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花嫁船

 その日は突然に。


 花嫁船の担当が、私にも来ました。

 その日は唐突に・・・。

 担当の方が喉を傷めていて、代理みたいなかたちでした。

 私個人的な思いとして、花嫁船の船頭は経験があり、竿のさし姿も美しく、口上や歌もうまい・・・というね・・・ようするに、自分はまだ早いと思っていました。

 あと願わくば、甥っ子がいいひとを見つけてきた時に、私の花嫁船デビュー・・・いわばバージンを捧げたいなあと思っていた次第なのでした。

 当日、言われた私は、

「え?」

 と、絶句、次に、

「本気ですか?」

 と尋ねました。

「だって(声)でらんもん」

「・・・・・・」

 あ~、流れ矢が飛んできた(笑)。

 もう、ちょっと、花嫁舟のやり方、見たり、勉強しておけばよかった。

 後悔は先にたたず、ですね。

 もう、賽は投げられ、私に委ねられたのです。

 ならば、やるっきゃない。ハートを磨くきゃない(この歌知ってる?笑)。

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、失敗は糧になる。

 が、すぐに、新郎様、新婦様の今日はこの日だけ!

 ずーんと重いものが肩にのししかかります。

 ふるふる。

 首を振ります。

 大丈夫!大介・・・お前はもしもの時の為に、朝の通勤中に花嫁船の口上と、祝い唄をずっと歌っとるやろ!出来る範囲で全力を尽くせ!

 ふぁい!

 腹は決まりました。

 

 白い純白の舟が花嫁舟です。

 無言で額に汗をかきながら、ぞうきんで舟を洗います。

 床板に赤絨毯を敷き、花嫁舟を用意します。

 準備完了。赤絨毯のわずかなゴミを拾い上げます。

 頭の中に、ずっと口上と歌が駆け回ります。


「そろそろです」

 ドキン!

 係の方の声に極度に緊張が高まります。

 出来るだけ平静を装い、私は右手に係留ロープを持ち身構えます。

 ふーっ。

 息を吐きます。

 はーっ。

 息を吸い込みます。

 パチパチパチパチパチ。

 万雷の拍手の中、新郎様、新婦様がおみえになりました。 

 私の腹は据わりました。

 なるようにしかならない。

 ならば全力でやるだけ。


 しっかりとロープを掴み、お2人を誘導します。

「本日はおめでとうございます」

 一礼をします。

「ありがとうございます」

 お幸せそうな2人から返事がかえってきます。

 スタッフの方に誘導され、2人が花嫁舟に乗られます。

 それからご家族や親族の方々、後続の舟に友人方々が乗られます。


 みなさんが舟に乗り込まれました。

 私は意を決して、

「それでは、本日はこの良き日にご結婚の儀整い、真におめでとうございます」

 喉がカラカラで、ばくんばくんと心臓が鼓動をうちます。

「・・・・(中略)ここに一曲お祝い申しあげます」

 いくぞ!落ち着けと心の中で叫びつつ、

「四海波平らかに~(中略)万年に及ぶ」

 幾度も声がうわずり、息が苦しくながらも、なんとか歌いきりました。

「それでは出発いたします」

 あとは、ゆっくりと安全に舟をすすめるだけです。


 陽が射し、水面がキラキラしだします。

 まるで2人の前途を祝福するように、私はとにかく竿をしっかり持ち、やりきること、ただそれだけです。

 2人の笑顔が見られ、自然と私の顔もほころびます。

 舟が無事着き、みなさんが降りられますと、途端にどっと疲れがきました。

 これは心地よい疲れですね。



 やって来た~。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 花嫁船、なんてのがあるのですね、凄く雅でいいです。これは絶対いい思い出になります、水郷ならではのイベントですね! でも観光客にはいっぱい写真を取られてそう。(笑) [気になる点] これって…
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