大好きだよ、アダンソンハエトリ ~不審者撃退編~
「なぁ、姉ちゃん、可愛いなぁ」
「俺たちと遊ばねぇか?」
「ちょっとちょっと、こっち来いよ」
街中を散歩していたら怪しい男数名に囲まれた。
春風が吹き抜ける、爽やかな時期のことだ。
「俺たちさぁ、退屈してんだよなぁ」
「遊ぼうぜ?」
「絶対盛り上がるって約束してやっからさぁ、な? どうだ? いいだろぉ? 姉ちゃんが来てくれれば絶対楽しいぜぃ」
「こっち来てくれよ」
男の一人は全身にペンで入れ墨風模様を描いたマッチョ。その右隣にいるのはひょろりとしているがモヒカンの頭が首もとから二つ出ている男で、左隣にいるのは虹色のワンピースを着るもまる出しになった太ももがどっしりとしている男である。さらにその奥には下着みたいな模様が描かれた服を着た男や文鳥のお面を着用したワインレッドの髪の男もいる。
「すみませんが、私は用事の途中ですので。失礼します」
言うと、全身にペンで入れ墨風模様を描いたマッチョが腕を掴んでくる。
「っ……!?」
「何だよ冷てぇなぁ」
込み上げる恐怖。
でもなるべく冷静に対処。
「……離してください」
「待ってくれって言ってるだけだろぉ?」
その時。
上から小さな何かが――黒くてちんまりした生き物が降ってきた。
それはマッチョの鼻にぴたっと貼りつく。
「っ、ぅ、うわああああああああ!! ぎゃあああああああ!! 蜘蛛! 蜘蛛! 蜘蛛嫌ああああああ! 取って取って取ってええええええええ!!」
それはアダンソンハエトリだった。
ベースカラーが漆黒なのでオスだろう。
「ぎゃあああああ! 動く! 動くううううう、嫌だああああああああ!」
全身にペンで入れ墨風模様を描いたマッチョは正気を失い暴れ出した――が、数秒後気を失った。
そこからさらにアダンソンハエトリはジャンプ。
目標を次の男へと移す。
――ターゲットは、ひょろりとしているがモヒカンの頭が首もとから二つ出ている男。
「ひょ!? ひょひょひょ!? ひょろろろろ!?」
彼もまた、小さな蜘蛛に翻弄されていた。
「ひょっ、ひゃっ、ひょほろろろ!? ひょおおおおおおおお!? ひゅひゅひょほおおおおおおおお!?」
顔で何度もジャンプされ、彼は逃げるように走り去った。
「うわっ、来たっ、ぎゃ!!」
第三のターゲットは虹色のワンピースを着るもまる出しになった太ももがどっしりとしている男。
アダンソンハエトリは彼の右太ももに引っ付く。
「お、おい! おりろ! おりろって、きもっ、離れろ離れろ! 無理無理無理!」
しかしアダンソンハエトリは動じず触肢を元気に振っている。
けろりとした顔つきである。
「や、やめ、やめろって! うわああああああ、もうやめてええええええ!」
虹色のワンピースを着るもまる出しになった太ももがどっしりとしている男は足を数回ばたばたさせてから走り去った。
その後、下着みたいな模様が描かれた服を着た男や文鳥のお面を着用したワインレッドの髪の男もアダンソンハエトリに好き放題され、最終的には奇声に似た声をあげながら去っていくこととなったのだった。
――地面に降りたアダンソンハエトリのオスがこちらをじっと見上げている。
「助けてくれてありがとう、アダンソンハエトリ」
すると彼は暫しこちらを見つめていたが、ぴょんと軽やかに跳びどこかへ去っていった。
その時私は初めて特別な感情を手にしたのだった。
――大好きだよ、アダンソンハエトリ。
◆終わり◆