白秋祭2021③
なんとかっ。
ここまでは順調・・・私は少しだけ気が緩んでいたのかもしれない。
日吉神社に近づくと、桟橋には太鼓の演舞、その横では舟の混雑がはじまっていた。
ここは中間地点にして、トイレ休憩の場所だ。
お客様のほとんどが、お酒を飲まれているのもあり、ここでトイレに行かれる。
当然、私担当のお客様も「トイレっ!」と言われるのはマストなのである。
桟橋には、すでに舟で埋まっており係の人の指示で待機が言われる。
ゆっくりとスピードをさげ、掘割をトイレ待ちの舟が数隻漂っている。
一隻、二隻と桟橋から舟がでていく。
舟をゆっくりと桟橋へとつけ、桟橋の鉄の輪っかに舟のロープを結び、お客様を誘導する。
思いのほか、酔われているお客様が、デッキの上で靴を履かれようとし、ふらつかれる。
「山本っ!桟橋の上で靴を履いてもらえっ!しっかりロープ持ってカン(鉄の輪っか)に固定しろっ!」
私の師匠が叫ぶ。
思わず、はっとなる。
(これが白秋祭・・・気を抜いちゃ駄目だ)
「はい!すいませんっ!靴は桟橋の上で履いてください。その方が安全です」
「はい、はい、はいっと」
お客様は上機嫌だ。
私はロープを片手でしっかり持ち、もう一方の手でお客様の背に添える。
なんとか無事、全員がトイレにいかれた。
「ほっ」
私は一息をついた。
「ごめん!ずれて、次、舟入る」
係の人が矢継ぎ早に言う。
「・・・あっ、はいっ!」
気を抜く間もなく、出ていった舟のスペースを埋めるべく、舟をずらす。
カンにロープがカラ結びして焦る。
(ああそうだった・・・これが白秋祭)
再認識する。それからお客様全員が舟に戻られ、再出発する。
「船頭さん、次の橋越えた桟橋で、もう一人乗るから」
「は、はい」
(聞いてないよ。俺、そんなとこ止めたことないのに・・・いや、やれる)
私は戸惑いを捨てると、いままで経験を駆使し、ゆっくりと桟橋に舟を停めて、お客様に乗っていただく。
(予期せぬことがあるのが白秋祭・・・頭を柔軟に判断は速やかに)
これより舟は、しばらく安定し目的地、柳川橋に近づいた。
およそ2時間、通常の運航の2倍の時間だ。
舟が一列に繋がり、ゆっくりと進むのでこうなる。
ちなみに前回は3時間ぐらいの船旅。
「船頭さん、〇〇の舟つき場に停めて」
(別の舟会社ですけど~)
想定外のことで、心の中で叫び焦る。
「はい。あの○○に停めるですね」
私は念押し二度聞きする。
「おう」
「・・・・・・はい」
船頭は臨機応変・・・ほんの少し先が私達の舟会社があるのだが・・・。
私は、はじめて他社の船着場に舟を停めた。
そこで再びトイレに行かれるお客様たち。
私は桟橋で舟を係留し、お客様を誘導・・・。
(やばっ・・・!)
ズルッ!
右足が桟橋に乗っている感触がなかった。
桟橋の端に舟を停めたのを瞬間、忘れていた。
「くっ!」
踏ん張る。
ここに来て落水は勘弁だ。
必至の形相で、なんとか耐えた。
(ラッキー!あとは、花火の見物ポイントに行くだけだ)
しかし、その間、ぞくぞくと舟は所定の位置へとついている。
ようやくお客様が揃って、その場所へと向かう。
「おまたせー、いいところ(花火)で見せてよ」
「はいっ!」
心の中ではトホホである。
だけど要望には応えたい。
なんとか、舟の間を割って所定の位置に入り込む。
すぐに花火がはじまった。
秋の夜空に輝く花火。
お客様も船頭も彩る花火を眺めた。
歓声と終わった後の熱気。
白秋祭、今年の柳川の風物詩が幕を閉じた。
無事に閉幕っ!よかった~。