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移動販売車

クシャクシャのくせっ毛の緑頭の

白いワンピースを着た十二くらいの少女に擬態したエパータムが

「ナーニャちゃーん!お友達のエパちゃんが来たよー!」

邪神討滅号のナーニャの部屋の扉を叩く。

「……うぅ。今誰にも会いたくないの……」

中から弱弱しくナーニャの声が響いた。

エパータムはニカッと笑って

「あなたのお父しゃんのタカユキはこんな時、部屋に閉じこもってたかなー?

 どうしてたのー?」

「……」

しばらく沈黙が続いて

自動で扉が横に開くと、目を真っ赤にしたナーニャが

小柄なエパータムに抱き着いてきた。

「……ヤマネさんがね、酷いの……お父しゃんなんて

 どうでもいいって……」

エパータムは笑いながら

ナーニャの手を引いて、室内のベッド脇に自分と並んで座らせると

「グッチーがとっくに説得してるよっ。

 ヤマネちゃんは、ほら"凶"だったり色々あったからね。

 それにタカユキが甘やかしてたからさー?

 分かるでしょ?あなたのお父しゃんは全部自分でやろうとしてたから」

「……うん」

うな垂れるナーニャの背中をさすりながら

「許してあげてよ。大人ってのはどんなに強そうだったり

 優しそうに見えても

 皆どこか深く深く傷付いていて、大なり小なり性格悪いもんなんだよ。

 そう、メルナアイズが言ってたよ?」

「うんー……でも私、まだ子供だから

 そんなこと言われてもわかんないし……」

エパータムは楽し気に口を抑えて笑うと

「ナーニャちゃんは、今から大人になるんだよ!

 タカユキが残していってくれた仲間たちや遺産を使ってね!

 そして、あなたのお父しゃんを助け出す!

 できるよ!私も傍に居てあげる!」

ポンッと音を立てて擬態を解き

オリハルコン製らしき美しい金属の鞘に入った

禍々しい大剣に姿を変えて

ナーニャの足元の床に転がった。


"さあ!私を手に取って!冒険を始めよう"


年話で語りかけてきたエパータムに

「うんー……でも私にはフォルトゥナもあるし……」

ナーニャが動かずに戸惑うと


"二刀流でいいでしょ!?私、タカユキ、グッチーと達人に使われてきて

 しかもメルナアイズに打ちなおされた超名剣だよ!?

 それを娘のあなたが持つのがかっこいいんじゃないの!?"


怒ったエパータムの声がして、ナーニャがビクッとして床に転がった

剣状のエパータムを見つめる。

しばらく無言の時間が過ぎて

「そうだね……ごめん。私、我がままだったね」

と言いながらナーニャがエパータムに手を伸ばすと

いきなりエパータムはポンッと煙を出して人に戻り

ニカッと笑いながら、ナーニャの伸ばした手を握って

「だーまされたっ!」

とそのままその手を引いてベッドから立ち上がらせる。

「……エパちゃん……?」

唖然とした顔のナーニャにエパータムは微笑んだあとに

「私の使い手は永遠にグッチーだしっ。

 ナーニャちゃんじゃないしー。大体鞘から私を抜いていいのはグッチーだけだよ?」

そう言って楽し気で意地悪な顔にかわった。ナーニャは手を引かれて部屋から出ながら

「……あっ、あははっ……何か怒りたいのに

 笑っちゃうね。あはは」

「うふふ。でも一緒についていくのは本当だよ。

 グッチーは色々、大人の仕事しないといけないからね。

 居ないときも代わりに私が、タカユキを助け出すまでずーっと一緒に居てあげる」

「ありがとう……」

「まずは、あなたの家族のとこに行かないとね」

エパータムが船内の通路をナーニャの手を引いて歩き

船体横の乗降口の扉を開くと、大いなる翼の格納庫の大きく開いたハッチへと

長い橋上のタラップが伸びていた。

二人はその上を歩いていく。





ところ変わってタカユキの創造した世界内。


「あ、ソフトクリームの移動販売車だ!

 凄い、さすがタカユキさんの世界!ご都合展開全開だね!」


美射の型形をしたコイナメが嬉しそうに言ってくる。

硬く握った俺の右腕ごと自分の手を高く掲げると

「ソフトクリーム屋さーん!」

極めて低速度で舗装された道を走ってくる

白いボックス型のソフトクリームの移動販売車に大声で呼びかけていく。

俺は気恥ずかしさと共に、子供の頃に見かけたきりの

その少しくすんだ車体をボーっと見つめる。

懐かしいな。いつの間にか来なくなったのを覚えている。

ああ、俺の記憶の賜物なんだろうな。

それがこの俺のエネルギーを元に構成されたらしい

この世界に反映されたとかだろうな。


コイナメと共に、停車した移動販売車の横へとゆっくりと歩いていくと

「はい、いらっしゃい」

ニコニコした口元のサングラスをかけたキドが、真っ白な制服を着て

カウンター越しの車内からこちらを見下ろしていた。

コイナメはさっそく目の前のメニュー表を見て

「チョコとストロベリー味のダブルで!

 タカユキはバニラ味よね?」

「う、うん……」

バニラ味でいいか……いやまてよ。バニラ味って言うか?

普通バニラじゃないのか?まあいいか、特にこだわりもないし。

というか何の前振りもなく、キドがソフトクリームの販売員になってるが

とくに驚きもないのは何故だろうか……。

衝撃的なことが続きすぎて、いよいよ俺の感情が擦切れたのか?

車内から手を伸ばしてきたキドから

コーンに入った真っ白なソフトクリームを受け取って舐める。

ちゃんと味がするし、変な感じもない。

数歩引いて、車内でウネウネと機械から出てくる

二本の色のソフトクリームを見事に混ぜているキドを眺める。

……平和だな。焦りが無いのはなんでだろうか。

チョコとストロベリーの二色が綺麗に絡み合い混ざったソフトクリームを

コイナメは受け取ると

「おじさん!ありがとうっ」

と硬貨をカウンターの上に置く。

「辛いときは、甘いものでも食べるといい」

キドはニヒルに笑うと、運転席の方へと歩いて行き

そして再び、ゆっくりとソフトクリームの移動販売車を進めだした。


「あれ、キドさんだ。悪のナカランに取り込まれた人」

俺が移動販売車の後部を見送りながらポツリと呟くと

コイナメがニッコリ笑って

「私と同じね。あなたがこの世界に再生したの」

「……そっか……でも記憶が」

なさそうな感じだった。

コイナメは二色のソフトクリームを舐めながら

「余計なことを言いたくないのかもよ?

 この世界の登場人物に成り切ってるだけかも」

「……どうなんだろうな」

俺とコイナメは、再び舗装された道を町の方へと歩き出す。







さらにところ変わってゲシウムのスプレンデッド城内の一室。


「くそーウキナワに帰りてえええええ!!!つれええええ!!」


酒瓶とからのコップだらけの酒臭い室内で

シーツがよれ放題のベッドの上で下着姿のナンスナーが

伸び放題の真っ青な髪を振り乱しながら石造りの天井へと叫んだ。

そして俯いて、ボソボソと

「……貴族たちとのパーティーも飽きた……。

 酒飲むのも飽き……うっぶ……」

慌てて、近くの酒瓶の中へと吐しゃ物を吐き出した。

「くっそ……上級国民としてバーリーピーポーになるのが

 こんなにもつまらんとは……よくこんなの毎日やるな……。

 愛想笑いと中身のない会話ばかりして

 何が楽しいんだ……ウキナワで貧乏暮らししてた方がマシだ……これじゃ」

涙目でナンスナーが酒瓶に蓋をして、部屋の隅に置いていると

「おい、雑魚ロリ」

いきなりいつもの黒づくめの格好をしたセイが背後から声をかけてくる。

「バカ女!待ってたんだあああああ!」

小柄なナンスナーから抱き着かれたセイは迷惑そうな顔をして

「チッ……タカユキが大変なことになってるんだぞ?

 お前の見すぼらしい知恵も仕方なく借りようと

 セイ様が忙しい中、時間を割いてきてやったんだぞ?」

「なんでもいいいいいい!ウキナワに帰してくれえええ!」

セイは忌々しい表情で

「雑魚ロリ、タカユキが死んだ。

 お前の貧弱な直感で何か感じたことは無いか?」

ナンスナーは愕然とした表情で

「むっ、むむむむむむ無敵のタカユキが死んだああああああ!?

 おっ、お終いだ……私の再起も、ウキナワへの帰郷も……ああああ……」

力なく、セイの足元に座り込んで

そして顔を覆って泣き始めた。

セイは大きくため息を吐くと、腰に手を当てて

「雑魚過ぎて、酒浸りで何も感じられなかったか。

 セイ様的には、タカユキ、そしてセイ様やナーニャ以外で

 唯一世界の間を越えられた雑魚ロリに

 タカユキ復活への何かにゃからんてぃたちが気付いていないヒントが無いか

 期待してたんだがな。所詮は雑魚か」

ナンスナーはピクッと反応して泣くのを止めると

「……バカ女、私をあの石碑に囲まれている場所に連れて行け。

 お前の力を借りて、私はあそこからウキナワに還る」

セイは天井を向いて、ナンスナーに見えないように

ニヤニヤしながら

「……どうせ意味ないだろうが、慈悲深いセイ様は

 貴様のしょぼく惨めな願いを聞き入れてやる」

そう言いながら、ナンスナーが伸ばしてきた小さな手を握る

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