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エピローグ(トーキング フォー ザ リンカーネーション2)  作者: 弐屋 中二


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8/100

極上のクソ


※最初に。

 歩きながらの咥え煙草はとても危険です。

 人波などですると、背の低い子供に煙草の灰や火が降りかかる危険性があります。

 決して、本文はそれらの行為を助長する意図は有りません。





「ここどこかしら……」

全てが虹色にうねった上下感覚のおかしくなるような広大な一本道を

傷だらけの上半身を晒したクラーゴンがダラダラと歩いている。

着ている服は下半身の破れたカーゴパンツだけで、裸足である。

「私の聞いていた冥界とは違うわ……」

クラーゴンは戸惑った口調とは違い、余裕のある表情で

歩きながらポケットを探る。

ニヤリと笑いながらいつも吸っているハーブ煙草の箱を取り出すと

「吸っても吸っても減らないのよねぇ」

旨そうに歩き煙草をし始めた。

「……ローレシアン軍大将なんてしてると、こんなことすらできなくてねぇ。

 たまにはいいでしょ?誰もいないんだし。

 元暗殺者よ?私。正義の使者じゃないわ」

彼はまったく躊躇なく、虹色の道を進んでいく。

懐かしそうな顔で何かを思い出したように

「ローレン、モー、サマクス、ヒトミかぁ。

 二十歳になるまで、みんな死んだなぁ」

そしてため息を煙と共に大きく吐きだして

「懐かしき仲間たちが、黄泉への途中でグズグズしてて

 一人ずつ、再会……なんて思い描いてたんだけど」

仕方なさそうな顔をして、一度立ち止り

グルッと、上下左右が捻じれた虹色の辺りを見回すと

「タカユキ様に付き従ったのが運の尽きって感じねぇ。

 これ、特別ロードってやつでしょ多分」

口から煙を上へと吐き出して

ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべながらさらに先へと進みだした。


さらに数時間、クラーゴンはダラダラ煙草を吸いながら歩きつづける。

ハーブ煙草はいくら吸っても、亡くなることは無かった。

彼はふと、遠くに人影がポツリと立っているのを見つけた。

大きく煙を吐き出すと

「はいはい。どうせこんなことでしょうよ」

人影へとできるだけゆっくりと近づいていく。

近くまで来ると、腕を組んだセーラー服姿の鈴中美射が立っていた。

彼女は風もないのにツインテールをなびかせながら真面目な顔で

「クラーゴン君!

 ナーニャちゃんたちが来るわ!さっさと生き返りなさい!」

クラーゴンはプカーッと煙草の煙を上へと吐き出してから

「……まぁね。そりゃマナちゃんを見捨てる気はないわよ?

 けど、タカユキ様ご本人が来るのが筋ってもんでしょ?

 私は、まだ本気であのお方と殺し合いしてないわ。

 ここでもう一度、完膚なきまでやられてから、強引に連れ帰られるって感じのを想像して

 ゾクゾクしてたんだけどねぇ……」

鈴中は実に嫌そうに顔を顰めながら、長身のクラーゴンを見上げると

「居ないのよ……但馬はどこにも居ないの。

 だから、あなたが必要なのよ。新たなる王のために生き返りなさい」

今度はクラーゴンが本気で嫌そうな顔をしながら

「マイロードの娘とはいえ、ションベン臭い小娘のために働けと?

 あのねぇ、ミイ様、私だって主君は選ぶわよ。

 あのスカスカの空洞の周囲を暴力で塗り固めたような破壊者の凄みは

 残念ながらあの子には無いわねぇ……」

鈴中は苦笑いして

「だったら、いつか反乱を起こしたらいいだけでしょ?

 寝首でもかきなさいよ」

クラーゴンは顔を顰めながら

「あのねぇ……暗殺は大人になる前にとっくに飽きたのよ。

 派手に殺し合いたいのは、よく知ってるでしょ?」

鈴中は理解した顔で深く頷いて

「分かったわ。じゃあ、あなたの理想の世界に満足するまで転生させてあげる。

 どのくらい戦いたいの?」

「そうねぇ……無限に、飽きるまで」

クラーゴンがそう言った瞬間に彼の身体はその場から消えていた。


次の瞬間、クラーゴンは体長数メートルから、十メートルほどの

灰色の巨大昆虫たちが荒野で殺し合う戦場のど真ん中に立っていた。

それらの巨大生物たち鋭い甲殻に包まれた殺気を帯びた目線を浴びた瞬間に

クラーゴンは辺りの数匹をいつの間にか両手に持った二刀の偃月刀で切り刻んで殺していた。

そして黙って、薄く笑いながら昆虫の群れに突進していく。


鈴中の残った虹色の空間で五分後経った頃。

「遊ばせるのももういいか。はぁ、ダウンサイズほんんんんっと面倒だわ……」

鈴中は思いっきり脱力すると、指をパチンと鳴らした。

その音と同時にクラーゴンが元の姿のままスッと帰還する。

顔を思いっきり顰めて、鈴中を見下ろしながら

「もうおわりぃぃ!?」

抗議の声を上げる。

「圧縮された時空間で、一万ラグヌス(年)も戦ったら十分でしょ……。

 むしろ人格崩壊してないのが異常なくらいよ……」

呆れた顔の鈴中にクラーゴンはいきなりパッと笑顔になると

「……それだけの力持ってたら、私なんて要らないわよねぇ?」

何事もなかったかのようにニヤニヤしながら尋ねた。

鈴中は膨れながら

「違うんですー。パズルのピースとして必要なのよ。

 あなたとナーニャちゃんが再開することが、何らかの時空の歪みを……」

クラーゴンは鼻を鳴らすと上を見上げ

「ミイ様、いや天下のリングリング様が、藁にもすがりたいと」

楽しげにそう言った。

鈴中はそれには答えずに、その場から消えた。

クラーゴンは、満足げな顔で煙草を取り出すと

咥え煙草でまた、虹色の歪んだ道を歩き始める。


クラーゴンがしばらく歩くと、見覚えのない荒野へと出た。

遠くでは黒雲に覆われた天まで突き抜けるような巨大な石柱が何本も伸びていて

雷鳴が時折照らす黒雲の中には、異常に巨大な何かが蠢いているのが見える。

彼が振り返っても、先ほどまで歩いていた虹色の歪んだ通路は跡形もなかった。

「はいはい。ここで待てと」

クラーゴンがプカプカとハープ煙草をふかしながら

辺りを見回していると

後方の空から猛スピードで、何かが近づいてくる。


「クラーゴンさああああああん!!見つけたああああ!!」


ナーニャの声が空から響いた次の瞬間にはクラーゴンの手前に

フォルトゥナを背負ったナーニャが音もなく着地していた。

「……」

クラーゴンは煙草をくわえたまましばらくナーニャの金髪の頭から

旅装、そしてその武骨な旅用のブーツの先まで見回す。

「なっ、なに……?」

「いや、殺せるかなと思って」

「……えっ?」

絶句したナーニャにクラーゴンは短く刈りあげた後ろ頭を撫でながら

「タカユキ様の綺麗な部分だけをケツからむりやりひりだして

 練り上げたようなお子様を私の悪意一つで、永遠に粉砕できないかなって」

低い声で、そう言ってプカーッと煙を吐き出した。

「えっ……ええええ……けっ、ケツ?」

ナーニャはクラーゴンの言葉の意味が分からずにさらに戸惑いだした。

「ちょっと、そこに座りなさい。ナホン式で正座ね」

「えっ……あの……」

ナーニャは何が何だか分からない顔で

クラーゴンの前に正座して、仁王立ちしている彼を見上げる。

「よろしい」

そう言ったクラーゴンも満足した顔でナーニャの前に正座した。

「あっ、あの……」

何か言いたげなナーニャをクラーゴンは眼力で黙らすと

軽く咳ばらいをして、真面目な顔をしてから

「あなたの御父上のタカユキ様は極上のクソよ」

と一言、言い放つ。

ナーニャは黙って顔を顰めて聞いている。

「考えてもごらんなさい?

 才能に満ち溢れたタカユキ様が人生で望んだことって何?

 あれだけの力を持ちながら、自分の故郷への帰還だけを望んで

 それがどうでもよくなってからは、あなたたち家族の安泰だけでしょ?

 散々高次元人たちやミイ様に良いように利用されて、惑星に歴史的に迷惑をかけた虚無の王すら

 正体が自分の仲間だと分かるとあっさり許してしまう。

 こんな中身空っぽの人間って他に居る?」

「う、うー……あの、よくわかりま……」

困り顔のナーニャをクラーゴンはまた眼力で黙らすと

ニコリと重みのある笑みを浮かべ

「だからこそ、私は好きだったの。

 いい加減な破壊者がこのふざけた世界の……いや、宇宙の果てまで壊し尽くせばいいと思ってた。

 例えばねぇ、タカユキ様が対峙している相手を、許せない敵だと認識したときの残虐さを

 あなたは知らないでしょう?」

「う、うーん……お、お父しゃんはいつも優しいよ!残虐じゃありま……せん……」

ビクビクしながら何とか反論したナーニャをクラーゴンは慈愛に満ちた目で見つめ

「あなたは純粋な正義の使者よね。

 きっと薄暗いタカユキ様の闇は受け継いでいない。

 まぁ、それでいいと思うわ。でもねぇ……」

次の瞬間には、フォルトゥナを抜いたナーニャがクラーゴンから

数メートル背後へと高速バックステップで離れていた。

全身から滲み出る霧のような闘気を辺りにまき散らしながら

クラーゴンは、ナーニャを指さして

「せっかくなので、私の全力の悪意を浴びてくれない?」

ナーニャは首を横に何度か振った後に諦めたように

「知らないよぉ?」

と呟いて、両手持ちしたフォルトゥナの切っ先がクラーゴンに向くように

水平に音もなく構えた。


瞬きする刹那、巻き上がる砂塵の中で

猛烈な打ち合いの閃光が幾重にも広がっていく。

そして、一秒過ぎたころには、巨大な穴の開いた地平に

無傷のクラーゴンが天を見て大の字で転がっていた。

そして

「あははははははは!」

と野太い低い声で黒雲の広がる空へと笑い始めた。

「指一本触れることさえ叶わないとは!」

ゆっくりと上空から何の闘気も纏っていないように見えるナーニャが降りてくる。

ナーニャは静かにフォルトゥナを鞘に納め、腰に帯剣すると

音もなく着地して、右手を腰に当てて深く息を吐きだしてから

「クラーゴンさん、何か強いねぇ……こんなに前から強かった?修行した?」

心底感心した顔で、嘘の無いとても正直に響く言葉を発した。

「……」

クラーゴンはカッ両眼を開いてガバッと上半身を起こすと

ナーニャの顔をまじまじと見つめ

「……そうか、純真さの化け物だわ。

 闇が極まれば光射すと言うことか……。

 ナーニャ様も云わば闇の無い光の塊……親並みのモンスターということか……」

「あ、あのーっ……」

スッと立ちあがったクラーゴンは困惑しているナーニャに右手を差し出した。

「タカユキ様が還ってくるまでの間よ」

「う、うん?」

ナーニャが金髪の後ろ頭をかきながら首を傾げると

クラーゴンは歯を見せながらニカッと笑って

「物語の正義の主役にちょっとの間、浮気するって言ってんのよ。

 さっさとこの手を握り返しなさい」

「えっ、えっ……ええぇえ……」

ナーニャが釈然としない顔でクラーゴンの右手を握り返そうとすると

サッとクラーゴンが引っ込めて、ナーニャは前のめりにズッコケそうになった。

クラーゴンは満面の笑みで

「ナーニャ様、ひとつ、どんな時でも

 一度本気で殺し合った相手を簡単にまた信用しないこと。

 どんな、汚い恨みを持っているか分かりませんよ?」

「あの、それは……クラーゴンさんが私に……」

おずおずと引っ込めようとしたナーニャの手を力強くクラーゴンは握り返すと

「僭越ながら薄暗い私めが残酷な世の中を渡っていく術を、お教えしようということです」

跪いて、その手の甲にキスをしてサッと離した。

「よ、よくわかんないけどー……よろしくお願いします。

 あの……みんな、概念界の町で待ってるんで……行きます?」

「もちろん。マイプリンセス」

「じゃ、じゃあ、飛んでください……」

クラーゴンは滲み出る黒い煙を纏い、ナーニャはそのまま空中へと駆けあがる。

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