お前よりもっとかっこわるいぞ
「あれ……こんなところだっけか?」
丘陵の高所に色とりどりの巨石がストーンサークルのようにグルッと並んでいる場所に
セイと着地したナンスナーがその背中で首をひねる。
セイも不思議そうな顔で
「いや、色は付いていなかった気がするが……セイ様場所を間違えたか?」
ナンスナーを降ろすと一度その場から消えて、すぐに戻ってきた。
そして腕を組み首を傾げながら
「おかしいぞー……上空から見てきたんだが
場所は完璧に合ってるんだ」
ナンスナーが思いついた顔で
「あっ……もしかしたらタカユキとかミイがどこかから
何か時空に影響を及ぼしてるとか……」
セイは黙り込んだまま、いきなりナンスナーの小柄な体を抱え上げると
ストーンサークルの中心部に置いた。
「おい……雑だぞ」
ナンスナーに睨まれると、セイは気にしない顔で辺りを見回しながら
「うるさい。セイ様は慎重な女だ。
まずは雑魚ロリを生贄にして、この現象を調査する」
と言うと、その場からワープして近くの真っ赤な巨石の岩陰に隠れる。
「おい……あのなぁ。はぁ、まぁウキナワに還れるならいいか。
じゃあ、祈るぞ?」
岩陰から半身を出したセイがオッケーサインをしてきたので
ナンスナーは苦笑いししたあとに真剣な顔になり
「どこのだれでもいい!私をウキナワに還してください!」
真剣な顔で空を見上げた。
そして一瞬、その顔が恐怖の表情で引きつる。
「お、おい……なんだあれ!なんかおかしいぞ!」
焦った顔でナンスナーはセイの隠れている巨石に逃げ込みながら叫んだ。
青空を見上げたセイも唖然とする。
「あ、あれは……あれは……」
ナンスナーとセイはガクガク震えながら抱き合って空を見上げる。
青空一杯に広がったツインテールの鬼が、いや鬼の形相のように顔を顰めて
泣きじゃくりながら辺りを見回している鈴中美射の頭とセーラー服の上半身が
半透明で映っていた。
「お、おおおおおおおいいい……雑魚ロリ、セイ様のゲシウムが滅んだら
ど、どどどどどどうしてくれるんだ!!」
「そっ、そそそそそそんなこと言われても!
空を覆いつくしながら憤怒の表情で空を見回している鈴中美射は
いきなりセイたちの居る場所を見下ろすとニンマリと笑い
セイちゃんあああああんんんんみいいいいいいいつつつつつけたああああああああ……
頭が割れんばかりの念話とと共に
頭を抱えてうずくまったセイとナンスナーに超巨大な右腕を伸ばしてきた。
……
「はっ……」
ナンスナーはボロボロの畳の上で目を覚ます。
そして辺りを見回して
「もっ、もしかして、還ってこられたのか……なんで……」
いつの間にか、ボロボロの着物姿に代わっている自分の身体をペタペタさわり確認しだした。
いきなり、部屋の物置の襖が開いて
「……おいー。雑魚ロリぃぃいいいいい」
不満そうなセイが中から窮屈そうに這い出てきた。
「おっ、お前もウキナワに?」
セイは聞こえるように大きく舌打ちをすると
立ちあがり、辺りを見回す。服装はいつものピッタリとした黒づくめのものだが
さっきまで着ていたものとデザインが違う。
「おっ、お前、服が……」
セイは嫌そうに顔を顰めてナンスナーを見つめると
「雑魚ロリ、まだ分かってないのか。ここは閉鎖空間だ。
しかも、質の悪いことにお前のための世界だ」
吐き捨てるようにそう言って、窓から外を見回し始めた。
「えっ……どういう……」
いきなり、ガラッと狭い室内の入口の戸が開き
「ああ、ナンスナー、セイ。ここに居たのか」
そこには、綺麗な旅装に布のマントを身にまとい
背中に鞘に入った石刀鈴中を背負った但馬孝之が背筋を伸ばして立っていた。
そして白い歯を見せて健康そうにニカッと笑ってくる。
「たっ、タカユキぃ?」
ナンスナーは青髪を手でくしゃくしゃにして混乱した顔になる。
セイは顔を顰めながら
「……セイ様は認めんぞ。仮にも本物のタカユキの能力を分譲された身だ。
お前がタカユキじゃないこと分かる」
但馬孝之は不思議そうな顔をしながら
「セイ、何言ってんだ?俺だぞ?」
セイは但馬に詰め寄っていくと
「いや違う!タカユキはお前よりもっとかっこわるいぞ!
百歩譲ってダサかっこ良い部類だあいつは!
一見抜けてるようで、全然抜けてないようで、実は中身スカスカだあいつは!!
そして、お前みたいにちゃんと自分を引き受けてない!
いつもどっか一歩引いてて、何か居心地悪そうなんだ!
お前、誰だ!?」
但馬孝之は、詰め寄ってまくしたてるセイに苦笑いして
「いつもの中二病か?お前もそろそろ大人になれよ。
ほら、行くぞ、大いなる翼で、仲間たちみんな出席の
ナンスナー帰還パーティーが開かれる。みんな心配してずっと待ってたんだぞ?」
ナンスナーはトロンとした顔で
「はい……行こう」
魅了されたように但馬から出された手を取った。
セイは顔を顰めながら
「くそっ……何てことだ……この世界の主はミイだろ!?
回りくどいことしないで、セイ様の前に出てこい!」
部屋を見回しながら大声を上げる。
但馬孝之が首を傾げながら
「うちの嫁の美射なら、大いなる翼の最上階でパーティーの準備してるぞ?」
と言ってきて、セイはその場に崩れ落ちそうになり何とか踏みとどまった。
「くっそ……あのサイコストーカー……」
しばらくブツブツと呟くと、意を決した顔で
「……分かった。ニセタカユキ、行こうか」
但馬孝之に向かい、そう言った。
ところ変わってローレシアン中部地方の丘陵地帯の長閑な牧場近辺。
近くの小山では真っ青なブイ字型の角を生やした羊のような生き物が、
何百頭も、三頭ほどの体調三メートルほどのドラゴンたちに追い立てられている。
それを横目に見ながら地味な旅装姿のナーニャとエパータムが
ゆっくりと真正面に見える牧場中心部にある巨大な三階建ての建物まで歩いていく。
遠目から二人を見ている作業着の男女たちはナーニャがニコッと笑うと
慌てたように目を伏せて、羊のような生き物を柵の中に入れるのを手伝ったり
飼い葉を混ぜたりしだす。
ナーニャは不思議そうな顔で隣を歩くエパータムに
「うーん、なんで私を見るのー?」
エパータムはニコッと笑い
「ロイヤルプリンセスだから?」
と冗談めかした顔でその顔を見返す。
「えーっ……そんな有名じゃないでしょー?
お母しゃんによると、外向けには養女?扱いになってるって」
「ほら、タカユキがこないだ、失われていた中央城復活させちゃったでしょ?
その時に、魔族中継がめちゃくちゃ空から映してて
そんで、ナーニャの顔もアップで色んな新聞とか雑誌に載ったんだよ。
知らなかった?」
ナーニャは立ち止り、しばらく絶句した顔をして
「えーっ……やだなぁ。
セイさんみたいに、テレビのワイドショーでバカにされたり……」
エパータムはいきなり爆笑して、しばらく笑い続けた後に
「あのさ、セイちゃんは自分からバカなこと言いまくってやって自爆したんだよ。
ナーニャちゃんは、まだマスコミが良いことしか書いてないから
黙っとけば大丈夫だよ。ナーニャちゃんが思うよりタカユキの名声って莫大だよ?
親の七光りを利用しないとね」
「でも、私、歌って踊れるアイドルになりたいし……ロイヤルプリンセスとかじゃなくて……」
エパータムは大きくため息を吐くと
「まだ若いんだし、いつかなればいいじゃない。
あ、迎えが来たよ。飛んで行かないで、ちょっと歩いてみた甲斐があったね」
牧場の建物付近から牧場を突っ切ってオープンカータイプの真っ白なエアカーが走ってきて
そして、ナーニャたちの目の前で停止すると
その中から、腹の出た薄汚れた作業帽と作業着姿のサングラスをかけた中年の男が出てきた。
男はオープンカーから素早く降りると
作業帽をサッと取って、禿げあがった頭を露らにしながら頭を下げ
「どうも、タジマ・ナーニャ様、それからエパータムさん。
汚くてすいませんねぇ、作業員に混ざってオッポスの乳しぼりをやっててね」
「えっと……」
誰だっけ?と戸惑うナーニャを押しのけるようにエパータムが前に出て
「マナカさん、お迎えありがとねー。
冥界に降りたフィアンセのクラーゴンさんのことでお話に……」
全て聞き終わる前に、マナカはサングラスの下の頬に幾重にも
涙の線を垂らしていき
「くっ、クラちゃんを迎えに行くの……?も、もう並行世界との分離とか完全に大丈夫なの?」
いきなり裏返った声を出してきた。
「あれっ、フィアンセ……?結婚するの……?男と男?おじさんとおじさん?」
混乱した顔のナーニャの前に立ちはだかるようにエパータムが
「ごめんなさいね、この子まだまだ世間知らずで。
西の大陸の者だったら、誰もが知っているお二人の同性結婚予定の話を
忘れてたみたいで」
マナカは首を横に必死に振ると
「いい……いいっ!クラちゃんが帰ってくるなら何でもいいです!」
「なっ、なんかすいません……私まだまだ子供で……お父しゃんみたいに上手くできなくて」
頭を下げようとするナーニャに、マナカは必死に両手を振って止めて
「ナーニャ様!めっそうもない!そっ、そんなことより、僕のエアカーにどうぞ!
少し離れた場所にある客人用の邸宅でお話を!」
後部座席のドアを開けて二人を必死にエアカーに乗せようとする。
エパータムは微笑みながらナーニャを促して
それに乗った。




