悪い計画じゃないだろ
「……」
バス停に立っていた。
空は晴れている。
学生服は血まみれじゃなかった。
「何だこれ……俺は、消滅したはずじゃ……」
「あー……まずいなぁ」
隣に制服姿の美射が立っていて、咄嗟に飛びのいて構えると
「違う違う。コイナメですっ!」
ビシッと、内またでチョキにした手を横にしたアイドルポーズを決めてきて
安堵感で脱力した。
その場にへたり込むと美射の姿をしたコイナメが
腕を掴んできて
「バス停に座りましょ。せっかくだしカップルっぽくね」
とウインクしてくる。
二人でバス停のベンチに座って青空を見上げながら
「何なんだよこれ……」
「想定外の事態よ。タカユキさんの有り余る生命力が暴走を始めて
このノリマロの精神世界内の崩壊した閉鎖空間を再構築し始めたみたいね。
私もそのついでに、消滅させられた悪のナカランの代役として
この身体を与えられ、分割復活したみたい」
「……なんなんすか……」
いや、蘇られたのは嬉しいけど
コイナメの口調的にろくでもない事態に巻き込まれているのは
すぐに分かった。
次の言葉を聞きたくないが、仕方なく待っていると
「……このまま行くと、ノリマロの物質的な体を触媒に
タカユキさんの生命力が溢れ出して
反物質界の地球が大変なことになるわ……。
いや、地球だけじゃなくて、宇宙や他のパラレルワールドも……」
「つまり、俺の力が色々なものご迷惑をかけると……」
うな垂れる。いや、うな垂れるだけじゃない。
いつだって、俺は乗り越えてきた。
顔を上げて、コイナメに
「どうしたらいい?」
コイナメは足組をして、大きくため息を吐くと
お手上げのジェスチャーをする。
「何もできない?」
深く頷かれて、絶望感に覆われそうになるが
「いや、やるよ。自分の力でどうにかしてみせる」
立ちあがろうとすると、必死にコイナメから止められる。
「ちょっと待って。やる気になったらダメなの。
タカユキさんはこの世界でできるだけ穏やかに生活して
できるだけ生命力の拡散浸食の進行を遅らせないと……」
「……」
黙って、ベンチに座り直した。
最近いつもこんな感じだな……。
色々なものに突っ込んで戦ったが上手くいかない。
うな垂れていると、コイナメが肩を叩きながら
「優秀な子供さんたちと、優秀なお仲間が居るでしょ?
任せたら?助け出してくれるって」
「……そうするしかないかなぁ」
「あ、ソフトクリーム食べたいな。
これから買いに行かない?」
「学校は……?」
「この世界はタカユキさんの意のままよ。
あなたがルールなの。それ故につまらないかもしれないけど」
「ああ……そういうね……」
俺とコイナメは立ち上がって
通学路を高校とは逆方向へとタラタラと歩き出す。
ところ変わって大いなる翼の山根の部屋。
「治績……?」
山口から数枚の紙を突き出されたバスローブ姿の山根が首を横に傾げる。
「これ、西の大陸のお前の領地の税金の滞納率と犯罪率だ。
簡単に読めるようにアルデハイトさんから日本語で書いてもらったから
よく読め」
山根は受け取ってそれを目を細めて読み始めて
次第に青白い顔になっていく。
「……犯罪率、幽鬼国以下……ぶっちぎり……よね?」
「税金の滞納率もトップだな。あと高官の離職率
人材の流出率も歴史上最高値更新中なんだと。
お前の贅沢の資金はそこから巻き上げてるだろ?
良かったな、史上最低の領主としてアグラニウスの歴史に名が残るぞ」
「わ、私が放っておいたから?
でっ、でも但馬だって……何もしてなかったし……」
泣きそうな山根を山口は冷たい目で見下ろして
「少なくともセックス漬けじゃなかったぞ。
別世界や宇宙までも飛び回って、難件を解決し続けてた。
だから仲間たちがあいつの代わりにこの星を良くし続けてたんだよ。
領地をもたない俺ですら、あいつのためにゴブリンたちの国で仕事してたけどな」
山根はうな垂れると
「どうしたらいい?」
山口はニヤリと笑うと
「お前が、俺たちに協力するなら
アルデハイトさんがローレシアンから有能な官僚を送り込んで
代理統治してやってもいいってよ」
山根は苦渋の表情で考え込むと
「それでいいわ……用意したいから半日くらい待って」
山口はニカッと快活に笑い
「じゃあ、すぐに部屋の外で待機してるセイさんに
アルデハイトさんに伝えに行ってもらう」
山根は舌打ちすると
「計画通りってわけね」
山口を恨みがましい眼で見上げる。
「悪い計画じゃないだろ?」
山口はニカッと笑った。