小品集Vol.3 赤ちゃん川下りする
乳幼児さんですね。
今日は一段と底冷えのする寒い日、こたつ舟には火鉢3個を入れて温めています。
平日ですが昼前となり、ぼちぼちお客様も増えてきます。
熟年夫婦の方と若い夫婦のお母さんに抱かれた赤ちゃんがみえられました。
「お舟は一時間ちょっとの旅です。こたつ舟ではございますが、温かい恰好でお願いします」
両夫婦はにこやかに頷いてくれました。
ブランケットを若奥さんに手渡します。
「赤ちゃんにどうぞ」
「ありがとうございます」
私は赤ちゃんの様子を見ながら、舟を出発させます。
(ちょっぴり早めに)
私は自分に言い聞かせます。
赤ちゃんにとって、この環境はどうだろうと考えると、少し寒い(※夏場はね~日射病や脱水症状が気になりますね)ですから、出来るだけ負担のないようにと心がけます。
こっちの気持ちを察してか、おとなしいおりこうさんの赤ちゃんです。
中盤まで静かに寝ていました。
このまま、すやすや終点まで寝ててくれたら嬉しいなあと思いつつ。
おぎゃー。
おぎゃー。
やっぱりね。
お母さんが周りに迷惑がかからないようにと慌てて赤ちゃんをあやします。
私はつとめてにこやかに笑います。
「赤ちゃんは泣くのが、お仕事ですからね」
「そうそう」
老夫婦の奥さんがそう言って頷いてくれました。
(ありがたい)
心の中で感謝します。
心持ち、竿を持つ手に力が入り、終点まで集中して竿をさしました。
「お待たせしました。ありがとうございます」
お客様に挨拶をし、若夫婦とすれ違う際、赤ちゃんに
「頑張ったね。おりこうさんでしたね」
と、伝えました。
ご夫婦はにっこり。
何事もなくて良かったと、私はほっと胸を撫でおろしました。
こんなこともあります。