白秋祭2021➁
夜の掘割に浮かぶ灯り舟。
通常の川下りの営業は終わった16時30分頃、白秋祭参加の船頭たちはハイエースに乗り込んだ。
夕暮れ、車は柳川の町を走る。
出発地点の沖の端に到着すると、早速、船頭たちは担当舟の準備へと入る。
必用備品を整え、舟の清掃を手早く行う。
それから乗船場へと移動、数隻の舟が整然と並び、その時を待つ。
船頭たちは交代でトイレに行き整える。
次第にお客様や飲食業者の方が舟に弁当、ご馳走、ジュース、お酒を待ちこまれ賑わいはじめる。
船頭は係留したロープをしっかり持ち、お客様を誘導する。
時間はあっという間、あたりを夕闇が包むと、灯りのついた舟がぼんやりと浮かびあがる。
にわかに活気づく沖の端。
私はバンダナにした豆絞りをぎゅっと強く結び、気を引き締める。
(大丈夫、一度経験している。今日は楽しむぞ)
祭囃子が聞こえだすと、舟にお客様が乗り込みはじめる。
土足厳禁で靴をデッキの下に入れていただき、絨毯に座っていただく。
細心の注意を払いお客様に注視する。
ふと気がつくと、いつの間にか開会の宣言がされ、最初の舟が出発しはじめた。
竿を強く握り締め、自分の番手を待つ。
狭い沖の端の掘割に並ぶ、およそ30隻の舟がゆっくりと粛々と出発する。
私は乗り場から舟のデッキに乗り、竿を水底へと押し込む。
舟との距離をとり、ゆっくりゆっくり、
(慌てるな・・・ゆっくり、ゆっくり)
自分を落ち着かせながら絶えず言い聞かせて。
今年初となる夜の舟が白秋祭、思ったよりも暗いと感じたのが第一印象だ。
それは沖の端を抜けて、御花邸の周りの堀をまわっているときに感じた。
周りに明かりがなく、鳥目の私には、ちと辛く目を慣らそうと大きく瞳を見開いた。
(前の灯り舟について行けばいい、慌てることは何もない)
私は前の舟の灯りと船の軌跡をしっかり見て、つかず離れずに竿を動かす。
大きく曲がって、岸辺のステージに近づき、柳川市民のみなさんの楽器の演奏に近づく。
ゆっくり曲がり、舟を進める。
橋に近づくとお客様への声をかける。
「橋をくぐります頭上には気をつけてください」
お客様たちは独特の白秋祭の雰囲気を楽しみ、お酒を飲み盛りあがっている。
沿道には声援をおくり、手を振る人たち。
「柳川はじめてです」
「柳川さいこー」
お客様が手を振って答える。
岸辺の広い場所には、いくつかのステージが設けられ、柳川市民のみなさんが歌をうたい、楽器の演奏をしてお客様をもてなす。
舟はその場をゆっくりと通り、いくつかの橋を越えた。
それは幻想的にもみえる光景。




