主役達が死んだあとから
「セイさぁぁぁぁんん……」
顔を涙で腫らしたナーニャが邪神討滅号内の個室の扉を叩いている。
自動で開いたその扉から疲れた顔を出したセイが
「わかってる……逝ったな……無敵のあいつが……とうとう」
と言いながら、ナーニャに手招きして部屋の中へと入れる。
偽の地球の雑誌が積まれている室内で
セイとナーニャは隣に座り
ナーニャはセイから渡されたハンカチで顔を拭いながら
「ど、どうしよう……どうしよう……お父しゃん
本当に消えちゃった……私が呼びかけたんだけど……もう居ない……。
……ちゃんとお別れも……私、ひねてたから……」
「セイ様、ミイも消えてると何となく感じてるんだが……」
うな垂れながら言うセイに
ナーニャが真っ青な顔をして
「……う、そうかもしれない……。
色んなところで感じてた先生の生命力も薄れているような……」
「で、でもなナーニャ?
タカユキは必ず仕事を成し遂げる男だ。
悪のナカランはきっと倒したと思うんだよ。
セイ様達の世界もこれで、安心だ……うぅ……」
セイは顔を覆って、力なくそのまま上半身をベッドに横たえた。
「……どうしたらいいんだろうな……。
世界が平和になっても、あいつが居ないなら、何かつまらん」
天井を虚ろな目で見上げながら呟くセイに
ナーニャはしばらく言葉もなく固まり
意を決した顔で立ち上がると
「セイさん、時間停止したり黄金の炎を纏って色んな場所にワープしたりしてみよう!
もしかするとお父しゃんが見つかるかも……」
セイは慌てた顔で上半身を起こし
「まっ、待て!この船を危険に晒すぞ?
時間の修正者たちまで、消滅したかは分からん。
ま、まずは、みんなと話し合ってからだな……」
「そうだよね……」
ナーニャはまたベッド脇に座ると
力なくうな垂れた。
二人は支え合うように、邪神討滅号の操縦室まで通路を歩いて行き
たまたま操縦室内に集まっていたにゃからんてぃ、ワハ、銀海老
ペップ、そしてファイナたちに感じたことを伝えると
ペップの頭の上のにゃからんてぃが
「……これは今、君たち二人以外で話し合っていたことなのだが
少し前に、操縦席内のエネルギー観測機器類が
全て、異常な数値を叩き出したのだ」
ナーニャが俯き加減に
「お父しゃんが死んだから……?」
にゃからんてぃは首を横に振り
「いや、そうではないと思う。
まだ私の推測に過ぎないのだが、
ミイさんが囚われていた空間内に何らかの手段で
超高エネルギーを発生させ、破壊させたのだと思う」
「どういうことなんだー?
セイ様、もう哀しい話は聞きたくないぞ……」
にゃからんてぃは苦笑いして
「これも私の推測だが、多分ミイさんは
自らが囚われている閉鎖空間内に高エネルギーを
他の世界から招き寄せて、そして自らが消滅することで
それを様々なパラレルワールドにばらまいたのではないかと思われる」
「ミイ先生やっぱり……」
倒れそうなナーニャをワハと銀海老と
そしてファイナが三方から支える。
にゃからんてぃは真面目な顔になり
「……君たちの時間軸の鈴中美射という存在は
私が知っているどのパラレルワールドの美射さんよりも諦めることをしない。
但馬君もそうだが、しぶといという点では彼女に軍配があがるだろう」
セイが気づいた顔で
「つ、つまり、あのストーカーまだ何か……復活する方法を……」
にゃからんてぃは力強く頷いて
「そして、それらは我々が手助けをしないときっと不可能なままだ。
なので、邪神討滅号で反物質世界の地球の1557年の櫻塚一揆へと移動する必要がある。
簡単ではないだろうが、少なくとも但馬君だけならば消滅する前に助け出せるかもしれない」
「きっ、危険なんじゃないか?」
怯えたセイに、にゃからんてぃは真面目な顔で頷いて
「その通りだ。歴史の修正者たちの攻撃を受ける可能性もある。
なので、こちらも反物質対策など、準備を万端にして向かいたい。
そのためには、我々は一度、我々の時間軸のアグラニウスに戻り
山口君、山根さん、そして菅君を連れてくる必要がある」
怪訝な顔のセイの横でナーニャが理解した顔で
「お父しゃんとミイ先生とつながりが深い流れ人の三人が要るんだね!」
にゃからんてぃはペップの頭の上で深く頷いて
「その通りだ。ミイさんの願いが
アグラニウスに呼び込んだとも言える三人が必要だ。
彼らを現地に連れていければ
二人や、さらにはもしかするとシゲパー君を助ける何らかの切欠になるはずだ」
「キョウカはこっちの世界に居るんじゃないのかー?」
セイが首を傾げると、にゃからんてぃは
「いや、"流れ人"である三人が必要だ。
こちらの世界の彼女は、精神的な同調しているだけだ。本体ではない」
「そうかぁー……でも菅って、死んでるだろ?」
不安そうなセイに、ペップがニカッと笑い
「意識の底にしぶとく滞留してるって今聞いたにゃ。
そして、そのスガが一番、面倒だろうにゃ」
「彼は最後に回そう。さあ、皆さん、邪神討滅号でまずは
アグラニウスへと向かうぞ!」
いつの間にか元気になったナーニャが
「そうだね!!やるしかないよね!」
「セイ様は寝てていいかぁー?」
「ダメだにゃ!貴様も貴重な戦力だにゃ!」
「嘘だ……頑張りたいけどかっこつけたくないセイ様の微妙な機微を察していけ」
セイに本気で殴りかかろうとする血管を額に浮き出させたペップを
ナーニャが必死に止めている横で、ワハが
室内前方に並ぶ席の一つに座り
そして操縦桿をもって
「行きますよー!銀海老さん、虚数空間ドライブ起動です!」
ワハの横の席に座る銀海老が、拘束でパネルを押していき
そしてワハが操縦桿を前に倒すと
静かな振動と共に、邪神討滅号は動き出した。