川下りはつづくよどこまでも
88かいめ。
早朝からギラつく太陽、すでにTシャツは汗でにじんでいる。
営業開始前の準備、私はモップで舟の底板を拭いていた。
額に浮かぶ汗を拭うと、
「久しぶり~ごめんね」
と背後から声がする。
振り返ると、先輩船頭がにこりと笑っている。
一週間ぶりの帰還だ。
「おかえりなさい」
私も笑顔で返す。
「待たせたね。大変やったろ」
「はい」
夏のある日。
帰ってくる人。
「山本君」
普段着を着た臨時職人生のベテラン船頭。
「はい」
私は返事をする。
「あのさ、俺、今日までだから」
「へっ?」
寝耳に水とはこのことだ。
「うん、この前、お客さん乗せて川下りしたとき、体調が・・・ね・・・ちょっと、自信なくしちゃって」
ベテランさんは寂しそうに言った。
「・・・そうでしたか」
「やっぱりね~ちょっと考えたんよ」
「・・・そうですか、私もお客様に迷惑かけるような川下りをしたり、自信が無くなったらやめると思います」
私は言った。
「そうだよね」
「でも、体調が戻ったら、また」
「ははは、考えとくよ・・・じゃ」
夏のある日。
去る人。
それでも。
それでも・・・。
川下りはつづくよ。
川下り出発時刻10分前。
私はトイレを済まし、船着場で瞑想する。
「よし」
操船する舟に乗り込むと、木の椅子をバランスよく整え、舟の中を歩き異常がないか確認する。
(問題なし)
ばっちょ笠をかぶり、首紐をぎゅっと結ぶ。
舟のデッキに立ち、竹竿を舟側面の川底に刺し固定する。
そして案内係の方と目が合い、私はそっと手をあげる。
「こちらのお舟へどうぞ」
お客様が桟橋を歩き、やってくる。
「いらっしゃいませ!ようこそ柳川下りへ!」
おしまい
とりあえず、川下りよもやま話は完結となります。
ここまで読んでくださった皆様、真に感謝でございます。
去年の8月にはじめて、約1年ですか・・・。
88回、8月8日のすえひろがりで丁度いいかなと思いました。
今後も川下りのお話は書き続けていきたいと考えていますので、また良かったら読んでやってください。
ありがとうございます。




