Thermal camera2 サーマルカメラ2
「了解いたしました。万が一の裁判のさいには、あくまでも誤射であったと証言するであります、大尉」
こめかみに手を当てつつジーンが言う。
「よし」
アンブローズはそう返した。
威嚇射撃をしながらジーンのいる柱の陰に移動し、アンドロイドの動きを伺う。
議事堂のなかは、相変わらず静かだ。
「議事堂に入られたくなくて張ってるのかな」
ジーンがアンドロイドを横目で見る。
「どっちだろうな。まえにあれに会ったときは、議事堂に異変はなかった。ただの別動隊の可能性もあるが」
「エレベーターの火災報知器、思ったんだけどさ」
ジーンが切りだす。
「生身の人間を検知するためじゃないかなって」
アンブローズは、横目でジーンを見た。
カメラへの細工でアンドロイドのなりすましをさぐろうとしたアリスの先手を打って、特別警察側が生身の人間の侵入を監視している。
そういう構図に行きあたり、ゾッとする。
「ということは、ここはいつごろからか知らんが軍の人間は出入りしてないってことか?」
アンブローズは、特別警察のアンドロイドと議事堂の扉の両方を警戒した。
「そう祈りたいけど。軍の上層部はすでにこれキャッチしてて出入りしてない、それか知らなくて何人かはここで殺されてアンドロイドにすりかわっている」
ジーンが指を二本立てる。
「どっちだろ」
「前者祈りてえな……」
アンブローズは残り弾数をたしかめた。
「ブランシェット准将のなかの人がアンドロイドとか、夢に見そうだ」
「あー言われてみれば准将って、アンドロイド体が似合いそう」
ジーンが苦笑する。
「そういやまえにここ来たとき、合成コーヒーの匂いがしてて変だったって話したよな」
「話した」
ジーンが答える。
「ああいうところだよな。アンドロイドの人間のふりって、ほんと中途半端で気持ち悪いな」
「あー不気味のナントカってやつ」
ジーンが言う。こめかみに当てた手をわずかにゆらした。
「乗っとり完了。議事堂のなかのサーモグラフィー撮影に入ります」
ジーンが、チラッとアンドロイドのほうを見る。
「アン、そのあいだお願い守ってね、はぁと」
「……おまえ囮にしてカメラぜんぶ誤射したあと、逃げりゃいいんだよなといま思った」
アンブローズは柱の陰から顔を出し、特別警察アンドロイドの様子を伺った。
「俺がいなくて、あのエレベーターのなかで禁煙できる?! さっきうっかり吸っていいかとか聞いてきたアンが?!」
「イラつかなきゃ大丈夫だ」
アンブローズはそう返した。
「わが国における大逆罪は、女王陛下に対する重大な背信行為を内容とする犯罪で未遂、予備にとどまらず極刑と――」
そう法律の文章を口にしながらアンドロイドがこちらに突進する。
アンブローズは、ジーンを背中で押して庇った。
ピンヒールを履いた脚をねらうが、すばやい動きでなかなかなかなか狙いが定まらない。
「アンってわりといつもイラついてないいい?!」
「上官ディスってないでさっさと撮影しろ」
アンドロイドが、もよりの柱を垂直にのぼる。
ピンヒールで柱を蹴りつけると、頭上から二人を襲った。
ジーンを突き飛ばして床に仰向けになり、アンドロイドのみぞおちを蹴り上げる。
蹴った瞬間に金属の噛み合わせがズレたような感触があったが、さほどダメージにはならなかったのか、アンドロイドが床に膝をついて着地する。
「おっとぉ」
ジーンが後方の床に片手をつく。
片手はこめかみに当てたままだ。あんがい余裕だなとアンブローズは思った。
「撮影完了! あとは読みこみを待つだけなので応戦に加わるであります、大尉」
ジーンがヒップポケットに手を回し拳銃を取りだす。
アンブローズの背後から、特別警察のアンドロイドに向けて銃をかまえた。
「読みこみ途中におまえが死んだら手間だ。こっちと共有しろ」
拳銃に弾をセットしながらアンブローズは告げた。
「アン……あのさあ」
ジーンが背後でひきつり笑いをしているような声を出す。
「マジで言ってる」
アンブローズはそう答えた。
「んもう。縁起でもないったら」
ジーンがふたたびこめかみに手を当てた。




