表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【_WAVE】

冬戦【_WAVE_0】こんにちは、世界

作者: つかばアオ

 ・0

 

 

 この数日、雨の日が続いていた。この夜もまた重たそうな厚い雲に覆われていた。時に季節を感じさせることもある雨音には、現在激しさのようなものはなく、大地に大粒が降っているのではない。

 午後八時半過ぎ、女は自宅から窓の外を見て、世界の光に目を向ける。

 ご飯は食べた。お風呂はあと。ほかにやることって、あったっけ? 見たい映画もなかったはずだし。明日は。

 女は部屋着で静かな時間を過ごしていた。しかし、それもあとすこし。予定がある。

 コップの水を飲む。テレビを消す。リビングの明かりを消す。女は部屋を移動する。

 現代ではとくべつ珍しくもない部屋、女は時間を意識しながら入ると、左側壁際の棚から黄色のブレスレットを手に取る。見た目はシリコン製のリストバンドに似ている。今でもテレビなどで時々見られる、スポーツ選手が身につけているものに近い。

 片隅で、プログラムの金魚が泳いでいる。鮮やかな赤と濃い黒、ひれを揺らしている。

 女は状態を確かめて装着していると、女の声が部屋から聞こえてきた。

 金魚と同じで、プログラムで動いている。指定した時間だった。

『こんにちは、みふゆ。』

「こんにちは」

『体調はどうですか?』

「元気だよ。どこも問題なし。あるとしたら、体重がちょっと増えたかなってぐらいかな」

 これからの女の予定とは仕事だった。午後九時から、ぴったり始まることになっている。身なりを整えて自宅を出て、向かう必要はない。この部屋から行ける。

 アルバイトだった。その女には少しだけ悩みどころのあるバイト。身近な人には言えない。ゲームのアルバイト。

 しかも『用心棒』って。どう人に言えばいいのだろう。アルバイトで用心棒やってますとはなかなか人に言えたものではない(その女はそうだった)。えっ、何? と言われるに決まっている。

 女は部屋の中央へと歩いてブレスレットを触りながら言った。「ねえ。これ。手袋のやつに変えようかなって思ってるんだけど」

『手袋に、ですか? それは、どうしてでしょう?』

「えっと、気分?」女はあるものを握るような素振りを見せる。「それに、これももうそろそろ替え時だと思うから。試しにそういうのもアリかなって」

『わかりました。では、好みに合うものを探しておきます。製造元は。そうですね。』

「ありがと」

 女は準備を整えると宙を泳ぐプログラム金魚を一瞥する。

「それでバイト、リストの話だけど、更新はある?」

『このようになっています。』

「この人たちか」女は目の前に広がった一覧表に目を通していく。「なんでゲームでそんなことするんだろ。おもしろいのかな。いや、おもしろいのか」

『いつの時代も、さして変わりません。』

「うん。じゃあ、お仕事開始」

 彼女は手を伸ばし起動させると――照明を落とした――『WAVE』という名の世界に入っていく。

「こんにちは。世界」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ