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苗床



あだし野消ゆるときなく


鳥部山の煙立ち去らでのみ





住み果つるならひならば






いかにもののあはれも無からん。






世は定めなきこそいみじけれ





常日頃、永遠に続くかのような景色のように



ひとが、この世の果てまで存在するようならば



どれだけ、情緒がないことだろう。

無常だからこそ、この世はすばらしい。




い、いや



違うの……わ。わたしは混沌の僕ではない


無常の手下ではない



……



わ、わたし……は、苗床に……なる……。




様々な世界に霧散した……私の無数の欠片たちが……



新たなわたしや  但馬……や新たな世界を呼んで



それはいつか……わ、わたしが、夢想したような



無常を越えた愛……を……





……





現代のアグラニウスへと

時空間移動を始めた邪神討滅号の操縦席内で

ナーニャがふと振り返る。

「セイさん……」

隣に立っていたセイも頷いて

「そうだな。何か聞こえたぞ」

ペップの頭の上のにゃからんてぃが

「どうしたんだ?」

と怪訝な顔で尋ねると、ナーニャは真剣な顔で

「な、なんかね、頭の中に難しいこと言ってた誰かの声が聞こえたの」

「あのストーカーっぽい気もしたが、違うような……」

「そうか……覚えておこう。

 悪いが、今は目的地に向かわねばならないのだ」

セイとナーニャは黙って頷いた。

いきなりセイが気づいた顔で

「な、なあ……天才であるセイ様は思いついてしまったんだが……」

何か言う前にナーニャが首を横に振り

「セイさん、お父しゃんが死ぬ前に助け出すのはダメだよ……。

 それじゃ、悪のナカランが多分倒せなくなるから……」

ペップの頭の上のにゃからんてぃも首を縦に振り

「そうだな。それに、やつの隠れている世界に到達して

 それをするのは不可能に近い。

 霧散した二人をどうにかして復元する方がまだ可能性が高いだろう」

「そ、そうかぁ……」

セイはうな垂れて、ナーニャに肩を叩かれた。




ナーニャたちの体感時間で約一時間後。




「やだ」

大いなる翼の自室内で

バスローブ姿でソファに寝そべった山根が

にべもなく二人の協力要請を断った。

「や、やだってぇぇ……お父しゃんたちを助けないとだよ?」

困惑した顔のナーニャが力なくもう一度要請すると

山根はため息を吐いてソファに座り直し

「もう十分じゃないの?悪のナカランは死んだんでしょ?

 その犠牲にあいつらはなった。と」

セイが顔を真っ赤にして

「お、おい!お前、何度かタカユキに救われてるだろ!

 あまりにも恩知らずなんじゃないか!?」

山根は冷めた顔で立ったままの二人を見上げると

「迷惑もそれなりにかけられてるんですけど。

 あっちの世界でも協力したでしょ?

 ナーニャちゃん、セイちゃん、ねぇ」

眼光鋭く二人を見上げた山根に

「な、なに?」

ナーニャが身体をこわばらせると

「あいつらを蘇らせるよりも、二人が居なくなった世界を

 セイちゃんとナーニャちゃんでどうにかしていく方が大切でしょ?

 二人とも、能力は失ってないんでしょ?」

「う、ちょっとセイ様、ゲシウムに還って試してみるな。

 もう、時空の修正者とか出てこないだろ……たぶん」

セイがその場から消えた。

そして十秒後には、黄金の炎を纏って戻ってくる。

「……何一つ失ってなかったぞ……」

虚脱した顔で、セイは黄金の炎を消す。

山根は黙って頷いて

「ほらね。それだけの力があれば、但馬一人消えたって……」

次の瞬間には山根の身体は浮いて、

そのまま壁にめり込むほどたたきつけられていた。

怒り狂ったナーニャの身体をセイが必死に抑える。

「や、やめろ!ナーニャ!もういい!

 もう後でいい!邪神討滅号に還るぞ!」

口を結んで真っ赤になったナーニャは

ボロボロと涙を流しながら、その場から消える。

「いたたた……」

頭を振りながら立ち上がった山根にセイは近づいて

「また来る。ちょっと考えておいてくれ。

 ナーニャが殴った分は、セイ様の権力で何らかの補償はするからな」

山根は口の中から血をハンカチに吐いて

「……まあ、すぐ治るからいいわ。

 ただ、考えは変わらないけどね」

セイは何も言わずにその場から消えた。

山根は黙ってソファへと深く座り込む。



さらに三十分後。



ゴブリンたちの街であるタカユキタウンのやきう練習場で

バットを振っていた山口は、近寄ってきたセイの話しを聞いて協力を要請されると

苦笑いしながら

「もちろんいいぞ。でもそんな大切なことしていたのに

 俺はずっと蚊帳の外だったんだなぁ……」

セイが真剣な顔で

「あいつらバカだから、自分たちの力で全部何とかしようとして

 そして盛大に自爆したんだ。

 最後は、タカユキと同等の力を持つセイ様とナーニャの力すら借りなかったんぞ?

 優しすぎたんだよ」

山口は晴れ渡った空を見上げ

「はは。あいつららしいなぁ……。

 で、俺は何をすればいいんだ?」

「とりあえずセイ様についてきてくれ。

 あと、もし力不足だと思うのなら、にゃからんてぃたちがきっと

 ヤマグチを強くしてくれるからな」

山口は顔を引き締めて

「よろしく頼む。山根はどうだった?」

セイが黙って首を横に振ると、山口は笑いながら

「だろうな。あいつのことは任せてくれないか?」

ニヤリと笑ってそう言った。

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