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エピローグ(トーキング フォー ザ リンカーネーション2)  作者: 弐屋 中二


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悼まれもせず放置

「まあ、タカユキ様は還ってくるわよ。そのうちね。

 だって優秀な娘さんが居て、セイちゃんも還ってきて

 いーっぱい他にも素敵な、お仲間がいるじゃない?」

「そうですね」

半透明なクラーゴンは、閑静なローレシアンの住宅街の一角の二階の日差しが差し込んだ部屋で

安楽椅子に揺られる、着物姿の床までついた長い長髪黒髪の女性の横に立って

窓の外の日差しを眺めている。

「ふぅ……でもさ。私たちとしては、つまんないわよね?

 やっぱりあなたもそう思うでしょ?」

女性は自嘲するような笑みを口元に浮かべ。

「まあ、それはそうですね。ご自分だけ一心に万物の愛をお受けになって

 その結果、どこかへと逃げたわけですから。いつだってあのお方は赦される」

「でさー……力を集めているわけですよ。説明はもう十分よね?」

女性は窓の外の光を眺めながら

「とはいえ、私には力などないですよ?多少、書が書けるだけですが」

半透明のクラーゴンはニヤリと笑って

「それでいいのよ。あなたの恨みの全てを書いてここで私に見せて頂戴。

 それが、私に力をくれるからね」

女性は頷いて立ち上がると、近くの部屋から人の背丈ほどもある

丸められた和紙を一枚持ってきて、床に広げると

さらに室内の壁に立てかけられて飾られていた太い筆を取り外し

「死ね」

と時間をかけ、怨念の入り混じった鬼気迫る表情で和紙に大書した。

クラーゴンは出来上がったそれを見下ろして恍惚とした顔で

「ああ……いいわぁ。見ているだけで力が満ちてくる。

 じゃあ、頂くわね」

そう言うと、床に広がった和紙は白い炎で包まれて焼失した。

半透明のクラーゴンも消えると女性は大きくため息を吐いて

「……あなたやあなたに連なる人たちなら、私の負の想いを乗り越えるはずです」

愛憎入り混じった不思議表情で、安堵した顔で呟くと

安楽椅子に座り、眠り始めた。



セーラー服姿の鈴中美射が野の花が咲き誇る春の草原で

ふてくされた顔で寝転んでいる。

「あーもーめんどくさい……もーいーもーほんといいわ……」

その隣に静かに白い霧が立ち上り、ゆっくりと人型になっていく。

鈴中は一切そちらを見ずに、白雲の通り過ぎていく青空を見上げたまま

「……あの、もう監視は結構なので、ゲシウムにお戻りくださいね?」

人型になった霧は次第に輪郭を持ち、そしてはっきりと真っ青なワンピース姿で

長い銀髪を持つ女性の姿になった。彼女は静かに座り込むと

「……あら、私を融合したのは、ひとりでは寂しいからだと思っていたのですが?」

鈴中は憤然とした表情で空を睨みつけながら

「いやー……別ルートから但馬を取り戻そうとして

 その途中でミラクちゃんを融合したんだけど……あー……あんな形で

 大失敗するとはねー……というか、宇宙外やばいわ……なにあれ……」

ミラクは、ニコリと微笑みながら

「檻の中までエスコートしてくれませんとね?

 私にはあの壁は越えられませんからね」

「……ていうか、わざわざまた檻に戻らなくてよくない?ドエムなの?」

ミラクはニコリと微笑んで、頭上を指さし

少しずつ超広範囲に何本もの亀裂の入っていくその空を見上げながら

「……私には私の事情があります。わかっているでしょう?

 さあ、早く、ゲシウムへ」

鈴中はめんどくさそうに立ち上がると、スカートの埃を払い

「あー……まぁねぇ……惜しいけどしょうがないか」

そう言って、ミラクとともにその場から消えた。

空中に広がっていた亀裂は同時に消えていく。



「おい、クラーゴン、セイ様に殺気を向けるな」

クラーゴンがニヤニヤしながら自らの無精ひげを触るその背後にセイが立ち

めんどくさそうに、首筋に手刀を立てている。

クラーゴンは静かに振り返って

「やーねぇ、ぜーんぜん相手にされてないみたいよ」

すぐ横の壁に腕を組んで寄りかかっているライーザに話しかけた。

ライーザはフフッとうつむき気味に笑うと

「……あなたは、まだ本気で戦おうとしてますね」

とポツリと呟いたクラーゴンはギクリとした表情で

ライーザに静かにすり寄って

「やっぱわかる?」

無精ひげをさすりながら尋ねる。

ライーザは微笑みながら頷いて、クシャクシャと長い髪を触り

「……隠すつもりもないのでしょう?むしろ既に数人にはばれている」

クラーゴンはいきなり口をふさいで、必死に爆笑を抑え始めた。

「……なんかねぇ、お優しい支援者が現れましてね。

 いいタイミングでやっちゃっていいんですって」

ライーザは軽く頷いて

「……私は、スガのことだけに集中したいので

 黙っておくことにします」

いつの間にか二人の後ろにいたセイが

「あのなぁ……セイ様は、闘いはもういいんだよ。

 バンド活動したいんだ。それを肝に銘じていけ」

クラーゴンは黙ってうなづいた。

同時に何かに気づいたかのようにセイから離れていく。



白い世界に作られたマガノの一軒家の音楽スタジオ内の端にある

彼に貸し出された個室にクラーゴンが入って、ベッドに横たわると

すぐに意識が飛んだかのように動かなくなった。

次の瞬間、彼は半透明の体で球状の巨大な空間の中にいた。

そこには、半透明なオレンジ色の髪の痩せた小柄な女性と

半透明な銀髪の長身の男性が横たわって浮いていた。

クラーゴンは察したかのように

「ああ、そういうことね。タカユキ様と闘って敗れた成れの果てと

 しかし……ふーむ、圧倒的な力で雑に踏みつけられたから

 まだ燃え尽きていない意志が残っているわけか……頂きましょ」

浮いている半透明の女性と男性へと近づいて行って

手を伸ばすと、二人ともクラーゴンの中へと吸い込まれるように消えた。

クラーゴンは苦笑しながら、光り輝きだした自らの体や手足を確認して

「……二人とも、深いバックストーリーと諦念や恨みを抱えていたのに

 まあ、それを救われることもなく、誰に思い返されることもなく

 タカユキ様に消されて、そのまま悼まれもせず放置か……あの方は本当に冷酷だわねぇ」

嬉しそうに唇をゆがめ出した。

彼はしばらく冷たい笑い顔を浮かべ、その気持ちを堪能すると

「ふふ、そろそろ、セイちゃんと互角ぐらいかしら?

 まだかな。ま、地道に導かれるままに破綻を集めていきましょうか」

満足した顔をして、その場から消える。

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