないと思ったら、それが原因かい。

 呆れていると、セピオがコソコソと耳打ちをしてきた。


「先生、何とかエリスさんにも顔を出してもらえませんか。ちょっと応援するだけで良いので…。水曜と土曜はガーネット様の剣術道場で稽古や試合をやる事になっています。あちらなら先生の家からも近いですし、何とぞ」

「しょうがないねえ…。あの娘に言っとくよ」


 甘ったれるなと言いたい所だが、まあそのくらいは良いか。

 あの剣術道場は歩いていける距離だし、若返ってから活動的になったあたしはいつも暇を持て余しがちだ。

 買い物ついでにでも覗いてみるかね。





 …それから数日後。

 約束通りあたしは剣術道場にやってきたんだが…。


「とりゃー!!火炎爆竜剣!!」

「きゃー!」

「すっげー!!」


 ユージアルは、道場の子供達相手に炎の幻影を纏わせた剣を振り回して見せていた。

 幻影魔術が珍しいらしく、子供達はきゃっきゃと大はしゃぎだ。


「…何をしてるんですか、ユージアルさん」

「えっ、エリスさん!??」


 飛び上がって驚いたユージアルが慌てて幻影を消す。


「こここれは、幻影魔術の練習で…」

「火炎爆竜剣が?」

「ぐえー!!」


 冷静に言われると恥ずかしくなったらしく、胸元を押さえて呻く。

 すると子供達が興味津々の顔で集まってきた。


「ユージアル兄ちゃん、この人誰?」

「こんにちは、エリスと言います」

「もしかしてお兄ちゃんの彼女?」

「ちっ違、違うし!!」

「ええ。違います」


 きっぱり言い切ると、ユージアルはショックを受けた顔になった。当たり前だろうが。


「なーんだ!やっぱりそっか!」

「やめてやれよサラ、これは振られたんだよ」

「お兄ちゃんかわいそー!」

「お前ら、やっぱりって何だよ!?」


 子供達はますますはしゃぐ。

 どうやら平民の子供のようだけど、ユージアルとは随分と親しげだ。こいつ、子供には好かれる質らしい。



「えっと、姉さんとセピオはちょっと用があるって出かけたんだ。それで俺がこいつらの面倒見てたってわけ」

「えー。ガーネットせんせーはお兄ちゃんに『留守の間ちゃんと練習しなさいよ』って言ってたけど」

「そーそー」

「お前らぁ!!」

「きゃー!!」


 歓声を上げて逃げ出す子供達をユージアルが追いかけ始める。

 これじゃあちっとも稽古になりゃあしないと呆れつつ、あたしは少し考え込む。


 さっきユージアルが使っていた幻影魔術、あたし(エリトリット)がずっと前に教えたものだ。

 教えたのは基礎のごく簡単なものだけで、大して練習させた覚えもないが、しかしさっきの術は妙に上手かった。

 もしかしたら幻術と相性がいいのかも知れない。


 …これは使えるかもね。

 そう思った時、道場の後ろの扉がばたんと開いた。


「こら、ユージアル!!ちゃんと練習しろって言ったのに、何遊んでるのよ!!」

「げっ、姉さん!!」

「せんせー!おかえりなさい!」

「おや、エリスさん、来てくれたんですね」

「こんにちは。お邪魔してます」


 ガーネットとセピオだ。用事から戻ってきたらしい。

 道場の中はますます大騒ぎで、走るユージアルと子供達をガーネットが追いかけ回している。

 やれやれ。こんな調子で本当に大丈夫なのかねえ。

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