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エピローグ(トーキング フォー ザ リンカーネーション2)  作者: 弐屋 中二


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類まれなる能力で薄っぺらく支配

「ああ、セイさんなら、ゲシウムのコア中心付近ですね」


海に囲まれた小島中心の小高い岩山の山頂で、デッキチェアに座り

その横に山積みにされた本のうち一冊を手に取りながら

真っ白な長髪を風になびかせたミラクがこともなげに言う。

空色のワンピースを着て、くつろいでいる様子だ。

ナンスナーが大きくため息を吐きながら

「そんなに見つけてほしくないのか……」

首を傾げたナーニャが

「コアってー?」

ミラクは本を読みながら

「わかりやすく言うと、約六千度の熱を有する惑星の中心に存在する核です」

「ぐぬぬ……そういう熱いのがあるんだね?」

ミラクはナーニャを流し見て

「あなたの能力ならば、意識をそちらへと向けられたら

 大きな熱反応が知覚できるはずですが?」

「……うぅ、わかんないよ」

ミラクはそれには何も答えずに本に没頭し始める。

ナンスナーはめんどくさそうに

「ああ……地下世界行って、そっから大洞穴へと入って

 アグリゲス納得させて……うぇえ……バカ女は一瞬でワープできるけどさーぁ……」

「アグリゲスってなにー?」

ナーニャの問いにミラクはそちらを見ずに

「地下世界に居るゲートキーパーです。セイさんが育てたドラゴンですね」

ナンスナーが嫌そうに

「この世界の生き物は弱いんだが、そいつだけは何でか強いんだよ……」

ミラクがふと思いついたように


「邪神討滅号を使えば、すぐにコアまで移動できますし、

 そもそもナンスナーさんもあっさりアグラニウスに帰還できるのでは?」


「えっ……なにその夢の物体……」

「えっ……?」

二人は同時にミラクを見て固まる。

ミラクは本をパタンと閉じると、座ったまま、目を細め空を見上げ

「……出てきませんねぇ。いま思いっきり、未来への因果を歪めたのですが」

「だ、誰が出てくるの?」

「かつてスズナカ・ミイだった存在であろう者です」

ミラクはそう言うと、静かに立ち上がって後ろを向いた。

そして何もないとこへと真っ白な右腕を伸ばし、手を強く握ると

虚空から何かを引っ張り始めた。

「うっ、うぐぐぐ……ちょ、ちょっと待って!!

 待ってって!ダウンサイズさせてってええええ!

 だめえええええええ!強引な位相反転や急激な次元下降の歪みがあああああああ。

 ゲシウムが吹き飛んでブラックホールができちゃうううう!」

低温から高音まで何重にも重なった声が辺りに響き渡り

そして、セーラー服姿で全身から冷や汗を垂らした鈴中が

青白い顔で

「あっ、あの……そういうのはやめてくれるかなぁ?」

自らの右手を握りしめたミラクに向けて何とか絞り出すように抗議する。

ミラクは事も無げな感じで

「パラレルワールドを持たない唯一無二のこの隔離空間が

 頑強なのはご存じでしょう?」

鈴中は両肩を落として

「わかってますけどー……さんざん事故った経験した後だと

 やっぱ怖いでしょうが……」

ボソボソとそう呟いてから

驚いているナーニャたちを見て

「手伝いたいけど自力で行ってください。残念ながらナーニゃちゃん、

 あなたを見ている"窓"は但馬と比べてとても少ないの。

 もう少し増やさないと、未来が良い方向に変わらないわ」

「ミイ先生……あの……」

何か言おうとしたナーニャを鈴中は手で制して

「言わないで。プロセスを踏まないといけないのよ。

 何事も一足飛びにやってしまったら、荒唐無稽に見えてしまう。

 様式美って大事よ?」

ミラクが冷ややかな視線を飛ばしながら

「"窓"の交換手が条件を絞っているのですね。

 たくさんの視点が触れないようにしている」

鈴中は大きくため息を吐いて

「でしょうよ。但馬の人生って破天荒で無茶苦茶だもんね。

 今のところ、最終的には混沌に吞まれて消えたって感じだし。

 不都合が生じたか、またはなんか気に入らなかったんでしょうよ。

 まぁ、どうしてもうまく導けなかった私も悪いんですけど」

ナーニャが首をかしげて眉をしかめながら

「あの……何の話を……」

鈴中はナーニャに右手を左右に振って、そのままスッと消えた。

ミラクはつまらなそうな顔で、デッキチェアに寝そべると

「ということらしいです。お二人は、冒険の旅に行ってきてください」

「え、ええええ……」

ナンスナーがようやく動いた口で

「あの……夢の物体は……」

ミラクは腕を伸ばして手に取った本のページを開きながら

「この時間軸の時点で別の使命があるのでしょうね。

 パラドックスを起こすので、同時に様々な場所に存在しないように

 しているようなのは、今の会話からわかりました」

「……」

ナンスナーは混乱した表情をした後に

仕方なさそうに

「ナーニャ、行こうか……行き方はわかるから

 私を連れて行ってくれ。案内してやるよ」

「う、うんー?いいのー?」

戸惑っているナーニャにナンスナーは真面目な顔で

「理解できる範囲で、必死にやるしかないんだよ。

 難しい話はわからんけど

 たぶん、今はこれをするのが私の使命なんだと思う」

「私もよくわかんないけど、なんか……かっこいいね!」

ナンスナーはほほを赤らめて本気で照れた顔をした後に冷静に

「酒飲んでるよりはこっちのがマシだろ……」

ポツリと呟いた。

ミラクはニコリと微笑んで立ち上がり

「ここからすぐ南の小島に、ある人を連れてきます。

 先に飛んで行ってください」

と二人に優しい声で告げた。



一時間後



「で、なんで爺さんがいるんだよ……」

ゲシウムの夕日が差してきた空中を

闘気の類を何もまとわずに高速で飛んでいるナーニャの

背中にしがみついたナンスナーが顔をしかめる。

ナーニャの右手に掴まってぶら下がっている旅装で体格の良い老人が

「ミラクさんが拘置所から連れ出してくれたんじゃわ!

 セイのバカが困ってるから見に行けとな。がっはっは!」

左手で整えられた白髭を触りながら快活に笑う。

「……裁判はどうなったんだよ……こないだの反乱の件で

 スプレンデッド中央裁判所に出廷してるはずだろ……」

老人はとぼけた顔をしながら

「上級貴族以上の重要審理じゃからな、セイのバカがいないから、延期じゃろ」

ナンスナーがため息を吐いて

「……この星やばいな。あのバカ女に完全に依存しきってるよな……」

老人は我が意を得たり、といった感じで

「その通りじゃ!ちょっと強いからと言って調子にのっとるわ!」

「なあ、ノング爺さん、あんたが生まれた時からバカ女はいるんだろ?」

老人はしばらく黙った後に

「そうじゃな。やつのおかげでゲシウムは統一され

 そして、平和も享受しておる……だが、だがなぁ……」

しばらく悔し気に力を入れた後に

「あいつは、凄い……知力体力ともに凄いのは確かなんじゃが……。

 どうにも、……うん」

「どうしたんだよ」

ナンスナーが怪訝な顔でナーニャの肩越しに顔を出すと

ノングと呼ばれた屈強な老人は


「どこか、ちゃんと見ておらんのじゃよ。我々ゲシウム全体を。

 きちんと向き合っておらん。ただ、類まれなる能力で薄っぺらく支配できとるだけじゃ。

 やつの人格的な凄みのお陰ではない」


ナーニャとナンスナーは同時に黙り込んで老人を見た。

しばらく黙った後にナーニャが

「……同じだね。アグラニウスでマガノ先生も

 才能あるのに音楽に向き合えてないみたいなこと言ってたよ。たぶん」

「……あいつ」

ナンスナーが顔を歪めて悔しそうな表情をした後に

夕暮れの空に向けて、大きく口を開け

「あははははははははは!!私と同じじゃないか!!

 何が雑魚ロリだ!!雑魚バカ女!バー---------カ!」

大笑いしだした。ナーニャは口をへの字にして何かを考え始めた。



十分後。



ナーニャたちは巨大な月が明るく照らす大海原を上空から見下ろしていた。

そこには、数キロメートルの幅はありそうな巨大な渦が真っ黒な口を開けて

辺りの海水をゆっくりとかき回しながら円形状に回転していた。

いつの間にか横向きに飛ぶナーニャの背中に乗っているノングが

その屈強な両肩にさらにナンスナーを肩車しながら

「ふむ、ヴァガナズムルの大渦か。金髪の娘さんや、あんた強いんかな?」

ナンスナーが落ちそうになりながら

「……私たちを軽々背負って飛んでるんだぞ!?

 むちゃくちゃ強いに決まってるだろ!?私の知ってる中で三番目くらいに強いぞたぶん」

「そうかそうか。セイや、かつて見たあのバカの仲間たちの一味なのかな?」

ナンスナーが呆れた顔をしながら

「先に尋ねろよ……そうだよ」

「……あんた、雰囲気からして険がないのう、苦労したこともないんじゃろ?」

ナーニャがちょっと傷ついた顔で

「う、うんー。でも、今してる最中かなー」

「すまんすまん。乗せてもらっとるのに試すようなこと言って。

 とにかく、あれはただの海流ではなく、拒絶粒子の賜物じゃ。

 あんたが、我々を守りながら下へと落ちんと、地底世界に抜けたころに

 我々は死んどるじゃろうな」

ナーニャは気を取り直した顔になり

「んー。あの渦はそんなに怖くないよー。ちゃんと見て進めばみんな大丈夫だよ?」

次の瞬間には老人とナンスナーを背中に乗せたまま

渦へ向けて、ゆっくりと下降し始めた。

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