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エピローグ(トーキング フォー ザ リンカーネーション2)  作者: 弐屋 中二


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温もりを利用して

氷漬けのドラゴンたちが点在している氷原でウロウロしている旅装姿のバンと着物姿のキヨラマーに

クラーゴンは近づいて行って

「どうも」

軽く後ろから声をかける。二人はしばらく驚きすぎてその場でクルクルと周る。

クラーゴンは再び煙草に火を点けるとプカーッと空へと煙を燻らせながら

「えっとね、少し尋ねたいんだけど、ガルモウグがこの地獄に封印されたのは二度目?」

バンはカエル顔で不思議そうに長身のクラーゴンを見上げ

「ん?初めてだケロ?僕とキヨラマーは、世界のバランスのために

 この竜たちの冥界へと派遣されたケロ」

「ありがと」

クラーゴンはうんざりした顔で頷くと

異様な光景の辺りを見回して、自らの手足を軽く触り小声で

「やはり微妙に違うわね。手の込んだことをおやりになりますね。

 タカユキ様の使徒に誤認までさせて。

 ま、念には念をということでしょうけれども」

ブツブツと俯いて呟いてから

皮肉めいた笑みを浮かべると、キョトンとしているバンたちに

「ああ、私、ここ初めてだけど、私の力なら 簡単に目的のものを見つけられるわ」

バンは嬉しそうな顔になり

「ありがとうだケロ!!長くなると、地上での日にちが経っちゃうケロ。

 困ってたケロ」

キヨラマーも両手でジェスチャーして感謝を告げると顔のない頭を下げる。

クラーゴンは何とも言えない顔で

「じゃ、探しましょうか」

と言って背中を向けた。




ところ変わって白い世界内のマガノのスタジオ内、クラーゴンの個室では

ナーニャとセイが死んだようにベッドに横たわるクラーゴンの身体を

脇から見下ろしていた。

「中身ないよねぇ……」

心配そうなナーニャとは対照的にセイは面倒くさそうな表情で

「なんかろくでもないこと企んでたからな。

 どうせミイ辺りにやられたんだろ」

「ご名答」

いつの間にか二人の背後に立っていた櫻塚高校の制服姿のスズナカに

ナーニャもセイも驚かずに振り向いて

「中身だけパラレルワールドに飛ばしたとかだろ?」

セイはさっさと話しを切り上げたそうな表情で尋ねる。

スズナカはニカっと歯を見せて笑うと

「その通りよ。しばらくはあっちで人助けをしてもらおうかなと」

「セイ様、曲作らないといけないんだが?」

スズナカは少し寂しそうな顔で

「……ねぇ、セイちゃん、私たちって親友よね?」

セイは急に真顔になり

「……未来も過去も気持ちの裏まで読めるお前が、セイ様に"まだ"演技を求めるのか?」

その場にへこたれかけたスズナカをニヤリとしたセイが抱きしめて

「ふっ……真の王者になったセイ様は裏表を超えた縁があるのを知っている。

 大丈夫だ。親友じゃないかもしれないが、友達なのは確かだ」

「せ、セイちゃああああん……」

セイは抱き着いているスズナカの背中越しに

感動した眼差しで二人を見つめているナーニャにニヤリとして

「ふふふ……ミイ、温かいか?」

「……セイちゃんの身体あったかい……」

セイはスズナカの身体を強く抱きしめると

「……セイ様、ちょっと曲のアイデアが出なくて困ってるんだが?」

「……」

スズナカはしばらく黙ると

「……うん、わかってた。セイちゃんが温もりを利用して

 私からアイデアを引き出そうとしてるのは……」

セイはまったく気にしていない顔で

「ふ、セイ様も伊達に王者をしていたわけではない。

 いいか?寂しいやつは本当に人肌に弱い。

 恋愛詐欺師に騙される男女の傾向を調べた挙句にたどり着いた結論だ」

「……そして、一度覚えた温もりに依存するのよね……」

スズナカは、セイの胸に顔をうずめたまま何度もうなづいた。

「ふっ……如何に全知全能と言えど、"友達"の"温もり"からは離れられまい。

 セイ様は計算高い女だ。さあ、早くヒントをくれ」

ナーニャはもはや胡乱な眼つきで、二人を見つめて呆れている。

「……」

スズナカはまたしばらく黙ると

「……ネゴシエイツフィックソンのソーファーラウェーウェーイボウのBメロの

ベースラインよ。あれに全ての不協和音展開の鍵が隠されているわ」

セイは急に興奮した顔になり

「そ、そうか……なんてことだ。

 ただ単にベーシストが音を外していただけだと……もしかしてわざとなのか」

「セイちゃん……」

「な、なんだ?まだあるのか?」

「もうちょっと動かないで……」

セイはあからさまに嫌な顔をするが、二人を見つめているナーニャが

全力で首を横に振ったので、仕方なさそうに軽くため息を吐いて

「わかった。いいだろう」

「ありがとう……」

セイから目線を送られたナーニャは黙って頷いて

レコードを探しに行った。



二時間後。



まったくセイの隣から離れないスズナカに煩わしそうな顔をしながら

セイは魔族の使っている調弦の違う漆黒に塗られたアコースティックギターを弾きながら

自室の床に座り込み、紙にメモをしつつ作曲を始めていた。

「帰らないのか?」

ギターを抱えたままコード進行や、編曲についてメモ取りながら

セイが隣でぴったりとくっついているスズナカに問うと

首を横に振って

「セイちゃんでも、七分の一但馬くらいは癒されるなって」

「……それで喜ぶと思って言っているのかー?」

セイが顔色も変えずに作業をしながらそう返すと

スズナカは真剣に考えこみ始めた。そしてしばらくすると

「あのね、セイちゃん、私、色んな人にハグされたくなった」

「そうか。好きにしろ、セイ様は忙しい」

古びて萎れたジャケットに入れられたレコードを手にナーニャが戻ってきて

「マガノ先生から探してもらったよ!それから私が取りに行ったの」

煤だらけの顔でニカッと笑った。

スズナカが立ち上がって、ナーニャの肩をポンポンと叩き

「お疲れ様。私は行くわ。次はクラーゴン君にハグされてくる」

ナーニャは難しい顔をして

「……うーむ……先生は、普通の人とは時間の流れが違うんだよねー?」

「そうよ。過去も未来も全て同じよ。けれどそんな私や高次元人たちにも

 こうしたいという欲望はある。

 そのために、並列の時空を行き来していじりながら流れを変えるの」

と言ってから、軽く笑うと

「壊さないように、慎重にね。他の高次元人たちの動きも見つつ

 不要な企みをさりげなく阻止したりもしつつね」

ナーニャは真っ赤な顔をしながら必死に考えた後に

「え、えっとおー……そんなにお父しゃんの帰還はむずかしいということですね?」

自信なさげに尋ねると。スズナカは頷いて消えた。

セイは大きくため息を吐いて、ナーニャからレコードを受け取ると立ち上がり

「ま、気にするな。あれはもはや空気みたいなものだとセイ様は思う」

「う、うん……」

二人は隣のレコードプレイヤーの置いてある部屋へと向かう。


周り始めたレコードプレーヤーのスピーカーから

変拍子のつんのめりそうなリズムに乗った

ギリギリ音階が確認できるような音の欠片を組み合わせたような演奏に

妙に力んだり、また急に吐息を吐いて力を抜いたりするような中年女性の低い歌が響いてきた。

セイは立ったまま腕を組んで、その冗談で積み上げられたような曲を聴き始め

ナーニャは首をかしげて、微かに顔を歪めながら

「なにこれええぇえ……」

力の抜けた感想を呟いた。セイは黙ったまま一曲終わるまで聞き続け

そして終わるとピタッと針を上げて曲を止め

「……さすがだ。ミイ……」

とポツリと呟くと、黙って元の部屋へと戻り座り込んで

再びメモを取りながら作曲を始めだした。

ナーニャはもう一度、同じ曲を流して脱力しながら聞き終わると

さらにB面に裏返して、もう一曲流し始め

今度は神々しいオペラのようなノイズミュージックが流れ出して

さらに唖然とした顔をする。

そして、最後まで聞き終わると黙ってレコードを取り出しジャケットに収めた。

「……わかんないけど、なんか凄かった……」

とポツリとうなだれながら呟く。


さらに数時間後、セイはアシン、そしてノアと三人でスタジオ内でセッションを始めていた。

ドラム、ベース、そして特殊調弦のギターを三人でグルグルと交代で弾きながら

音合わせをしていると、ピタッとセイが叩いていたドラムのスティックを止めて

「……違う」

と呟いた。ギターのアシンが難しい顔で頷いて

長いベースを壁に立てかけたノアは渋い顔になり

「セイさん?まだ一曲もできてないし、これ、父さんを救うためにスガさんを引きずり出すための

 マガノ神を納得させるためのアルバム作りの第一歩なんだけど?

 ……自分でも言っててよくわかんないけど、とにかくこんなとこで引っかかってる場合じゃ……」

セイはノアの顔を見ずに頷いて

「わかってる。ノア、この曲さえできればあとは簡単だ。

 いわば、この曲が扉なんだ。開いてしまえば、アルバムくらい創れるとセイ様は思う」

アシンはセイに同調するように、大きく頷いて

「魔族音階とローレシアンスケールの不協和音に鍵があると思うのですが」

セイも難しい顔でアシンを見つめ

「そうだな。だが、それをドラムを含めて構築しようとしてもなんか足りないんだよ」

ノアも仕方なさそうに頷いて

「セイさん、もいっかい歌ってみてくれよ」

ベースをアシンに渡して、自分はドラムをセイと交代した。

セイはいとも容易く和音と不協和音のコードストローク

さらに単音やアルペジオを使いこなしながら、独自の旋律を奏で始め

兄弟も超人的な聴覚と運動神経でセイの演奏についていく。

「ゲシウムの月の~♪上下反律相似形を~♪竜の鱗が突っ切って……ダメだ」

セイは再び途中で歌うのをやめた。

ノアは大きくため息を吐いて、ドラムキットの中から

「俺的には、二つ足りねぇと思うんだけど」

ノアの方を見つめる。ノアはセイの方を見つめ

「歌い手と楽器です。残念ながらセイさんは上手すぎるし、データベース的でありすぎます。

 豊富な知識とセンスが邪魔してるんです。真意や魂が見えにくいというか。

 楽器プレイヤーとしても、歌い手としても、です」

セイはその場に座り込んで

「なんてことだ……このままだと、またパクリとか言われるだけなのか……」

アシンは慌ててセイの背中側にしゃがみ込むとその背中に手を当てて

「い、いえ、違うんです。おそらく、既存の楽器だからいけないんです。

 セイさんは意表を突くような新たな楽器を……」

セイの耳がピクリと動いて

「……新たな楽器……あれ、どこかで……」

急に頭を抱えて考え込みだした。そしてパッとその場から消える。

残されたノアとアシンは頷き合って

「あとは歌い手だな……」「確かに」

スタジオの扉の外を見る。

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