Thermal camera3 サーマルカメラ3
アンブローズのブレインマシンに、サーモグラフィーの画像が流れてくる。
空中に表示された画像を、できる限り邪魔にならないよう最小表示に調節した。
議事堂の内部らしき室内が、青色で染められている。
かなり古典的な画像だ。数十年まえの映画で見たような。
「ふる。おまえ、よくこんなん搭載された衛星知ってたな」
アンブローズは、こめかみに手をあてて顔をしかめた。
「一世紀まえから宇宙空間の衛星の放置って問題になってたけど、ひとむかしまえから回収速度あがってきたからね。やっぱ回収まえに傍受コンプリートしときたいじゃん?」
「じゃん」とか同意求めんなとアンブローズは内心で返した。
「放置されてても起動してんのけっこうあるのか。マジで放置なんだな」
主には経済的理由や、所有していた国の政治的理由だったりするのだろうが。
「でさ、超古代文明の衛星 “ブラックナイト” はわざとそのままって都市伝説があってさ。あれ乗っとってみたいんだよね……」
こいつの私的な趣味の話は、いちいち訳分からん方向に飛ぶなとアンブローズは思った。
毎回行き詰まった場面で突破口を作ってくれるところはありがたいが。
「んでこれ、何色が温度高いんだ?」
アンブローズは問うた。
特別警察のアンドロイドがこちらに向かって走りだす。
脚をねらって銃を撃ちつつ、ジーンを押してべつの壁のほうへと移動した。
「あー、たしか赤がいちばん高い? 白ってあったかな。赤のつぎが黄色?」
ジーンが床に手をついて体勢を立てなおす。
「赤が何℃から何℃で、黄色が何℃だ」
アンブローズは、ジリジリとこちらをねらうアンドロイドに向けてあらためて銃口を向けた。
「そんなのざっくりでしょ? 赤がものすごく熱くて、黄色がすごく熱い?」
「アバウトすぎてイライラする。タバコ吸いたくなってきた」
アンブローズはこめかみに手をあてて眉をよせた。
「やめて。もうタバコやめて! アン、ここ脱出したらカウンセリング行こ」
「保護者かおまえ」
サーモグラフィー画像の読みこみが進む。
議事堂内らしいが、全体が青色だ。
「青は何度だ」
アンブローズは問うた。
「温度が低い順から、ネイビー、ウルトラマリン、コバルトブルーってとこかな」
とうぜん同じものを見ているのだろう、ジーンが答える。
「……青だろ」
「青でも濃淡あるじゃん。濃い青ほど温度低くて」
アンブローズは眉をよせた。
「青っていわね?」
「アン、もしかして虹が六色とか四色とかって認識してるタイプ?」
アンドロイドがジリジリとこちらに近づく。
二人で壁側に寄りながら銃口を向ける。
「……ジャパンで七色とか言ってるのは教育過程で習った」
「んじゃ例えばドロシーちゃんが赤いドレスと朱色のドレスどっちが似合う? って聞いてきたら同じ色だろって答えちゃうタイプ?」
「そもそも聞いてこない」
アンブローズは答えた。
「兄さんの答えがもう分かってんだな、ドロシーちゃん……」
「んでこれはどういうことだ? つまり議事堂のなかは空っぽか?」
「んー」
ジーンがうなる。
「だからこそ録画なんて放送してんだと思ったら納得できるけど……念のため一分後に撮影した画像も読みこむ?」
「やれ」
アンブローズはそう指示した。
その間こいつを庇う手間はかかるがと思いながら、アンドロイドの動きを目で追う。
ジーンがこめかみに手をあてる。
「二枚目、読みこみます」
「ああ」
ブレインマシンに、青い室内の画像が少しずつ読みこまれる。
先ほどと変わりない。室内は濃淡のある青一色だ。
「青か……」
アンブローズはつぶやいた。
「やっぱ空か」
拳銃の残り弾数をたしかめる。
「よし、あのアンドロイド破壊して、カメラすべて誤射したら撤収。それで行くぞ」
ホールに広がる大きなガラス窓。外はそろそろ夕陽になりかけている。周囲のビルが端のほうからオレンジ色に染まりだした。
今後、影のできやすい夕刻から暗い夜へと変われば、裸眼のこちらは装備が必要になる。
明るいうちに撤収しようと思っていたが、時間食ったなと思う。
ジーンが眉をよせて、こめかみに手をあてている。
返事はない。
「了解だな? ウォーターハウス中尉」
どうせ同じ結論だろうと思い、アンブローズはかまわずジーンに背を向けた。
ややして、ジーンが作業着の裾を引っ張る。
「ちょっと待って、アン。ターコイズというかペールグリーンというか、ティファニーブルーというかの部分、気になるんだけど」




