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小品集~ちぇんじ!
ハプニングはあります。
川下りを終えた私は、終点の沖端で待機するハイエースに乗り込んだ。
運転する先輩がスマホ電話で会社とやり取りをしている。
「山本、竿持って行くぞ」
「?」
一瞬、何のことか分からなかった。
「金田(仮称)さんが竿を折って、落水したって!お前いけるよな」
有無は言わさない口調だ。
「はい」
そう答えるほかない。
「よし」
ハイエースは急ぎ現場へと向かう。
私は車を降りると、竿を持ち現場へ向かった。
「金田さん、大丈夫?」
「ああ」
ずぶ濡れの金田さんは苦笑いを浮かべる。
「じゃ、変わりましょう」
「ああ、みなさん、すいませんでした」
金田さんは、丁重にお客様にお詫びを言う。
私は金田さんと交代し、デッキに立つと竿を構える。
「行けるか」
先輩の声。
「はい」
と、私。深呼吸ひとつ。つとめて明るい声で。
「お待たせ致しました。これから再び出発します」
出来る限りの平静と虚勢を装い、私はぎこちない笑顔を見せ舟を進めた。
笑顔は大事。




