Thermal camera5 サーマルカメラ5
議事堂内側から、扉をはげしくたたく音がする。
ジーンがそちらを振り向いた。
「……何があった、ウォーターハウス中尉」
横目でジーンの様子をうかがいつつ問う。
「まだ音だけであります、大尉。目視では異常なし」
ジーンがさらに横目でそちらを見る。
「やっぱ何かはあるよな。異常な何か」
「議事堂側は俺が見るから、アンはそっち注意してていいよ」
ジーンが言う。
「……何かホーンテッドマンションに入った気分になってきた」
アンブローズは窓ぎわのアンドロイドを凝視しつつボヤいた。
「あそこにいるゴーストの何割かはロボットだもんね」
「ほんものが何割いるか知ってるか?」
アンブローズは問うた。
「え」
しばらくしてから、ジーンがこちらを見る。
「ほほほ本物がいるでありますか、大尉」
「いいからそっち注視してろ」
アンブローズは目を眇めた。
「療養所での低周波の怪現象、うらやましがってなかったかおまえ」
「ほんもの見たさに興奮したであります」
そういうことかと思う。
「しかし何だかな。さらに面倒くせえことにならないうちに逃げたほうがいいかもな」
「一時撤退ですか、大尉」
ジーンが問う。
「それも想定しとけ」
「了解」
ジーンが答える。
窓のそとの夕日が強い陽光を投げかける。あとはあっという間に陽が落ちるだろう。
ゆるいものとはいえ銃撃戦が起こっているのにビルのスタッフすら駆けつけないこの状況をみると、陽が落ちたあとに電灯をつけてもらえるかどうか。
「いや……官公庁のあかりが一切つかなかったら異常事態ってことでニュースとしてあつかわれるよな。カモフラージュにとしてつけるか?」
アンブローズはひとりごちた。
「カモフラージュはありえるね。んで俺らが逃亡するルートだけつぎつぎ真っ暗にされる」
議事堂の扉をうかがいつつジーンが応える。
「ありうるな。えげつね」
アンブローズは眉をよせた。
「ライトついてる目玉って便利だよな」
「生身チームにもネコさんっていう真っ暗闇上等の方々がいるけど」
議事堂から、ドンドンドンと何かが扉をたたく音がする。
ジーンがそちらをうかがう。
「逆に考えよう。議事堂のあれはさきにサプライズで来ていた陸軍の仲間かもしれないと」
「サーマルカメラに青くしか映らねえ仲間とかいるか」
アンブローズは答えた。
「死体……」
ジーンがつぶやく。
「死体の援軍とかいらねえ」
「少しずつ温度上がってるかもしれないのは、何なんだろ、ほんと」
ジーンが眉をよせる。
「ゾンビか?」
アンブローズはそう答えてつい胸ポケットに手をやった。
ああ、吸えないんだったと思いあらためて拳銃を両手で持つ。
「つか、あのアンドロイドも窓ぎわから動かなくねえ?」
アンブローズはつぶやいた。
ジーンが横目でこちらを見る。
「こっちを牽制してあの位置なのかと思ってたが、あそこに何かあるとかじゃねえよな」
ドンドンドンと音を立てる扉をもういちど見てから、ジーンがふたたび横目でこちらを見る。
「そもそもカウンターマルウェアがあるから、判断力がしっちゃかめっちゃかの結果があの位置に固定なのかもしれないけど」
ジーンが言う。
「機械の地縛霊的な?」
そうと続けて大真面目に顔をしかめる。
「それも含めて、わけ分からん要素多すぎだな。――基本にもどるぞ。俺ら諜報担当は、情報収集とコッソリ工作が本分であって敵の殲滅が本分じゃねえ」
「了解、大尉」
ジーンが残り弾数を確認した。




